ウーバー(Uber)のダラ・コスロシャヒCEOは、旅行領域での事業拡大について、同社がすでに抱える大規模な旅行者の利用基盤を生かし、まずホテル予約の利用体験を高めていく考えを明らかにした。さらに、空港での移動体験とAIエージェントの融合、自動運転車(AV)、ドローン配送などについても、自社のネットワークに組み込んでいく方向性を示した。
ニューヨークで開催された国際カンファレンス「Skift Global Forum」で、スキフトCEOのラファット・アリ氏との対談で語ったもの。コスロシャヒ氏によると、ウーバーは世界で空港への送迎を年間約1億回提供しているほか、利用者が居住都市以外で利用する乗車は約15億回にのぼる。また、「空港での送迎の約10%を占めていることも多い」という。
同社は利用者が旅行中であることを登録情報から把握できることから、「私たちのエコシステムのなかには、非常に大きく、ターゲットが明確な旅行者層がいる」と話した。
ウーバーは英国で鉄道予約を導入し、その後、フランス、スペインにも展開。配車のようなオンデマンドサービスだけでなく、事前予約の「Reserve」なども加え、従来のウーバーのサービス領域を広げてきた。
コスロシャヒ氏は「私が就任した当時は、事業の95%がモビリティだった。現在はモビリティとデリバリーが50対50になっている」と説明。「サービスを拡張する能力を示してきた」とし、旅行を新たな成長領域として位置づけた。
空港体験をAIで改善、「手荷物受取所にいる」と話すだけで配車
旅行者との接点として、コスロシャヒ氏が特に重視するのが空港だ。ウーバーでは、利用者が空港の乗車場所で車を待たずに済むよう、手荷物受取所にいる段階で配車を促し、利用者が乗車場所まで歩く時間と車の到着時間を合わせるなど、空港体験の改善を進めているという。
また、車両をあらかじめ並ばせ、利用者に発行されたPIN番号によって乗車車両を決める「PIN dispatch」も導入している。コスロシャヒ氏は「昔のものが再び新しくなった。PIN dispatchはまさにタクシー乗り場と同じだ」と説明。空港当局と協力しながら、ドライバーと利用者を円滑にマッチングする仕組みを整えているとした。
さらに、AIエージェントとの連携にも意欲を示した。ウーバーは70カ国で事業を展開し、ドライバーと配達員を合わせて1050万人がプラットフォームに参加していると説明。こうした供給網を背景に、複数のAI企業やエージェント型サービスの事業者と協議しているという。
コスロシャヒ氏は「私たちが最も重視しているのは、利用者の体験だ」と強調する一方、「世界は変わっている。ウーバーにはローカルな移動に関する比類のないコンテンツがある」と話した。
一方で、自社でもAIエージェントを構築する考えだ。将来的な利用イメージについて、「次に空港に着いたとき、ウーバーに『手荷物受取所にいる。ウーバーを待たせておいてほしい。SUVが必要だ』と話すだけでいい。ホテル予約の情報もすでに持っているかもしれない」と説明した。
ウーバーのAIエージェントは、利用者やドライバー、配達員などについて自社システムが持つ文脈を活用するとともに、外部のAIエージェントともやり取りできるようにする考えだ。「この分野は非常にエキサイティングだが、まだ初期段階」とした。
ウーバーCEOダラ・コスロシャヒ氏(左)と、スキフトCEOラファット・アリ氏
ホテル予約の8割がUber One会員
旅行事業のなかで、当面の重点分野となるのがホテルだ。
ウーバーの会員プログラム「Uber One」は会員数が5000万人を超えているといい、コスロシャヒ氏は、会員は非会員に比べて3倍多く予約・消費すると説明した。また、海外旅行者は海外旅行をしない利用者の3倍を消費するとも話し、旅行者とUber One会員の組み合わせを有力な顧客層として捉えている。
ホテル予約では、Uber One会員に10%の割引を提供。一部のホテルでは、さらに20%の追加割引を受けられる仕組みも用意している。
ホテル事業の収益性について問われると、「損失を出しているのではなく、損益分岐点だ」と説明した。ホテルから得る収益を会員向けの特典として還元し、ホテル単体の利益よりもUber One会員との関係強化を重視する考えだ。
その背景として、ウーバーの利用者が直接アプリを利用する割合が高いことにも言及。「前職の私(エクスペディアグループのCEO)のように、トラフィックの面で“グーグルの囚人”ではない。人々はウーバーに来る」と話し、顧客獲得のためにトラフィック費用を支払う必要性が低いため、ホテルを損益分岐点の事業として展開することが可能だと説明した。
現在、ウーバーのホテル予約の約80%はUber One会員によるものだという。
今後については、「まずホテルを機能させたい。旅行予約と私たちの間にプロダクト・マーケット・フィットがあることを証明したい」と強調。航空券予約については「導入するかもしれないし、しないかもしれない」とし、「一歩ずつだ」と話した。
また、ホテルでの滞在中の体験として、Uber Eatsを使った「ルームサービス」の展開にも言及した。「Uber Eatsを通じたルームサービスは、従来のルームサービスよりずっと良く、価格も安い」とし、ホテルパートナーとの連携を進める考えを示した。
ホテル在庫については、自社で一から構築するのではなく、既存の旅行企業が保有する供給を活用する。コスロシャヒ氏は、「エクスペディア、ブッキングをはじめ、世界には素晴らしい供給を持つ企業がたくさんある。早く市場に出たかった。彼らがすでに構築したものを複製しても価値は加わらない」と説明した。
さらに、エクスペディアとの連携を通じ、まずはバケーションレンタルの「ヴァーボ」のコンテンツを加える考えも明らかにした。「モビリティからデリバリーへブランドを広げたように、旅行は私たちが参入しているもう一つの隣接エコシステムだ」と話した。
安全なロボットドライバーを全プラットフォームに
旅行者の移動に大きく関わる自動運転についても、コスロシャヒ氏は積極姿勢を示した。
「AI技術は非常にエキサイティングだ。道路をより安全にする」とし、「安全な人間のドライバーをすべて私たちのプラットフォームに迎えたいのと同じように、安全なロボットドライバーをすべて迎えたい」と話した。
一方で、現在はハードウェア、センサー、コンピューティングなどのコストが高く、車両の維持に必要なインフラやサービスへの投資も必要だと指摘した。人間のドライバーは運転だけでなく、車両の所有、清掃、燃料補給なども担っており、自動運転では、それらの業務をシステム化する必要があるとの認識を示した。
ウーバーは自動運転分野で15都市にパートナーシップを展開していると説明。すでにドライバーなしでのサービスを提供している都市もあるという。
ただ、導入を急ぎすぎることには慎重な姿勢も示した。「ロボットドライバーも間違いを起こし、事故も起きる」としたうえで、雇用への影響も含め、「技術を段階的に、安全な方法で導入すること」が社会への定着には重要だと述べた。
自動運転車だけですべての需要を満たすのではなく、人間のドライバーとの「ハイブリッドネットワーク」が適しているとの考えも示した。状況によっては人間のドライバーのほうが対応しやすい乗降場所などが存在するためだ。
デリバリーでは、ヒューマノイドロボットよりもドローンに期待を寄せる。出資先のジップライン(Zipline)が米国でドローン配送を展開していることに触れ、ウーバーも同社との食品配送を開始する方針を示した。
コスロシャヒ氏によると、ドローン配送では通常30~35分かかる配送時間を15分程度に短縮できる可能性があるという。インドや中東などで10~15分程度の即時配送が普及すると、食品、食料品、一般小売のオンデマンドEコマースが大きく伸びるとの見方を示した。
AI、自動運転、ドローンなど新技術への投資を進める一方、コスロシャヒ氏はAIについて、「AIを実際の仕事に統合し、本当に事業を動かすものにすることは難しい」とも指摘した。
「価値を加えるということは、単にコストを削減することではなく、サービスそのものを改善することだ。それは言うほど簡単ではない」と語り、旅行を含むウーバーのサービス全体で、AIを利用者体験の改善につなげる考えを示した。
取材・文: 鶴本浩司



