米観光産業ニュース「フォーカスワイヤ」は、サステナブル旅行を推進する非営利団体「トラバリスト(Travalyst)」の新たなCEOに就任したジュリー・チータム氏に、現在の活動やAIによる環境負荷への影響などについて聞いた。2026年6月に開催されたフォーカスライト・ヨーロッパ2026の会場でインタビューを実施したものだ。
トラバリストは、2019年にハリー王子(サセックス公爵)が設立。現在、グーグル、ブッキング・ドットコム、エクスペディア、トリップ・ドットコム、ビザなどがパートナーとして参画している。
旅行業界共通のデータセットの構築を
チータム氏は、地政学的な情勢やAIなどのテクノロジーの進歩による消費者の行動など、ここ数年で旅行を巡る環境は変化しているが、「サステナビリティに関する議論が消滅したわけではない」と話す。
チータム氏は、昨年発表されたデロイトのサステナビリティ・レポートを例に、「経営層のサステナビリティへのコミットメントは低下するどころか、むしろ高まっている」とした。一方で、サステナビリティに関する議論の焦点は変化しており、かつて見られたような気候変動対策やDEI(多様性・公平性・包摂性)などから、収益の創出、リスク管理、効率化など、より直接的に「最終利益」に関わる議論へとシフトしているとみている。
そのなかで、旅行業界でも「様々な危機から生じるリスクを管理するための行動や投資は確実に実行されている」と話した。
チータム氏は、トラバリストの活動の中核となるデータについても説明。旅行業界は非常に細分化されているため、「単一の信頼できる情報源が存在しない」ことから、「誰もが学び、活用できる共通のデータセットを構築できれば、それは非常に大きな力になる」と強調した。
そのうえで、信頼できるデータ共有の例として、トラバリストとグーグルが共同開発した「トラベル・インパクト・モデル(Travel Impact Model)」を挙げた。これは、航空移動に伴う環境負荷(フットプリント)のデータを共有するもの。現時点で1600億回以上の旅行検索で旅行者に提示されているという。
AI活用とサステナビリティとの関係は
チータム氏は、AI活用とサステナビリティとの関係についても言及した。
AIによるプラスの影響として、あまり知られていない目的地への誘客や、個々の旅行者に合わせた旅程の提案、観光のオフシーズンや端境期(シーズン前後)の旅行促進、マルチモーダル(複合的)な移動の提案などを挙げたうえで、「AIはより責任ある、より良い旅を促進するうえで大きな役割を果たせる」とした。
一方、AIの課題として「信頼できる情報かどうかの判断」があることから、トラバリストでは最近パートナー企業とAIに関する内部ワーキンググループを立ち上げたことを明かした。また、増加の一途にあるAIデータセンター自体が生み出す環境負荷にも業界を挙げて取り組む必要があると続けた。
乱立する認証制度、EUの規制で改善へ
チータム氏はサステナビリティを推進していくうえで、依然として課題となっているのが認証制度が乱立していることを指摘。「状況は依然として複雑だが、業界全体で改善や統合の動きが見られ、非常に期待が持てる」と話し、認証制度の最低要件を見直すEUの規制を評価した。そのうえで「世界の他の地域もそれを参考にし、やがて追随することになるだろう」と見通した。
チータム氏は、サステナビリティへの取り組みには大きく分けて2つの側面があったと指摘。一つは消費者向けの曖昧な情報で、主にマーケティング、ブランド、PRチームが主導してきた。もう一方は、第三者の監査を受けた、財務報告レベルの質の高い情報開示。チータム氏は「両者の違いは急速に埋まりつつあり、テクノロジーの進化のおかげで、やがてその差はなくなるだろう」との考えを示した。
若い世代で高まるサステナブル旅行への意識
このほか、チータム氏は、「旅行者のサステナビリティに対する意図と実際の行動が一致し始めているという兆候が見られる」と発言し、OTAによる調査結果を紹介した。ブッキング・ドットコムの最新調査によると、旅行者の85%が、よりサステナブルな旅を選ぶと回答し、特に若い世代でその傾向が強く表れている。エクスペディアの調査では、Z世代の旅行者の91%が、環境や社会への懸念が旅行の選択に影響を与えると回答し、Z世代とミレニアル世代の旅行者の94%が、混雑する時期を避けた「オフピーク」での旅行を前向きに検討している。
SNSの影響についても、「ある種の均衡が自然と生まれつつある」と指摘。「SNS映え」する瞬間を求める気持ちは変わらないものの、「日常生活を送る地元の人々にとって、その行動が何を意味するのか、より意識するようになってきている」と話した。
最後に、今後のサステナビリティの活動について、「より官民の連携が大切になってくる」とする一方、「民間パートナー、規制当局、業界団体と調整を行いながら、テクノロジーの進化に遅れず、トラバリストの取り組みの信頼性と整合性を保ち続けることは、難しい挑戦になる」と明かした。