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Trip.comグループの最新戦略を取材した、2025年は「高齢者層/イベント/新興市場」に注力、デジタル観光促進へ基金創設も

世界大手OTAトリップ・ドットコム・グループ(Trip.com Group)は、2025年5月下旬、中国・上海でパートナー向けイベント「ENVISION2025」を開催した。スペシャルゲストとしてサステナブル旅行を推進する非営利団体「トラバリスト(Travalyst)」創設者の英ヘンリー王子が登壇し、AIをはじめとするテクノロジーの活用が多く言及されるなど、サステナビリティとイノベーションを強く印象付けるイベントとなった。

また、イベントには、世界74カ国から宿泊施設や航空会社などパートナー約3100人が参加し、そのうち約12%が日本からの出席者。トリップ・ドットコムの日本市場重視の姿勢と期待の高さも伺えた。

リャン会長:3分野でイノベーションを推進

トリップドットコム・グループのジェームズ・リャン会長は、トリップ・ドットコムのイノベーションについて、「効率化、サステナビリティ、体験の3つの分野に分かれる」と説明。効率化では、同社が実装したAIトラベルアシスタント「TripGenie」を挙げ、「ユーザーの旅行体験を向上させている」とその能力に自信を示した。

サステナビリティでは、二酸化炭素排出量削減など環境面での取り組みに加えて、技術革新を通じた地域コミュニティの持続可能性の大切さを訴えた。

体験では、さまざまなイノベーターとの協業を通じてユニークなデジタル旅行体験の創出に投資していく考えだ。

リャン会長は、「旅行とイノベーションは世界経済にとって不可欠な原動力であり、人類にとって最も意義深く充実した追求の一つ。イノベーションは、すでに旅行業界を前進させている」と強調。そのうえで、新たに1億ドル(約143億円)にのぼる「Tourism Innovation Fund」を立ち上げることを表明し、今後「革新的なアイデアを実現していく」と意欲を示した。

具体的には、この基金を通じて、デジタルフェスティバルや没入型グルメイベントなど、知名度の低い観光地を世界に発信し、文化観光を促進する大型プロジェクトを支援するほか、Tourism Innovation Award(観光イノベーション賞)」を創設し、持続可能性、テクノロジー、文化遺産、観光地開発などの分野で革新を遂げた個人や団体を表彰する。

世界中のパートナーを前にトリップ・ドットコム・グループの方針を説明するリャン会長

スンCEO:「イベント」「高齢者層」「新興市場」に注力

トリップ・ドットコム・グループのジェーン・スンCEOは、2024年の実績について説明。2024年第1四半期には海外旅行予約がパンデミック前の120%以上にまで回復し、「世界中のパートナーに大きな価値をもたらした」と話した。

スンCEOは、大きなビジネス機会がある一方で、地政学的リスクや経済的不確実などの課題にも言及。そのうえで、2025年は3つの「E」に焦点を当てていくことを明らかにした。

一つは、スポーツ観戦、コンサートなどを目的とした旅行が増えていることから、イベント(Event)関連の旅行に力を入れていく。二つ目は、経済的にも時間的にも余裕がある「高齢者層(Elderly)」向けの商品を充実させ、特にオフシーズンでの送客に注力していく。三つ目は、新興市場(Emerging markets)。「そこにはとてつもない可能性がある」として、新しいデスティネーションへの送客に取り組む方針を示した。

スンCEOは、「トリップ・ドットコム・グループの戦略とコミットメントは一貫している。常に『人』を中心に据えて、イノベーションとテクノロジーを駆使していく」と表明。「旅行には予期せぬ出来事がつきものだが、それが起きた時も、トリップ・ドットコムはいつも旅行者のそばにいる」と強調した。

「常に『人』を中心に据えて、イノベーションとテクノロジーを」とスンCEO

サステナビリティの観点で、鉄道事業の拡大を

また、同グループはサステナビリティの観点から、鉄道事業にも力を入れていく。同グループ国際鉄道担当CEOのデニス・リー氏によると、欧州の鉄道チケット販売は2019年から2024年にかけて1857%増と急伸。今後は、欧州内で北欧、中欧、東欧、アジアで日本、韓国、東南アジアでの路線開拓を進め、鉄道チケットの取り扱いを拡大していく考え。リー氏は「快適な移動、グリーンでサステナブルな移動として鉄道の販売に力を入れていく」と強調した。

ENVISION2025の会場には鉄道事業のブースもこのほか、同グループ・バケーション担当CEOのレイ・チェン氏は、同社のAIについて、「ユーザーとパートナーにとってウィン・ウィンのエコシステム」と発言。ユーザーにとっては、プライベートツールとして自分好みの旅行を柔軟に作成することができ、パートナーにとっては20年以上にわたって蓄積されたデータが有効になるとアピールした。

※ドル円換算は1ドル143円でトラベルボイス編集部が算出