高頻度で旅行する層と旅行に行かない層への、旅行需要の二極化が指摘されている。そんななか、旅行の自覚がないまま、特定の体験をするために移動や宿泊をする消費者が一定数存在するという調査結果がLINEヤフーから示された。同社は、彼らを「隠れ旅行者」と名付け、需要を取り込むには「訴求の起点を『どこに行くか』から『何をするか』へと組み替える必要がある」と提案する。
2026年2月下旬に開催したトラベルボイスLIVEでは、LINEヤフーと日本航空(JAL)の担当者が出演。観光事業者や地域は、体験のための移動・宿泊を“旅行”と認識せずに消費するようになった消費者に、どのようにアプローチできるのか。旅行者の実態とその変化の要因、さらに、JALのLINEを活用した対策事例など、ウェビナーで語られた2026年の観光マーケティング戦略のヒントをレポートする。
“旅行”の自覚のない消費者の実態
ウェビナー前半は、LINEヤフーの平田硯嗣氏が、各種調査の結果から分析した旅行者の実態を解説し、2026年の観光ビジネスで注目すべきマーケティングのヒントを提供した。観光庁の旅行・観光消費動向調査によれば、旅行需要の二極化の傾向は鮮明に表れており、年に1回以上旅行をする人の旅行回数が増加する一方で、年に1度も旅行をしない人は全回答者の50.5%まで拡大している。
しかし、LINEヤフーが全国約3万人を対象に実施した独自アンケート調査によると、「直近1年以上、宿泊旅行をしていない」と回答した人のうち41.5%は日帰りで、31.4%は宿泊を伴う移動をして、何らかの「体験」をしていた。
その内容は「温泉」「テーマパーク」「スポーツ観戦」など、レジャーの要素が中心。ところが、自らの行動を「旅行」と認識していた人は日帰りで13%、宿泊を伴う場合でも28%にとどまった。
平田氏は「観光関連のサービスを利用しながら、自身の行動を“旅行"とは捉えない客層を、当社では『隠れ旅行者』と定義した」と説明。彼らにとって、移動や宿泊は趣味や休息といった体験を叶える手段に過ぎない。そのため、従来の非日常の“旅行”の訴求では響かない。
ただし、平田氏は「逆にいえば、体験を起点に提案を組み替えれば、取り込める余地がある客層ともいえる」と指摘。提案時のキーワードは「ニーズに合った情報配信」と「顧客体験の向上」だ。そして、日常生活の延長線としての視点も重要になる。
例えば、20代の推し活層への宿泊施設の情報は、コンサート会場からのアクセスの利便性など、目的となる体験の質を高める価値を打ち出す。さらに、タビマエである日常から接点を持ち、顧客の興味や状況にあわせた情報に絞って継続的に出すことで、顧客がその体験をする際に成約につなげやすくする。その際は「LINEヤフーが提供するLINE公式アカウントが、そのツールに向いている」と推奨した。
「隠れ旅行者」への情報配信。興味に刺さる内容が重要。日常から継続的に提供し、接点を持つ工夫が求められるさらに平田氏は、顧客との接点づくりに関して、事業者がモバイル上での情報提供や予約決済の動線設計をしやすくなる変化に触れた。2025年12月施行の「スマホソフトウェア競争促進法」の影響だ。
平田氏は、この自由度を生かす手段として、LINE上で動く「LINEミニアプリ」の活用を提案。離脱要因となるアプリのダウンロードや都度のログインの手間を抑えたサービス提供や、会員証やクーポン、予約といった機能をシームレスに提供でき、タビマエからタビアトの接点における障壁を減らせる。実際、会員サービスをLINEミニアプリに連携したことで、LINEミニアプリ経由で会員となった数が、この3年間で約4.4倍に拡大した企業もあったという。
左から)LINEヤフーの平田硯嗣氏、トラベルボイス代表の鶴本浩司
JALのLINE活用1:「隠れ旅行者」にリーチするヒント
では、消費者が求める「ニーズに合った情報配信」と「顧客体験の向上」に向け、大手企業はどう対応しているのか。ウェビナーの後半では、日本航空(JAL)の顧客接点の戦略について、同社のマーケティング担当である小島史也氏がLINE公式アカウントを中心とした取り組みを共有し、LINEヤフーの鈴木直人氏が解説をした。
JALは2013年からLINE公式アカウントを運用しており、友だちの数は約1000万人にのぼる。当初は全登録者に一律のメッセージを配信していたが、「自分に関係ない通知を煩わしく感じる方もいたと思う」(小島氏)。その結果、費用対効果が見合わないという課題があった。
この課題を打破したのが、セグメント配信だ。まず、LINEヤフーが持つ検索行動データとツールで、各ユーザーの興味関心にあわせたセグメントを作成。それをLINE公式アカウントに連携することで、ユーザーのニーズに合致するメッセージを配信する。
事例の1つが、JALバスケットボールチームの観戦ツアーだ。「関心のあるユーザーが限定される商品。LINEヤフーのデータから『バスケ関連キーワードを検索している層』を抽出して配信した」(小島氏)。スポーツ観戦は旅行だと認識されにくい体験だが「スポーツと旅行の組み合わせを、うまくデータを使って訴求した例だと思う」と、LINEヤフーの鈴木氏は補足する。
セグメント配信は、属性が明確な旅行でも有効だ。ビジネスクラスを利用した海外ツアーでは「海外旅行への興味」に加え、「40歳以上」「年収1000万円以上」といった属性を掛け合わせ、利用が見込めるユーザーに配信。その結果、全配信と比較して開封率は126%、クリック率は130%に向上した。「ターゲットを絞り、ニーズに合致した情報を届けることで、良い反応が得られる」と小島氏は手応えを語る。
セグメント分けをし、彼らの興味関心にあわせた内容の配信でアプローチしている
JALのLINE活用2:予約離脱の防止と顧客体験の向上
また、JALでは、顧客との1to1(ワントゥーワン)のコミュニケーションを目指した取り組みを推進している。Yahoo! JAPANとLINEのID連携をし、JALの会員サービス「JALマイレージバンク」(JMB)にLINEログインを追加。JMBのログイン時の利便性の向上と、顧客データを活用した情報配信が目的だ。
これにより、ユーザーはIDやパスワードを入力することなく、日常使いしているLINEアカウントでシームレスにログインと予約が可能となった。予約時の離脱の主因である「ログインや会員登録の手間」の解消につながる取り組みだ。
さらに、ID連携によって、JALの自社データも情報配信に活用することが可能になった。これを活用し、JALは海外ダイナミックパッケージのキャンペーンを実施。ターゲットに、LINEヤフーによる属性や興味・関心を示すデータだけではなく、JALが持つ直近3年間の国際線搭乗の実績データを加えた。「よりお客様のニーズにあった情報配信が可能になることに加え、これまで届けられていなかった方にも配信できるようになった」と、JAL小島氏は手ごたえを話す。
左上から時計回り)トラベルボイス鶴本、LINEヤフーの鈴木直人氏、JALの小島史也氏このほかJALでは、顧客体験向上にもLINE公式アカウントを活用している。2024年から、予約便の搭乗に関する案内をおこなう「JALインフォメーション」アカウントの本格運用を開始。LINEの通知メッセージ機能で、運航情報から空港での手続き案内などをリアルタイムで発信している。その結果、オンラインの事前チェックインが促進され、空港の混雑緩和にも寄与。LINEヤフーの鈴木氏は「LINEが日常接点になっているからこそ、通知が自然に見られ、その後の行動もしやすい」と説明する。
JALでは、タビマエからタビナカ、タビアトまで、2つのLINE公式アカウントで1to1のコミュニケーションを深めている。「日常使いされているLINEだからできること。各段階で、パーソナライズされたメッセージを配信することで、次の旅行を検討いただく。こうしたサイクルを考えている」と小島氏は話す。
タビマエからタビアト、そして次のタビマエへ。JALが考える顧客とのコミュニケーションの取り方
日常に溶け込む観光マーケティングへ
最後に、トラベルボイスの鶴本浩司代表がセミナーを総括。JAL小島氏が今後、顧客との日常接点や満足度を高める観点で、JALアプリ上でガチャや搭乗ログなどを提供する構想があると話したことに触れ、これらを「ゲーミフィケーション」の手法だと紹介した。ゲーミフィケーションは、ユーザーが楽しみながら自発的にアクションを起こすように促す仕掛けであり、「現代のデジタルマーケティングで、顧客との関係性を深めるための有効な手法の一つ」と解説した。
Q&Aセッションでは、自治体の視聴者から「関係人口(定住未満、観光以上)」へのLINE活用について、質問が寄せられた。
LINEヤフーの鈴木氏は「訪問者との継続的な関係構築が重要になる。その部分は、まさにLINE公式アカウントが得意とするところ。訪問者との接点をLINEに集約し、継続的なコミュニケーションが可能になる」と回答した。
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記事:トラベルボイス企画部