世界のタビナカ業界で起きている変化とは? 激動期のツアー&アクティビティ市場における、主要各社の動きを読み解いてみた【外電コラム】

体験ツアーやアクティビティ予約など、タビナカに着目した事業はこれまで、個人事業や少人数による零細企業がサービスを提供するのが常だった。つまり、「ミニマム(必要最低限)の規模」で回ることが可能な市場だった。しかしここにきて大手が本格参入し始め、そのビジネスモデルにも変化がもたらされようとしている。

このコラムでは、先ごろ米ラスベガスでおこなわれたイベント「Arival(アライバル)」を通じてみえてきた、ツアー&アクティビティ業界のこれからの動向について考えてみたい。

※この記事は、英デジタル観光・旅行分野のニュースメディア「DestinationCTO」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

トリップアドバイザーは自社システムの優位性を強調

このイベントはタビナカ業界に特化して展開されているもので、開催は昨年に続いて2回目。体験ツアーやアクティビティを手掛ける企業などから50名以上がスピーカーとして参加した。

今年、来場者やメディア多くが注目したのは、現地アクティビティ予約「ビアター(Viator)」からブランド名を変更した「トリップアドバイザー・エクスペリエンス(TripAdvisor Experiences)」がステージでおこなった発表。トリップアドバイザーはここで、自社独自の予約システム「ボークン(Bokun)」を使うことで、他のシステムを活用するツアーサプライヤーよりも優位的立場になれると明言した。

しかし、私がこのイベントで注目した再重要ポイントはほかにある。それは、「エアビーアンドビー・エクスペリエンス(Airbnb Experiences)」や「ゲットユアガイド(GetYourGuide)」、「トリップアドバイザー・エクスペリエンス」、「ブッキング(Booking)」のすべてが初めて同じ戦略を採用し、いずれも他社に先駆けて遂行すべく競争を始めようとしていることだ。

これらのサービスのうちの一部、またはすべて新たな戦略で大規模な成功を遂げれば、これまでサプライヤー側の技術企業が取り組んできたすべての仕事が無駄になってしまうだろう。これまで業界で築かれてきたことが「ひっくり返される」事態にもなりうる。

「ミニマム」な事業規模で存続可能な業界とは?

小規模企業でも存続可能な業界を実現するためには、独立して取引を行い、それぞれが十分な収益を生み出すことによって、自らを長期にわたり維持することのできる小売業者(オンライン旅行代理店)、サプライヤー、そしてサプライヤーの技術プラットフォームが不可欠だ。

しかし、フェアハーバー(Fareharbor)とボークンがブッキングとトリップアドバイザーに買収され、ボークンの技術価格が販売収益の0.1%にまで下がり、ゲットユアガイドが自社ブランドでツアーを実施するようになったこの数ヶ月間で、この業界は、「ミニマム」な規模で存続可能な業界ではなくなってしまった。直前までは、まさに小規模事業者が中心となって成立する市場の出来上がりつつあり、関連企業はそれを前提にして規模の拡大を始めていたのに、だ。

いつか今の状況を振り返る時、私たちは、これまで皆で作り上げてきた「ミニマムな規模で存続可能な業界」を破壊したのは小売業者だったことに気付くのだろう。

さて、話を戻そう。イベントでは、そもそも何が話されたのか――。

短期的視点:「フェアハーバー」と「ボークン」は単なるエクストラネットになる?

トリップアドバイザーが「ボークン」の優位性を訴えた発言と同様に、ブッキングも「フェアハーバー」について同じような発表を行っている。

ブッキング社はまず、トリップアドバイザーのようにサプライヤーが利用している予約システムに基づいて「ランク付けすることはない」と明言して来場した聴衆から喝采を浴びた。その代りブッキングは、顧客にとってベストなやりかたでランク付けをおこなうつもりだという。素晴らしい。それなら納得がいく。

しかし、フェアハーバー以外の予約システムを利用するツアーサプライヤーもブッキングのプラットフォームにリストされるのか、という質問に対する答えは、次のようなものだった。「おそらく。現在はまだ検討中で、今日発表できることはない」。

つまり、ブッキングはフェアハーバーを使用するサプライヤーには、他のサプライヤーより有利な条件を与え、今のところすぐにその状況を変える予定はない、ということだろう。そして、トリップアドバイザーがボークンを利用するサプライヤーを優遇する一方で、ブッキングはフェアハーバーのサプライヤーを優遇する、という流れになるのではないかと私は推測する。

この状況が意味することは何か。ツアーサプライヤーは独立した既存予約システムに加え、さらにボークンとフェアハーバーのアカウントも持つ必要があるというのなら、ボークンやフェアハーバーは単に「高価なエクストラネット(相互接続できる社外システム)」という位置づけになるのではないだろうか?

ツアー販売の流れを紹介しよう。あなた自身でリテーラーの視点になって考えてみてほしい。特定のツアーサプライヤーをフェアハーバー、ボークン、そのほかの予約システムから選ぶことができるが、各システは「我こそがサプライヤーにとってベストな情報源だ」と主張する。これに伴い、技術手数料のさらなる押し下げが進み、サプライヤーはその時々でもっとも有利な予約システムに絶えず接続しかえる事態になる。当然、リテーラーにはさまざまな面倒や摩擦が起こる。

オーバーブッキングも起こりうる。なぜなら、複数の予約システムがツアーの在庫を持ち、いずれのシステムからも常に予約を受けるから。この問題があるから、業界はここ数年にわたって「エクストラネット」の概念からから離れるよう取り組んできたというのに。なんということだ!

おそらく、ブッキング社ではいずれ他のシステムにも接続できるようになり、この混乱から抜け出せる日も来るだろう。だが近い将来そうなると私は思わない。今は買収したフェアハーバーの話で手一杯だからだ。ブッキングは「おそらく」と回答したのだから、いつかはそうなるのだろうと期待して、様子を見てみよう。

長期的視点:セクターの「垂直化」が発生?

1年以上の長期で見ると、ここまで書いた話は「次」に向かうための、とっかかりに過ぎないことがわかる。

前述のとおり、エアビーアンドビー・エクスペリエンス、ゲットユアガイド、トリップアドバイザー・エクスペリエンス、ブッキングらが、初めて同じ戦略の上に立った。この戦略は「ビジネスセクターの垂直化」であり、交通サービスでいうところのウーバー(Uber)やリフト(Lyft)が見本となる。

ウーバーらは消費者向けブランドでありながら予約プラットフォームと運用技術基盤をもち、「配車」という物理的な実対応もおこなう。そういった意味で、複数サービスが横連携するではなく、特定ブランド傘下で「垂直型」に展開されるビジネスモデルといえる。

これまでツアー&アクティビティ業界は、リテーラー(OTA)、サプライヤーの技術プラットフォーム、そしてサプライヤーによる水平型の連携モデルに構築されてきた。しかし将来的には、リテーラーが自社ブランドをもち、自社が管理する技術プラットフォームを使って独自ツアーを運営、販売するようになるという考えだ。

他社を先駆け、すでに「ゲットユアガイド」は自社ブランドツアーを始めた。これは、自社ブランドのツアー「のみ」扱うAirbnbと同様だ。ブッキングとトリップアドバイザーはツアー予約システムを買収するという手段をとったが、いずれ自社ブランドの体験ツアーを始めるに違いない。

既存の(買収されていない)サプライヤーの技術プラットフォームは、業界が「水平展開」するという前提でのみ成り立つ。アクティビティ業界が、タクシーとウーバー、リフトなどのように「垂直化」していくのなら、共通利用可能な技術プラットフォームは必要でなくなる。これが、予約システムを提供する(まだ買収されていない)サプライヤーがリテーラーとの調整を積極的に進めない理由の一つだろう。「垂直化」に向けた長期構想は、プラットフォームの今後の行く末も左右する。

ほかのプレイヤーはどうなる?

他のキープレイヤーはどうなるのだろうか。

グーグル:グーグルは「TouringBird」というメタサーチサービスを運営しているため、実のところ、下位階層にある業界の構成が水平でも垂直でもどうでもよい。私自身が少し前に書いた見解とは反しているが、業界が垂直方向に向かうとすれば、グーグルの「TouringBird」におけるリテーラーとの関係性は、ポジショニングとして全く正しいといえる。

エクスペディア:エクスペディアのローカルエキスパートサービス担当バイスプレジデント、ジェン・オトムニー(Jen O’Twomney)氏は壇上で、「予約システムを持たずにニュートラルな立場にいることが、競争の上で有利になる」と述べた。業界の水平構造が続くとすればこれは全く正しい。だが、もし業界が垂直方向にシフトしていくなら、この優位性は成り立たない。

結論

業界の何もかもが水平方向から垂直方向にシフトするのだろうか。いや、おそらくそうなることはないだろう。しかし、この考え方は重要だ。

ツアー&アクティビティ市場では、消費者向けのテクノロジーの目的はタビナカの時間の「費やし方」を手助けすること。一方、対サプライヤーではサプライヤーの時間を「節約する」のが大事だ。

マーケティング担当者、プロダクトマネジャー、ストラテジストなどを抱える大手リテーラーの視点はどちらか一方に偏りがちであり、それが、「水平型」で構築されてうまく機能してきた理由のひとつではあるのだが――。今後の行く末は非常に興味深い。

これからビジネスを「垂直化」する際に不可欠なのは、消費者にうまく時間を「使ってもらう」こととサプライヤーの時間を「節約する」方法の両方を知り尽くすシニアエグゼクティブを雇用すること。そんな幹部を確保するのはなかなか難しいが。

いや、もしかしたら業界は水平構造のままかもしれない。

一つ言えるのは、われわれの業界はいま、かつてないほど「ミニマムな規模でうまく機能する」状態から遠ざかってしまっているということだ。

※編集部注:この記事は、英デジタル観光・旅行分野のニュースメディア「DestinationCTO」に掲載された英文記事を、同編集部との提携に沿って、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事:What is the minimum viable industry in tours & activities? #ArivalEvent

著者:アレックス・ベインブリッジ(DestinationCTO 創設者)

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