米エクスペディア・グループは、創業30周年の節目を迎え、旅行者の旅程全体をよりスムーズにつなぐ新たなサービス連携を打ち出した。
エクスペディア・グループCEOのアリアン・ゴリン氏(写真)は、このほどラスベガスで開催されたカンファレンス「Explore 2026」の壇上で、同社の次の成長テーマとして、AIや外部パートナーとの連携を通じた「シームレスな旅行体験」を発表した。具体的には、配車サービス「Uber」との連携強化、空港での本人チェックと保安検査の優先サービスを展開する「CLEAR」のエクスペディアアプリへの導入、さらに自然保護とトレイル整備を支援する「Expedia Trails Fund」の立ち上げを明らかにした。
ゴリン氏は、エクスペディアの30年を振り返りながら、「インターネットの初期から、モバイル、そして今日に至るまで、多くのことが変わった。しかし、探求し、つながり、新しい体験をしたいという人々の欲求は変わっていない」と語った。そのうえで、同社の事業目的について「旅行者が一つ一つの旅を通じて世界を探索することを支援すること」と説明した。
講演では、エクスペディアが単なる旅行予約サイトから、消費者向け事業、旅行会社向け事業、AIやメディア体験を含む需要創出基盤へと進化していることを強調。ゴリン氏は、同社が旅行会社向けの「もっとも完全で信頼される旅行マーケットプレイス」の一つを構築していると自信を見せた。
AI時代に問われる「信頼」、スマートで信頼できるガイドを
ゴリン氏が講演の前半で重視したのは、AI時代における旅行情報の信頼性である。旅行は、言語、通貨、移動、宿泊、現地体験など多くの要素が重なる複雑な領域であり、旅行者にとっては選択肢の多さが利便性である一方、判断の難しさにもつながる。ゴリン氏は、エクスペディア・グループの役割について「その複雑さを引き受け、旅行者だけでなく、パートナーである旅行会社にとって、シンプルで直感的で信頼できるものにすること」と述べた。
同氏は、信頼がマーケットプレイスの中心にあるとしたうえで、旅行者は情報の正確性、選択肢、そして問題が起きた際のサポートを同社に求めていると説明した。一方で、現在は選択肢が少ないことではなく、情報が過剰であることによって信頼が試されているとの見方を示した。ゴリン氏は「情報は正しく聞こえても、正しいとは限らないことを私たちは経験している。不正もはるかに高度化している」と述べ、AIの活用を目的化するのではなく、信頼できる旅行支援に結びつける必要性を強調した。
その文脈で示されたのが、「すべての旅行者が、スマートで信頼できるガイドをポケットに持つ世界」をつくるという構想だ。エクスペディアは、旅行者との接点を増やすことで、宿泊やタビナカ観光事業者などに対しても、より良いインサイト、より良い商品、より良い需要を提供できると位置づけた。ゴリン氏は、適切な旅行者と適切なタイミングでパートナーを結びつけることが重要だとし、同社が毎年、旅行者を獲得するために数十億ドル規模のマーケティング投資を行っていることにも言及した。
旅行会社の支援を強化、マーケットプレイス提供で
Uber、CLEARとの連携で、予約から空港体験までを一体化
今回の講演で最も明確に打ち出された新サービス領域が、外部パートナーとの連携による旅行体験の拡張だ。ゴリン氏は、配車サービスのUberとの最近のパートナーシップに言及し、両社のマーケットプレイスを接続する取り組みとして説明した。具体的には、Uberアプリ上でホテル提供を支え、同時にエクスペディアのアプリ内にライドシェアを直接組み込むというものだ。
さらに同氏は、Uberとの連携を踏まえた次の提携として、CLEARおよびCLEAR Plusをエクスペディアアプリに組み込むことを発表した。CLEARは、米国の空港などで本人確認や保安検査などの優先サービスを展開する企業であり、CLEAR Plusはその会員向けサービスとして知られる。ゴリン氏は、これによって同社のシームレスな旅行体験を「予約を超えて、空港へと拡張する」と述べた。
UberとCLEARの両提携について、ゴリン氏は「UberからCLEAR、そしてさらに多くの提携に至るまで、これらは一つの考えに積み上がっている。インスピレーションから到着までのシームレスな旅行だ」と総括した。旅行者が旅先を知り、予約し、移動し、空港を通過し、目的地に到着するまでの各段階を、分断されたサービスの寄せ集めではなく、一連の体験としてつなぐ方向性である。
この考え方は、旅行業界におけるプラットフォーム競争の焦点が、予約時点の在庫や価格だけでなく、予約前のインスピレーション、予約後の移動、空港体験、現地での行動まで広がっていることを示している。
自然保全を支援、Expedia Trails Fundを開始
もう一つの新しい取り組みとして発表されたのが、Expedia Trails Fundである。ゴリン氏は、30年前にイタリアを旅した自身の思い出に触れながら、旅先は単なる目的地ではなく、トレイル、海岸線、公園など、人々が記憶をつくる場所であると語った。そのうえで、「次の30年を見据えたとき、人々がそうした場所を楽しみ続けられるようにするにはどうすればよいのか」と問いかけた。
その答えとして、Expedia Trails Fundを立ち上げることで、米国を起点に、トレイルの再整備や保護された景観へのアクセス改善を支援する。同ファンドは「人々が、今後、数十年にわたって思い出をつくり続けられるようにする」ための取り組みとして位置づけられている。また、観光資源そのものだけでなく、それに依存する地域コミュニティにとっても重要であるとした。
ゴリン氏は講演の最後に、エクスペディアが30年を迎え、再び転換点に立っているとの認識を示した。同氏は、旅行の本質を「共有された体験」と位置づけ、観光産業の関係者に対して「私たちは、人々がそうした体験をつくる手助けができる、世界で最も素晴らしい仕事をしている」と語った。Uber、CLEAR、AllTrails、AI時代の信頼性向上などは、いずれも同社が掲げる「インスピレーションから到着まで」の旅行体験を広げる取り組みとして前進している。
取材・文: 鶴本浩司




