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米・トラベル業界誌が選んだ2018年「ニュースな企業」トップ3と、来年の注目ポイント【外電】

企業ブランドのイメージや、利用者・同業者からの評判は、さまざまなできごとが積み重なり、時間をかけて少しずつ形成されていく。消費者が受ける印象は、もちろん変わることもある。企業側が戦略やマーケットでの立ち位置を大々的に方向転換したいなら、それも可能だ。

新規事業や新サービスの投入に伴い、大々的なプロモーションを展開し、話題のブランドになることはあるし、その後、あっけなく忘れられてしまうこともある。

※編集部注:この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事について、同社との提携に基づきトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

一方、創業から何年も経っていながら、常に影響力を維持している企業もある。そのためには、時代のニーズを正しく理解する能力が必要だ。また、新サービスやパートナーシップに踏み切り、同業やライバルが従来型のビジネスを見直さざるを得なくなるほどのインパクトを与える力量も求められる。

残念ながら、自社のビジネスや顧客層に大打撃となる不運なできごとに見舞われて、当初の計画通りに物事が進まなくなる場合もある。

ただ、いずれの場合も、そのできごと自体は大きなニュースであり、話題の企業となる。

フォーカスワイヤは、間もなく終わる2018年を振り返り、この12カ月間、特定の事業領域にとどまらず、旅行産業全体に大きなインパクトを与えた企業ベスト3を選んだ。

ランキングの第3位から発表しよう。

第3位:マリオット/スターウッド 関連記事

2年ほど前、ホテル業界の大手2社が合併して超巨大ホテルチェーンが誕生した。そのメガチェーンが、まさかPRやテクノロジーで大打撃を受け、その対処に追われることになろうとは、2018年が幕開けした時点では想像もつかなかっただろう。まさしくデジタル時代ならではの典型で、セキュリティの防御を突破されたら、経済系から大手メディアまで、あらゆるニュースで取り上げられてしまう。

ただしこのケース自体は、非常に特異だった。

マリオットが2018年11月末に明らかにした内容によると、同社へのサイバーセキュリティ攻撃は、規模的に過去最大だった上、様々な側面でネガティブな意味で想定を上回るものだった。

まず、流出した情報量がすさまじい(顧客5億人分)。さらにハッカーが盗み出したデータの種類も、事態が深刻化する原因に。旅行業界だけでなく、あらゆるビジネス関係者が事態を注視する騒ぎとなった。

さらに、ハッキングは4年もの歳月をかけて着々と行われていた。つまり、始まったのは合併より前ということだが、問題が発覚したのは2018年9月(もっと早いはずと疑う声もある)。こうした経緯から、原因究明を巡り、ハッキングの探知方法だけでなく、そもそもなぜこんな事態を招いたのか、といった批判や疑問が噴出した。

この事件の話題は、まだしばらく続きそうだ。当局の捜査によって、詳細が解明されることを願う。法的な対応措置が今後も続き、GDPR(データ保護法)が初めて大々的に適用されるケースや、最終的に解雇される人が出てくるかもしれない。

 

第2位:グーグル 関連記事

「またグーグルか」という声が聞こえてきそうだ。今年話題になった企業に同社を選ぶのはあまりに安易で、イマジネーションの欠如と批判されるかもしれない。

だが残念ながら、そうではない。

ここ数年と同様、切り口によっては、グーグルをランキング第1位に選んでもおかしくないぐらいだ。

グーグルを今年のニュース・ベスト3に選んだのは、何か一つの画期的なできごとや発表があったからではない。同社が旅行サービスの領域で、少しずつだが、着実に進めている展開がもたらすインパクトを考慮した結果だ(もちろん公式には、グーグルは検索サービス大手であり、旅行関連企業ではない)。

グーグルはまず今年初め、旅行プロダクトの進化に向けて、それなりに重要な第一歩を踏み出した。

ここで登場したのは、フライト、ホテル、そして旅のインスピレーションとなる要素(Explore)を一か所にまとめる機能。ユーザーがあれこれ検索しているとき、同じ日程やデスティネーションを何度も入力する手間を省こうというものだった。

Google:報道資料より

同じナビゲーション・バーで、画像付きの詳細情報をいくつもチェックしたり、「トリップス(Your Trips)」をクリックして、Gメール経由でこれまでに受け取った予約情報を確認することができる。

この新機能の登場を皮切りに、それ以降、グーグルはできる限り、あらゆる旅行関連のサービスを一つのプラットフォームに集中しようと動いている。デスクトップかモバイルかは関係ない。

こうしたグーグルの動きを、気にとめない旅行関係者もいるし、巨人を蹴落とすなんて無理だと考える人も多い。しかし、これは脅威だと認識するべきだ。

他にもグーグルが今年、取り組んできたことは色々ある。いずれも大きな話題にはなっていないが、様々な形で影響は出ている。

例えばホテル検索サービスでは、ユーザーが客室を決めて予約できるようになった。グーグルの検索結果ページでは、物件の表示方法が変更された。

そして2018年4月には、ツアー&アクティビティ関連のプロダクトも扱うようになった。

ひっそりと行われたテスト運用を経て、2018年9月から「ツーリング・バード(Touring Bird)」が本格的に稼働を開始した。今のところ、揺籃期の新規事業アイデアを担当する部門、エリア120がオペレーションにあたっているが、だからといって安心しているならお気楽すぎる。早晩、グーグル・フライトやホテル事業に移行されて、人員も増員されると考えるべきだろう。

最後に、指摘しておきたい。地球上のあらゆる旅行関連企業が、マーケティング予算を最も投下している相手こそが、グーグルだ。

一方、(グーグルは)獲得した資金を投じて、収益をもたらす相手と競合するプロダクトを開発している。非常にスマートだが、いらいらさせられる。だが、この奇妙な産業エコシステム(少なくとも業界の外から見る限り)は、まだ終わりそうにない。

今年のニュース大賞:エアビーアンドビー 関連記事

エアビーアンドビー(Airbnb)の話はもう飽きた、という人も旅行業界には多いかもしれない。

エアビーが軽いくしゃみをしただけでも、メディアがこぞって記事を書く状況に、少々うんざりという人は少なくない。

今でも主要メディアがエアビーを取り上げるときは、旅行業界にさっそうと登場したクールでイノベーションにあふれたブランド、という扱い方だ(読者のみなさんの立ち位置によっては、それがいらいらの原因とも言える)。

同じくシェアリングエコノミーを標榜するウーバーは、政府当局から目の敵にされるのに、エアビーアンドビーに対しては、そうでもない。社風にまつわる芳しくない話でダメージを受けることもない。

順風満帆とは言わないが、2018年はエアビーアンドビーにとって、大きく前進した一年だった。

Airbnbブライアン・チェスキー氏(提供:AP通信)

今年の新たな展開により、同社の旅行業界におけるポジションそのものが変わった。同社の戦略が成功すれば、ここ数年間のオンライントラベル市場において、極めて重要な転換期のひとつになるかもしれない。

2018年2月、エアビーアンドビーでは、一般利用者やメディア向けの商品発表会をサンフランシスコで開催し、2028年までに年間ゲスト数10億人突破を目指す方針を打ち出した。

この発表に、今までならホテル業界は戦々恐々としただろう。だがエアビーアンドビーが照準を狙い定めているライバルは、別にある。

フォーカスワイヤのインタビューで、共同創業者のブライアン・チェスキー最高経営責任者(CEO)は、エアビーアンドビーの敵は、ホテルや他の民泊事業ではなく、OTAだと話した。

「我々のライバルは2社、エクスペディアとブッキングドットコムだ。これから10年どうなっていくか、すごく楽しみにしているよ」とチェスキーCEOは話した。「誤解しないでほしいんだが、まだあと数十年はこの会社でやっていくつもり。ただし、やり方は考えている」。

チェスキー氏がこのコメントをする2週間前、エアビーアンドビーは、ホテル流通事業への参入を公式に発表しており、OTAとの対立構図がますます鮮明になった。

要はエアビーアンドビーがOTAに一矢報いた、とも言える。ここ数年、OTA各社は、続々と民泊事業へ参入し、拡大を続けてきた。エクスペディア・グループは2015年、ホームアウェイを39億ドルで買収し、ブッキングドットコムは個人所有の取扱い物件を何千、何百と増やしてきた。

当然、エアビーアンドビーへの影響は甚大であり、同時にOTAという存在に着目するきっかけにもなった。

一方、(2年以上が経過しているものの、鳴かず飛ばずの)フライト取扱い事業や、エアビーアンドビーが株式市場へ上場するタイミングについては、特に言及はない。

経営トップたちによる弁舌の応酬や、消費者ニーズ、ブランド各社に求められていることなどに関する少々軽めの分析ばかりが溢れている昨今、うっかり見失いそうになるが、忘れてはいけないのが、旅行産業におけるダイナミクスを抑えておくことだ。

最近は「エクスペリエンス」についての議論がにぎやかだ。曰く、昨今の旅行者は何をやりたいのか、その手段は、などなど。だが、旅行産業の本質はプラットフォームであり、プラットフォーム間の陣取り合戦が今までも、これからも続いていく。

エアビーアンドビーが2018年、この戦場に足を踏み入れた。

 

選外佳作

「ニュースな企業」を選ぶ作業は、当然ながらかなり個人の主観が反映されることを了承いただきたい。

2018年、上記3社に負けず劣らず、重要な展開があった企業を以下に挙げる。

※編集部注:この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事について、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:PhocusWire's newsmakers of the year 2018

著者:ケビン・メイ著