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エクスペディア・グループCEOが語った、「旅行の未来をつくる」変革と戦略、BtoB事業の拡大からAI導入の指針まで

エクスペディア・グループCEOアリアン・ゴリン氏は、さきごろ開催された国際カンファレンス「スキフト・グローバルフォーラム」で、スキフト創業者兼CEOのラファット・アリ氏との対談に臨んだ。就任から1年余りの歩みを振り返りつつ、同社の技術統合とブランド戦略を解説した。

ゴリン氏は「すべての企業は常に変革し続けていくもので、どこまでいっても完了ということはない」と述べ、同社が運営する複数ブランドにまたがる顧客IDの統合(One Key )、決済や在庫管理などバックエンドの刷新を通じてAI時代に備えていると強調した。

また、エクスペディア、ホテルズドットコム(Hotels.com)、民泊サービスであるバーボ(Vrbo) の3ブランドについて「Expediaはバンドルで節約できるワンストップ、Hotels.comはホテル特化の頻繁に旅行する人・非管理型の出張者向け、Vrboはバケーションレンタル(一棟貸し民泊)の純粋プレー」と整理。共通基盤を持ちながらもブランドの個性を際立たせる戦略を進めていると説明した。

B2B事業は拡大、API・テンプレート・旅行会社プラットフォーム

対談では、同社のもうひとつの成長の柱であるB2B事業について掘り下げた。

ゴリン氏は「世界で6万の旅行会社を支えている」と述べ、その構成を三つに分けた。第一はホテルAPI(Rapid)、第二は供給とフロントエンドを一体で提供するテンプレート型、第三は旅行会社向け大規模プラットフォーム。一例として、デルタ航空のホテル提供が同社の仕組みによることも明かした。

さらに広告ビジネスについて「私たちは世界的なトラベル・マーケットプレイスとして、旅行者、パートナー、広告主のすべてを成功に導き、完璧な旅と事業成長を実現することに力を尽くす」と語り、B2B・広告双方を成長のエンジンに位置づけた。

米国の消費者事業(BtoC)が第2四半期に1%成長にとどまった点については、市場の軟調を理由に挙げしつつ、「ブラジル、北欧、英国、日本は当社にとっても旅行産業全体にとっても成長が速い」と、海外市場強化の方向性を示した。

エクスペディア・グループのアリアン・ゴリンCEO

AI導入は「自らを再発明する次の波」、一方で “人の手”サポートも

AIの導入について、ゴリン氏は「AIは、私たちが自らを再発明する次の波である」としながらも、「すべてがエージェンティックAIに置き換わるかはまだ分からない」と慎重さも見せた。

実際の実装は、レビューやプロパティQ&Aなど既存導線への「点的導入」が中心で、「そのほうが転換のスピードに結びつきやすい」と語った。チャットの利用傾向については「外部チャットから来る人々は発見段階が進んでおり、よりエンゲージしている」と述べつつ、結論を急がずテストを続ける考えを示した。

一方で、人の介在を重視する姿勢も鮮明だ。ゴリン氏は「テクノロジーがすべてを解決するわけではない。誰かに連絡したい場面は必ずある」と述べ、返金不可の宿泊プランで日付を間違えて予約をした顧客への対応の事例を紹介。「電話でホテルに事情を説明して、その場で解決した。人による信頼は、今後も重要」と強調した。

さらに「AIオーバービューではクリックアウトが減るが、質は高い」と述べ、プラットフォームの変化に柔軟に対応する姿勢を示した。マーケティング費用については「消費者事業の売上比で競合より高い」と認めつつ、「旅行者の獲得・維持、One Keyの強化、ブランド差別化のため必要な投資」として、GoogleやTikTokなど人々が旅行計画を始める場所への投資を継続する方針を語った。

統一ロイヤルティプログラム「One Key」とは? 

エクスペディアグループの統一ロイヤルティプログラム「One Key」については、「One Keyは、初回予約からOneKeyCashというポイントを獲得することができ、2回目で横断的に利用できる」とゴリン氏。その一方で、たとえばHotels.comの場合は「10泊で1泊無料」というサービスが選ばれる大きな理由になっているとして挙げ、ブランドごとに得意とする特徴があると言及。そのうえで「共通通貨とクロスプラットフォームの利点を維持しつつ、各ブランドに合わせて最適化する」との方針を示した。

Vrboの成長については「もっと速く成長させたいのは確か」と述べ、当日割引や1週間滞在などの新施策を導入したことを紹介。さらに「Vrboの在庫をExpediaやB2Bネットワークで流通しやすくしている」とし、ホテル分野での成功モデルをバケーションレンタル(民泊)に広げる意欲を示した。

最後に、エクスペディアの組織文化は「『何を言うか』ではなく『何をするか』」と強調。シアトル本社で吹き抜けを望む中央オフィスを選んだ理由を「チームが見え、私も見られる場所にいたい」と説明し、顧客の声への傾聴やパートナーとの面談を自ら行う姿勢を語った。

供給と価格帯の幅広さについても「当社とパートナーの供給は多様で、ラグジュアリーから手頃な価格まで幅広い選択肢を示せる」と述べ、イベント需要について「人々はイベントを理由に旅をする。私たちはブランドを適切に見せ、旅行先選びをサポートする」とした。

※編集部注:AIを活用した「エージェント」という言葉は、英語(Agentic AI、AI Agent)でも、日本語(エージェント型AI、AIエージェント)でも、まだ用語定義が定まっていません。現時点で確立されていない新用語のため、表現に揺れが生じます。

取材・執筆 鶴本浩司