トラベルボイストラベルボイス | 観光産業ニュース 読者数 No.1

民泊エアビーCEOが語った、サービス領域の拡張戦略、「体験」「サービス」「ホテル」で再設計、エージェンティックAIも本格化へ

米大手民泊エアビーアンドビー(Airbnb)の共同創業者兼CEO、ブライアン・チェスキー氏が、2025年9月に開催された国際カンファレンス「スキフト・グローバルフォーラム(Skift Global Forum)」に出演し、成長戦略を語った。宿泊を核とするAirbnbの事業を「体験」「サービス」「ホテル」へと拡張し、さらにAI技術を全面的に取り込んで旅行体験を再設計する構想だ。観光産業メディア「Skift(スキフト)」創業者ラファット・アリ氏との対談でチェスキー氏が明かした未来戦略を聞いてきた。

同氏はまず「投資家はアイデアではなく結果を買う」と切り出し、「これは長期戦になるが、必ず成果に結びつける」と強調。コロナ禍で一時的に停滞した事業領域を再び活性化させるために、どのような戦略を描いているのかを詳細に示した。

宿泊から「サービス」へ、需要拡大を狙う新領域

チェスキー氏は、Airbnbが2025年5月に「サービス」領域へ参入したことを説明。具体的には、滞在先でシェフを呼んで料理を提供してもらう、スキーリゾートでマッサージ師を手配する、あるいは雲海の広がる宿でヨガ講師を呼ぶといった内容だ。広告キャンペーンでもこれらの利用シーンを前面に出し、宿泊や体験に「サービス」を加えることでAirbnbの利用価値を高める狙いを強調した。

チェスキーCEOは、「ホテルが選ばれる理由の一つは『サービス』だ。我々が、これを提供できれば、ホテルに流れていた需要をAirbnb(民泊)に取り戻せる」と述べた。宿泊体験に付随する利便性を提供することで、従来、ホテルを選んでいた旅行者をAirbnbに取り込もうという戦略だ。

また、Amazonが「段ボール箱に入るモノ」を中心に成長してきたことを例に挙げ、「世界には“サービスのAmazon”が存在しない。ワンタップでサービスを呼べる世界的なアプリはまだない」と指摘。サービスを束ねる世界的プラットフォームの不在をチャンスと見ていることを明かした。

さらに、「サービス」の利用者は旅行者だけでない。ロサンゼルスでの試験運用では、約1割が地元住民による予約で、日常的な利用が広がる兆しがあるという。「ローカル利用はまだ広告を出していない。この段階でも自然発生している」と話し、今後の成長余地を強調した。

「サービス」のカテゴリーは、まず10種類で開始。利用傾向としては「当初、シェフやパーソナルシェフが中心になると予想していたが、実際にはマッサージやパーソナルトレーニングなどウェルネス関連の需要が強い」という。チェスキー氏は「市場の反応を見ながら、さらに数十のカテゴリーへと展開できる」と見ており、柔軟に拡張していく方向性を示した。

体験事業の再構築:「Airbnb Originals」とSNS戦略

2016年に開始したタビナカ体験「Airbnb Experiences」は、パンデミックを契機に大規模な投資が停止した経緯がある。しかし、チェスキー氏は「今回は本気で投資する」と明言し、再成長に向けた取り組みを改めて打ち出した。

再構築の柱は複数ある。

第一に、マーケティング強化。これまでは宿泊を中心に広告を展開してきたが、今後は宿泊に加えて「体験」や「サービス」を同一広告に盛り込み、「一つのアプリで全てができる」というAirbnbの総合性を訴求する方針だ。

第二に、供給面の強化をあげた。従来の体験提供者の中から、実績あるホストを厳選して、新たに「Airbnb Originals」と呼ばれるカテゴリーを立ち上げた。これは著名人やインフルエンサーが企画・提供する独自体験で、話題性と集客力の両面で効果を狙う。同氏によると、Airbnb Originalsでは約4割の予約が自都市でおこなわれており、地元住民の需要喚起に直結しているという。

第三はSNS時代への対応だ。初期の体験事業は写真中心の拡散に依存していたが、現在はTikTokやInstagramの動画拡散が主流。チェスキー氏は「体験そのものが動画で共有されることで大きな流通経路となる」と述べた。

さらに体験市場を三つの層で再定義する。

(1)初めて訪れる旅行者に向けたランドマーク観光、(2)再訪時に求められるローカル体験、(3)地元住民が参加するユニークな交流体験、という三層構造である。これにより、初訪問者からリピーター、ローカルまで幅広く取り込みを図る。

チェスキー氏は「既存の大手が10億ドル規模の市場を築いている。我々が本格的に投資すれば、Airbnbも同規模の事業に成長できる」と自信を見せた。

オンラインから出演したブライアン・チェスキーCEO

ホテル再強化とグローバル展開

Airbnbは、2019年にホテル当日予約「HotelTonight」を買収し、ホテル領域へ参入していたが、パンデミックが発生して計画は停滞していた。今回、チェスキー氏は「ホテル事業を本格的に再強化する」と宣言し、独立系やブティックホテルの取り込みに注力する方針を示した。

アプリ上では「Homes」タブを「Stays」に広義化し、ホームとホテルを横断的に表示するカルーセルを導入する方針。まずはニューヨークなど数都市で試験展開を行う。これにより、利用したい「Airbnbの施設がなければ、他社サイトでホテルを探す」というユーザーの流出を防ぎ、Airbnb内で完結させる狙いがある。

さらに手数料体系を一本化した。従来は、ゲストとホスト双方に手数料が課され、最終的な支払額がわかりにくいという不満があった。新たな仕組みでは、ホストに15.5%を課し、ゲストは手数料ゼロとした。チェスキー氏は「コーヒーショップのように“値札が一つ”であるべき」と説明し、価格透明性の重要性を強調した。

グローバル展開も加速させる。現在、売上の約7割が米国、カナダ、オーストラリア、英国、フランスの5カ国に集中しているが、「残りの多数の国々で浸透できれば成長は大きく加速する」との考え。具体的には、2026年のFIFAワールドカップ(米・加・墨)を契機に供給拡大を図る計画だ。

AIが変える旅行体験、「エージェンティックAI」への期待

チェスキー氏はAIについても、詳細に語った。

すでに米国ではAIによるカスタマーサポートを導入し、「問い合わせの半分を自動解決する」という成果を上げている。今後は検索体験を刷新し、従来のフィルター検索から「対話型でニーズを引き出す仕組み」へ移行する。

「アプリは、すべてAIアプリに変わる。我々もAI企業にならなければ生き残れない」と強調した。同氏が特に注目するのは「エージェンティックAI」。エージェンティックAIとは、は質問に答えるだけでなく、ユーザーの代わりに行動を起こすAIで、旅行領域では「宿泊や体験の予約、変更、サービス手配を自動的に実行するデジタル・コンシェルジュ」としての役割を果たす。

ただし、完全自動化ではなく「利用者が候補を見て選べる」設計を重視する点も強調した。そして、チェスキー氏は「Airbnbアプリはコンシェルジュのように半自動で旅を設計する」と述べ、人間とAIの協働による新しい旅行体験の実現を展望した。

日本市場への言及

対談の終盤、チェスキー氏は日本市場についても言及した。「Airbnbにとって日本は依然として最も魅力的な市場の一つだ」と語り、日本特有の旅館文化や地方の潜在需要に期待を示した。

同氏は「ワールドカップのような世界的イベントと同様に、日本でも国際的なスポーツや文化イベントを通じて供給拡大のチャンスがある」との考えを示し、訪日需要が高まる日本市場での事業拡大を視野に入れていることを明らかにした。

取材・執筆 鶴本浩司