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観光産業を「働き手に選ばれる産業」にするには? 他産業との人材循環、成長を実感できる職場づくりを議論 ―TEJ2026シンポジウム

日本の観光産業における諸課題について考えるテーマ別シンポジウムが、「ツーリズムEXPOジャパン(TEJ)2026」のカンファレンスプログラムの一環として開催された。日本観光振興協会が主催する国内観光シンポジウムは、「働き手に選ばれる観光産業へ」をテーマに、価値創造型観光と人材・キャリアの未来を議論。人口減少による人材獲得競争が激化するなか、若い世代を含む多様な人材が挑戦したいと思える産業への転換が提起された。その要点をレポートする。

世界有数の観光ポテンシャルと人手不足のジレンマ

まず、早稲田大学大学院経営管理研究科研究科長・教授の池上重輔氏が「観光を持続的に『働きたい産業』に 〜価値創造型観光を支える人とキャリアの未来〜」 と題して基調講演をおこなった。

池上氏は国際観光事業の世界規模がいま話題の半導体産業をはるかに凌駕する1.9兆ドル(日本円で約285兆円)に達し、世界経済を牽引する重要産業となっている状況を紹介。日本は世界経済フォーラム(WEF)の潜在的な観光競争力ランキングでは第3位(2024年版、最新の2026年版で日本は1位)につけているものの、「文化資源や農水産業・工芸・製造業などの強みをまだ活かしきれていない」と指摘し、今後の成長が期待されるとした。

一方で、少子高齢化に伴う労働力不足が産業の足かせになっている。池上氏はこの問題に対し、日本観光振興協会が2026年6月に公表した中長期的なビジョン「2040年、日本を価値創造型観光大国へ」について言及。池上氏はビジョン検討会の座長を務めてきた経緯があり、ビジョンの軸として、従来の訪問客数や消費額といった指標に代わり、訪問客と地域双方の価値を高める「価値密度」という概念に再定義したことを強調した。

価値密度の最適化とは、来訪者数を増やすべきか(量)と単価を上げるべきか(質)という二項対立を超え、地域ごとに最適なバランスを設計するもの。池上氏は「全国一律の正解はない。各地の実情に合わせて、『住んでよし、訪れてよし、働いてよし、事業・投資してよし、自然・文化によし』のサイクルを回し、相互に高め合う効果を出すためには、瞬間風速的な各項目の利益相反ではなく、より長い時間軸で考えること、つまり未来志向であることが大切だ」とし、観光は「五方よし」の産業へ転換すべきと述べた。

基調講演に登壇した、早稲田大学大学院経営管理研究科研究科長・教授の池上重輔氏

客数から関係性へ、各社が進める地域連携

パネルディスカッションでは池上氏がファシリテーターを務め、前述の中長期ビジョンを踏まえながら航空、鉄道、ホテル、DMOといった各パネリストに、観光の価値密度最適化や価値創造型観光に関する取り組みの現状報告と意見を求めた。

これに対し、東日本旅客鉄道(JR東日本)マーケティング戦略部地方開発・流動創造ユニット副長の松木絢香氏は、2026年7月に同社が実施した「2本部10支社体制」から「12支社36事業部」への組織変更を紹介。そのねらいについて、「地域との連携が重要との観点から、各地域とのつながり強化の一環としての組織改革だった」と説明した。

R東日本マーケティング戦略部地方開発・流動創造ユニット副長の松木絢香氏

地域との強固なつながりづくりを重視する姿勢は各社に共通する。日本航空(JAL)ソリューション営業本部関係・つながり創造部戦略グループアシスタントマネジャーの伊藤翔次郎氏は、JAL独自算出の「関係・つながり値」に基づく目標設定を紹介。「地域を知り人とつながれば、もっと知りたいと感じる。1000人が1回ではなく、100人が10回訪れるような、何度も地域を訪れる関係人口を創出したい」と語った。

JALソリューション営業本部関係・つながり創造部戦略グループアシスタントマネジャーの伊藤翔次郎氏宿泊・地域の現場からも具体策が示された。西武・プリンスホテルズワールドワイド 新横浜プリンスホテル ファイナンシャルコントロール部門アシスタントマネジャーの杉田喜紀氏は、日帰り客が多い横浜のエリア特性を踏まえ、「滞在満足度の向上と、街と連携した魅力的な商品提供の両面で宿泊・連泊の促進に取り組んでいる」と述べた。

長野県観光機構専務理事の佐藤啓介氏は、観光地経営の司令塔を担うDMOの立場から「観光の経済効果を域外に逃さないためにも、宿泊・観光施設等で使う食材などの域内調達強化を意識している」とし、地域経済への還元を重視している姿勢を示した。

定着率向上と他産業との人材循環

セッション後半では、人手不足への対応に欠かせない「観光産業におけるキャリアイメージの形成」についても議論が交わされた。

伊藤氏は観光産業の裾野の広さに触れ、「エアライン業務を想定して入社したが、現在は関係人口づくりという大きなやりがいのある仕事に携わっている。活躍の場面の多彩さは魅力として訴求できる」と話した。松木氏も「専門性を深める道も、幅広い分野で経験を積む道もあり、舞台も国内外を選べる。キャリアの選択肢の広さが特徴だ」と同調した。

一方、現場の課題として杉田氏は定着率向上を挙げ、「毎日が同じ仕事の繰り返しだと感じさせず、成長を実感できるようにすることが重要。企業側が学ぶ機会を提供し、スキル向上の重要性を伝える努力を積極的におこなうべき」と訴えた。

西武・プリンスホテルズワールドワイド 新横浜プリンスホテル ファイナンシャルコントロール部門アシスタントマネジャーの杉田喜紀氏さらに、約90人規模のDMOを率いる佐藤氏はキャリアの出口論に言及。「観光産業出身者が他の産業でも活躍できる環境がなければ、キャリアの中で一度観光業に携わってみるのもいいと思ってもらえない。他業界からの参入を促すためにも、観光から他産業へ、そして再び観光産業へといった流動性が当たり前になるべきだ」と話した。

長野県観光機構専務理事の佐藤啓介氏

こうした議論を受け、池上氏は「何がバリアになっているのかを特定し、取り除くことが先決。そのうえで回転ドアのように、産業間の連携を活かしながら一度外に出て再び戻ってくるような人材の循環ループをいかにつくるかが重要だ」と総括した。