地図は観光と地域をどう変えるか? 周遊促進から担い手の「手応え」まで、データ活用の可能性を聞いてきた

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観光需要の創出や誘客、消費拡大に向けたデータ活用やDXが求められるなか、ツーリズムEXPOジャパン2026では「観光を通じて地域にどのような未来をつくるのか」を起点に、データやデジタル技術の使い方を考えるパネルディスカッションが開催された。主催は、地図製作・位置情報サービスを手がけるゼンリンだ。

観光振興によって「地域経済がどう変わるのか」「文化や自然が次世代にどう受け継がれるのか」「地域の交通や暮らしがどう維持されていくのか」。こうした問いに向き合うために、データやデジタル技術をどう使っていけばいいのか。

登壇したのは、行政や地域づくり、MaaS、マーケティング、マップ技術など、異なる立場から観光に携わる5人。それぞれの立場で、地域観光の未来に向けた課題認識が語られた。

旅行者の周遊範囲、観光の実態

観光庁参事官(外客受入担当)の今井盾介氏は、インバウンド旅行者の動向データから、一般的なイメージとは異なる旅行者の動きを指摘した。

訪日旅行では、東京と大阪を結ぶゴールデンルートへの集中が知られている。しかし、観光庁の調査では、東京近郊を回るルートや富士山まで行って東京方面に戻るルート、関西での周遊など、ゴールデンルート上の都市を訪れながらも、その行程は画一的ではないことが示された。また、地方では北海道、九州北部、沖縄などを周遊・滞在する動線も見られた。

これを踏まえ、今後の地方への誘客や周遊促進に必要なことは何か。

今井氏は、さらに細かな動きを把握するには、国土交通省や観光庁の公的な統計だけでなく、位置情報やアプリなど民間のデータが必要と説明。「訪日客は都道府県の境を気にせず動く」とし、「広域連携がキーワード。個々の地域では難しいところが連携して“太い塊”として海外に発信し、呼び込むことが重要」と話した。同時に、各地域が訪日客の訪れる動機となる“点”を磨く必要性も指摘した。

観光庁参事官(外客受入担当)の今井盾介氏旅行者が観光で回る範囲についても議論された。

観光マーケティングなどを支援する観光デザイン研究所代表の青木思生氏は、これまでの実証などを踏まえ、地域における回遊は「交通のシームレスさが重要」と指摘。徒歩では3キロ圏内、交通機関の利用では7キロ圏内、乗り換えは2回程度までが一つの目安とし、「その範囲に観光地がつながっているかが、周遊につながるカギ」と話した。

ゼンリンの観光ソリューション推進部長、藤尾秀樹氏は同社の観光サービス「ストローカル」での考え方を披露。徒歩での回遊を意識した「マイクロエリア」と、佐賀県の武雄市、嬉野市、有田町のように複数地域を一つに捉える「観光圏」という2つの単位で周遊の仕組みを作っていることを説明した。

「担い手の手ごたえ」にデータ&技術を活用

兵庫県丹波篠山市で、観光地域づくりに取り組むSatoyakuba代表理事の田林信哉氏は、地域側から異なる視点を提示した。

丹波焼の窯元などと地域一体で文化観光を進める田林氏は、観光関連事業者や地域資源の担い手を含む連携体制を組み、自治体やDMOなどと地域の将来像を描いている。単に人が訪れ、商品が売れることだけではなく、多世代が働ける環境づくりや文化の継承など、地域が目指す姿を描き、共有することが肝心だという。

そのため、データやDXは「情報量の多さや便利さ以上に、地域の担い手の取り組み意欲や手応えにつながることが重要」と話す。

同地域では、窯元の共同売場で器が売れると、作り手のスマートフォンにリアルタイムで通知が届く仕組みを整備した。シンプルなものだが、自作の商品が売れたことを実感でき、次の制作への意欲につながるという。

田林氏は、文化や自然といった地域の価値を生み出す源泉に利益を再投資することが重要と指摘。「文化と経済の好循環を地域の担い手にも可視化し、地域の担い手が実感できるようにする。その共通言語としてデータを使うことが大切」と話した。

Satoyakuba代表理事の田林信哉氏観光デザイン研究所の青木氏は、地域の未来を描くためのデータの重要性を訴えた。観光客数や消費額など過去から現在までのファクトを示すデータは多い一方、地域が目指す姿の実現に何が必要で、いつ到達できるかを示せるデータは「非常に少ない」と指摘する。

また、青木氏が携わった地域では、観光客が増えても「良かった」と答える住民は少なかった。「現状維持」の声が多く「豊かになりたい」という発想は少ないという。青木氏は「ただし、何もしなければ廃れる地域が多い」とし、「観光によって地域が維持されていることを地域住民が理解できる指標を作る、そのデータ収集が非常に大切」と話した。

観光デザイン研究所代表の青木思生氏

データで旅行者の行動変容をどう促す

AIを使って目的地や体験を探す旅行者が増えている。MaaS Tech Japanシニアマネージャーの福原孝行氏は、地域がAIからどう認識されているかを把握し、分析から改善、実行までつなげる必要性を指摘した。

特に重視するのが、旅行者の最終判断の場面だ。SNSなどでの情報発信は認知獲得につながるが、その時点では旅行者の行動は決まっていない。「具体的な行き先や購入を決めるタイミングで、地域が促したい周遊や滞在、消費などの行動につながる情報を“差し込む”ことが重要だ」と話した。

さらに福原氏は、地域のデータ活用が「測る・見る・実行する」のうち、「見る」で止まっていると指摘。その背景には何を実行すればよいかわからないこともあるとし、実行を支援するためにAIを活用する考えを示した。

MaaS Tech Japanシニアマネージャーの福原孝行氏ゼンリンの藤尾氏は、様々なデータを旅行者の道しるべとなる地図と結び付け、行動変容につなげる取り組みを説明した。

藤尾氏は、地図データが道路などの線(リンク)とその結節点(ノード)で構成されていることを説明。同社では歩道やエレベーターをはじめ、人が移動するあらゆる空間を線と点で地図上にデータ化する「モビリティベースドネットワーク」に取り組んでいる。観光では、そこに人流や購買などのデータを重ね、移動の可視化や分析、サービスにつなげることを目指している。

観光サービス「ストローカル」では同基盤を活用し、デジタルチケットやクーポン、スタンプラリーなどを提供。長崎ランタンフェスティバルでは公式アプリとして展開し、旅行者の周遊促進と行動分析に取り組んだ。スタンプラリーには18日間の会期中8000人が参加。3カ所以上にチェックインした人は、稲佐山の展望台や長崎ペンギン水族館など、市街地から足を延ばす傾向が見られたという。

ゼンリンの観光ソリューション推進部長、藤尾秀樹氏

地図に何を載せるのか、異なる視点から示された可能性

では、地図や位置情報にどのようなデータを重ねれば、地域の未来につながるのか。

今井氏は、自身の問題意識として「通り一本の違いで観光消費が違うはず」との仮説をもち、観光庁で街中の「動線」と消費の関係を細かな単位で捉えることに挑戦していると明かした。「動線ごとに消費が可視化されていないため、地域側もその違いに気付いていないのではないか」と話す。

田林氏は、窯元や登り窯、原料となる土、地域の風景など、文化の価値を生み出す源泉を地図上で可視化できれば、地域経営の投資判断にも役立つと話した。

さらに、作り手が自分の商品がどこでどのように使われているかを知る“逆向き”のトレーサビリティを提案。「地域資源を担う人が、自分の仕事の手応えを感じられる可視化が地図でできればよい」と語った。

福原氏は、地図上の移動データにAIによるクチコミ分析などを組み合わせ、どこへ移動したかだけでなく「なぜその移動をしたのか」を把握する可能性を示した。

青木氏は今後、「マップサービスはメディア化する」とし、AIによって旅行者が自身の嗜好に合った店舗や施設を見つけ、地域側も呼び込みたい旅行者と出会えるプラットフォームになっていくとの見方を示した。

これを受け、藤尾氏も、地域やDMOなどが参加してコンテンツをつくる「ソーシャルネットワーク型」の地図機能を開発していることを明らかにした。

観光DXやデータ活用を地域の未来につなげるには、誰のために何を実現し、そのために何を測るのか。その問いから考える重要性が、様々な角度から語られたセッションとなった。

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