旅行テックの国際会議「WiT Japan & North Asia 2025」では、米国の旅行調査会社フォーカスライトと航空データOAG社が、北東アジアの旅行マーケットに関する最新データを共有した。
フォーカスライトは、北東アジアの旅行市場(総予約額)が2024年に513億ドルとなり、コロナ禍後、初めて2019年の459億ドルを上回る見込みであることを紹介。2027年には600億ドルとなり、年間6%増で成長するとの予測を示した。OAGは、世界の旅行者の移動に欠かせない航空機の座席供給量や航空機の発注数に関するデータなどから、今後の北東アジア市場を展望した。
モバイルの浸透、OTAが旅行市場の伸長を牽引
フォーカスライトのリサーチマネージャーであるコニー・ドングレ氏によると、北東アジアのオンライン旅行市場は、旅行市場全体の回復に歩調をあわせて拡大。北東アジアの全旅行予約に占めるオンライン予約の比率は、2019年に34%、2024年には52%に拡大し、オンライン予約が過半数を占めるようになった。2027年には59%にまで拡大すると予測している。
北東アジアでオンライン旅行がまだ伸びるとする背景には、モバイルのさらなる浸透がある。ドングレ氏は韓国、台湾、香港、マカオの4市場について、インターネットの浸透率が韓国の97%を筆頭に9割超と高いことを指摘。モバイルの浸透率は100%を超え、香港に至っては235%と1人2台を使いこなしている。
ドングレ氏は「(北東アジアの)旅行者はモバイルで常に接続されているので、オンラインが最も賢い予約方法になる」と説明。そして「100%電子チケットになる。地域の中でスタンダードになっていく」と展望した。
オンライン旅行予約を牽引しているのは、若い世代。それを後押しするのが、様々なテクノロジーを使ってサービスを拡充するトラベルブランドだ。それにより、「単純にプロダクトを提供しているだけではなく、(サービスを利用するユーザーの)ロイヤルティも上げている」と説明した。
オンライン旅行予約に占めるOTAのシェアは、2019年は36%でサプライヤーの直販(64%)に水をあけられていたが、2024年には48%まで上昇し、2027年には52%となって逆転すると予測。「OTAはオンライン予約において、非常に大きなドライバーとなっている」と指摘した。
北東アジアのオンライン旅行市場はOTAがシェア逆転へ。サプライヤー直販もボリューム自体は拡大:発表資料より
今後、オンライン旅行で注目されるテクノロジーは何か。ドングレ氏はまず、VRとARを上げ、「旅行計画の段階でVRを使う機会が出てくる。ARは、リアルタイムの翻訳やナビゲーションサービスなど体験を高めるようなテクノロジーになっていく」と展望。
もう1つはフィンテック。その理由は「新しい決済方法は、すでに旅行者のプラットフォームに入っている」(ドングレ氏)から。もちろん、生成AIも「大きな役割を果たしていく」と話し、「トラベルの未来はオンラインにある」と締めくくった。
フォーカスライト リサーチマネージャー コニー・ドングレ氏
航空機の発注は世界トップ、予想を覆すLCCの成長も
航空関連のデータから、北東アジア旅行市場の今後を示唆したのは、OAGアビエーションのアジア太平洋地域統括であるマユール・パテル氏だ。
パテル氏によると、アジアの航空座席供給量は「コロナ禍からの回復の途上」であり、2019年比0.5%増と全世界の伸びを下回る推移。北東アジアは同1.3%増でアジア全体よりは増加しているものの、コロナ禍前に予測された10%以上の推移には遠く及ばない状況だと話した。
ただし、航空機の新規発注では、北東アジアは今後5年間で2100機の導入が見込まれ、世界トップの地域だという。パテル氏は、航空機の平均座席数を200席、1日6便・年間330日運航した場合での仮定のもと、「2030年の年間の座席数は8億2100万席と試算できる。ただし、発注分の35%は旧機との入れ替えとなるため、正味5億7500万席が伸びる」と、北東アジアにおける航空旅客の成長余地を示した。
北東アジアは、航空機の発注で世界トップの地域:発表資料より
さらに、北東アジアでは世界の航空各社のキーパーソンの予想を裏切る意外な成長がみられているという。それは、LCCだ。現在、北東アジアの航空座席の3席に1席はLCCとなっている。
2023年に開催された、ある国際イベントには、パテル氏のほか多くの航空会社のCEOが登壇。パテル氏によると、そのイベントで各社のCEOは「国や都市間に距離のあるアジアは、欧州や米国と比べ、LCCはうまくいかない」との予測を示していたという。
この革命を引き起こしているのは、韓国。各国のLCCのシェアは、中国では11%、日本では20%にとどまっているのに対し、韓国は44%で全世界平均(30%超)を上回っている。
パテル氏は、北東アジアは「最も保守的で慎重な市場」としながらも、「LCCは今、勢いづいており、輸送能力を伸ばしていくことが見込まれる。新しい機材の70%はLCCに提供される」と話した。
OAGアビエーション アジア太平洋地域統括 マユール・パテル氏