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群馬県桐生市がスマホ位置情報ゲームで観光促進、新たな賑わいを取り戻す地方都市の挑戦を取材した

2017年 3月 24日 カテゴリ:デジタル , ニュース , 取材レポート , 国内旅行

群馬県東部に位置する桐生市は古くから絹織物の産地として栄え、江戸時代には幕府直轄地・天領にもなった街だ。日本を代表する繊維産業の街として発展したが、近年は人口減少の悩みを抱え、県内有数の少子高齢化都市に。地域経済の活性化は重要課題となっている。そんな桐生市が市内を舞台に、GPSを活用した街探索型の観光ゲームを独自開発し、2017年1月から提供を開始した。

街に新たな人の賑わいを作り、観光客の回遊を促す。多くの地方都市が目指すこのミッションに、ゲーム開発でどう取り組んでいくのか?ゲームを通して桐生観光を体験しながら、プロジェクトの仕掛け人に話を聞いてきた。

桐生を知るきっかけに

桐生市の街探索型観光ゲーム「2116 feel and color」は、同市への観光客を呼び込み、観光スポットや商店街の回遊を促進する目的で開発。同市出身のゲームクリエイター、殿岡康永氏(ニュートロンスター代表取締役)の発案のもと、国の地方創生加速化交付金8000万円を受け、地域一体で推進する戦略プロジェクトの一環として実施するものだ。

ゲームはシナリオから、完全なオリジナル。100年後のキリュウ・シティに住む少女「ユキ」のSOSを受け、人の心まで支配を目論む世界企業アルカード社を倒し、未来の街とその人々を救うというSF風のストーリー。落ち着いた桐生の街のイメージとは対照的なビジュアルとテーマに設定したのは、「若年層に刺さるよう、とにかくエッジを効かせた」(殿岡氏)のが理由だという。

桐生では現在、織物産業で栄えた昔ながらの街並みと文化を組み合わせた観光整備を進めており、シニアの観光客が訪れる流れができつつある。そのため、今回のプロジェクトでは、観光地の桐生を知らない若年層がターゲット。観光客はもちろん、「地元の若い人にも、魅力を知ってもらうきっかけにしたい」(桐生市産業経済部産業政策課課長補佐・石原智貴氏)という思いもある。

*アプリの画面。左がゲーム中のユキからのメッセージ、右のマップで自分の位置と次の目標値を確認して進む

ゲームのアプリをダウンロードしたら、次々に発せられるユキのメッセージに従い、スタート地点の桐生駅から9つのチェックポイントを通って、市内某所にあるアルカード社を目指す。

道中、市内に仕掛けられたスマホを反応させる位置情報機器(ビーコン)に近づくと、ユキからのメッセージを受信したり、ゲームのミッションとしてクイズが出題される。答えは、その周辺を探すことで見つかる内容にしているのが「街探索型観光ゲーム」のポイントの一つ。「桐生に来ていただくため、その場にいなければわからない内容にした」(殿岡氏)という思惑もある。こうしたゲームの仕掛けを発信するビーコンの数は市内96か所に及ぶ。

ユキのメッセージを読んだり、ミッションの指令に応えてクイズの答えを探したり。ゲームに引き込まれるまま実際に歩くのは、地元に密着した店が並ぶ商店街や重要伝統的建造物群保存地区内の「有鄰館」といった桐生の見どころを繋ぐコース。ゲーム開発では、場所の魅力と、どの場所でどんなクイズがあると面白いかという、観光とゲームの2つの観点でロケハンをして内容を決めた。

外部の人を交え、新たな見方で設定したコースには、地元の人でも気づかなかったような場所やモノに焦点があてられ、ミッションの題材になっていることも。「なぜこんなところにこんなものがあるんだろうと、桐生に関心を持つきっかけになる」と、石原氏も自信を示す。

ミッションはクイズだけではなく、アクション指令も。写真は脇道の探索指令

そんなゲームを実際に筆者も体験してみた。

事前調べやガイドブックも不要に、ゲームをしながら見どころに連れて行ってもらえるのは、仕事がら旅行に出ることが多い筆者にとっても便利で面白い体験だった。ゲーム内で、もう一歩踏み込んだ観光案内がほしいと思うこともあるが、ゲームを目的に来た若者がターゲットであることを考えると、むしろこのくらいの方が自然に興味を掻き立てられるのだろう。

殿岡氏は、「『2116 feel and color』は、桐生を再発見できるコースでもある」と、もう一つのテーマを明かす。実は桐生市でも、消費の場が商店街から郊外型ショッピングセンターへと移り、街の歴史や伝統になじみのない若者が増えている。「ゲームで街を回った達成感のなかで、桐生を好きになってもらえることを目指した」と殿岡氏。ゲームを入口に、若い世代と桐生を繋ぐ、そんな役割も担っている。

ハイライトはプロジェクションマッピングでの体感ゲーム。アルカード社の悪者「ヴァンパイアD」と対決

 

独自ゲーム開発の利点と課題

自治体によるGPSゲームでの観光誘客は、「ポケモンGO」をはじめ「イングレス」や「駅奪取PLUS」「ステーションメモリーズ」などの既成ゲームの活用や、人気アニメなどの既存コンテンツとのコラボが一般的。桐生市が行なった自前でのゲーム開発は、挑戦的な取り組みといえる。

独自開発を選んだ理由を殿岡氏は、「地域密着型のゲームにするため」と説明する。

これまで「東京迷宮パズル」「京都妖怪絵巻」など、多くの参加型GPSゲームを開発し、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2011」でファイナリスト選出などの経歴を持つ殿岡氏は、以前から、スマホとコンテンツを組み合わせたGPSエンターテイメントと街づくりの可能性を考えてきた。ただし独自開発の場合、「お金と時間をかけて桐生に来ていただくので、それ相応の面白さを作ることが大切。そしていかに認知を高めていくか」(殿岡氏)という課題もあわせ持つ。

ゲームのコースで訪れた桐生天満宮。日光東照宮の彫刻を行なった職人による見事な作品

実は、ゲーム制作は2016年度事業として4月からスタートしたため、制作期間が短く、リリースに向けたPRの時間を十分に持てなかった。この状況のなか、運営を担当するNPO法人キッズバレイでは、プレスリリースやSNSでの発信を実施。さらに、告知の幅と体験者による拡散効果を広げる目的で、ゲーム体験と機織りや藍染めといった桐生の伝統体験を組み合わせた、現地集合/解散の街歩きガイドツアーを企画し、「トリッピース」や「TABICA」などで参加者を募った。

ゲームは、スマホだけで気軽に参加できるのが利点だが、ツアーは必ず人のガイドが同行し、一緒にゲームをするのがポイント。代表の星野麻実氏は「桐生の魅力をより体験するためにも、ぜひ交流をしてもらいたい。人から話を聞く楽しさや新鮮さを、ゲームを介して知ってもらうことができれば」と、その狙いを語る。

散策中にも街の歴史を感じる景色に出会う

街探索型観光ゲーム「2116 feel and color」のダウンロード数は、提供開始した1月12日からの約2か月で約1000件(3月11日現在)。オフシーズンの冬期の実施であることを踏まえ、現状には一定の評価をしている。ゲームは3月31日で一区切りとなるが、4月以降の継続も前向きに検討。旅行会社とのパッケージ企画や新たな事業者の参入促進、エリアの拡大など、「横の展開を広げたい」(殿岡氏)と意欲的だ。

一方、同事業の一環で同時に開発したスマホアプリ「桐生市観光ガイド」は4月以降も継続する。アプリではテーマの異なる3つの観光コースを掲載。対象店舗への訪問時にクーポン配信などを行なっているが、今後はさらにゲーミフィケーション要素を増やすアップグレードを予定している。

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取材協力:NPO法人キッズバレイ

取材・記事:山田紀子(旅行ジャーナリスト)