個人間で「宿泊の権利」を売買する新ビジネス、「キャンセル」社の取り組みを創業者に聞いてきた

「宿を予約したけど、ちょっと行けなくなってしまった。このままだとキャンセル料がかかってしまう。キャンセル料を取られるくらいなら、誰か他の人に売れればいいんだけど…」。

昨年、そんな望みを叶える新ビジネスが誕生した。Cansellと書いて「キャンセル」。2017年9月15日に宿泊の権利を個人間で売買するマーケットプレイスをオープン。その新しいサービスの中身とは? 代表取締役の山下恭平氏に聞いてきた。

沖縄旅行のキャンセルでビジネスを着想

山下氏は1985年生まれの31歳。一昔前の映画を映画館で再上映するサービス「ドリパス」、Yahoo! 映画、GYAO! などエンタメ畑でキャリアを積んだのち、2016年1月にスタートアップ会社を立ち上げた。

その時点で考えていたのはインバウンド向けのグルメ予約サイト。しかし、その年の夏、沖縄旅行を計画したときにキャンセルの構想が浮かんだという。「沖縄に行く予定だったのですが、台風が直撃するとの予報があったので。旅行をあきらめたんです。でも、予約したホテルにはキャンセル料がかかってしまう。もったいない。これをなんとかできないものか」と。

すぐにビジネスを転換。7月には「キャンセル」として、宿泊の権利を個人間で売買するマーケットプレイスを立ち上げた。山下氏は「正直なところ、需要の予測はありませんでした。始めた理由は、日本にはないサービスで、業界にインパクトを与えられるのではないかと思ったこと。大企業はなかなかできない事業ですが、いずれ誰かがやるのではないかと思い、だったら僕らがやろう」と立ち上げの背景を話す。

海外にはRoomerという似たようなサービスがあるが、その存在を知ったのはキャンセルを着想した後だったという。

予約権利の出品者とその権利を購入する旅行者とをマッチング

キャンセルのサービスの流れはシンプルだ。個人が宿泊できなくなった場合に予約をキャンセルする代わりに、自分の予約を「出品」し、売買が成立すればキャンセル料を回避できるうえに販売額が入るというもの。

出品者(予約者)は宿泊代金を宿泊施設に支払い、仲介するキャンセルが宿泊施設に対して名義変更の手続きを行う。宿泊施設が行うのは、名義変更の確認だけ。出品された宿泊予約は、キャンセルが出品内容を審査したのち、最短で1時間後にはサイトに掲載される。

キャンセル 代表取締役の山下恭平氏

単独の宿泊施設予約に加え、旅行代理店が販売するダイナミックパッケージ(DP)の宿泊権利のみを出品することも可能。出品できるのは、宿泊チェックインまで残り20日以内となった宿泊権利。キャンセルがその内容を審査し、予約者の名義変更が可能かどうかを旅行代理店に確認したのち、審査を通過した権利のみをサイトに掲載する。

山下氏は「サービスを立ち上げたあとに、意外にこの需要が多いことに気づいた」と話す。航空券を単独で購入するよりも、DPで宿泊と合わせて購入した方が安い場合もあり、また、予約後に友人宅や家族宅に泊まることになるケースも散見されるという。

この場合、旅行代理店に名義変更を問い合わせるが、受け付けてくれるところ、対応不可のところ、宿泊施設への問い合わせを促すところ、と対応はさまざまなようだ。

C2Cのマッチングサービスであるため、宿の手配に当たるかどうか議論が分かれるところだが、キャンセルは今年3月に「保険のひとつ」(山下氏)として旅行業3種を取得した。宿泊売買に対する損害保険も検討しているが、旅行業にかかるB2Bの保険は適用できないとの見解もあるという。

出品者は宿泊料の圧縮、宿はノーショーリスクの回避でメリット

現在のところ、出品数は月30件ほど。出品時の平均は、予約日の約4週間前。「100%のキャンセル料はかかるが、早割などで料金が安いプランを予約した人が多い」(山下氏)。

出品手数料は15%。まず出品者は申請のときに購入価格を記入し、それに対して売りたい価格を設定する。システム上、出品者が購入した価格よりも高い値段では売れないようになっている。値段の途中変更も可能。掲載の終了時間も出品者が設定する。

現在は事前決済のみ扱っており、出品者は必ず宿泊料は支払わなければならないが、その額をいかに圧縮できるかという点にこのサービスの肝がある。

これまでの実例としては、「星のや軽井沢」が大人2名で18万9,000円のところ、8万9,000円で売れた。出品者は18万9,000円を支払ったが、購入者が宿泊するためキャンセル料は回避され、8万9,000円から手数料を差し引いた額が「戻ってくる」という計算だ。

しかし、出品予約が必ず売れるとは限らない。出品者にとって最大のリスクは買い手がつかず、結局はキャンセル料を支払わなければならなくなることだ。

一方、宿泊施設にとっては、予定通り部屋を埋めることができ、ノーショーのリスクを回避することができるというメリットがある。「今年からは宿泊施設とのコミュニケーションを強化している」と山下氏。「選択肢としてキャンセルのようなサービスを案内できる」と好反応を示す宿泊施設も多いという。

認知度を上げて、年内に出品数月300件を目標

ただ、課題もある。「これから旅行に行く人を探すのはそれほど難しくないが、キャンセル料を抱えている人が、どこにいるのか分からないので、広告を打つのも難しい」というのが現状。そのなかで、認知をどのように広げていくか。

コンバージョンが上がれば、自然と認知度も上がると予想されるが、もっと効率的なビジネス展開として、「OTAや宿泊施設とのパートナーシップも考えていきたい」との方針を示す。当面の目標は、年内に出品数を現在の10倍、月300件ほどに増やし、成約率も掲載の半分ほどに上げることだ。

また、オンラインマーケットプレイスを運営するテクノロジー会社として、名義変更のほか、成約率を上げていくために価格設定や掲載期間のアドバイス機能などシステム上の開発も進めていく計画。現在はまだベータ版だが、今夏を目途に正式版をリリースし、アプリの開発にも取り組む予定だ。

将来的には多言語化を図り、インバウンドの需要の取り込みも視野に。さらに、「航空券、レストランなど旅行の行程のなかでキャンセルが発生するケースは多いので、サービスのヨコ展開も考えていきたいですね」とスタートアップらしい野心ある夢を描く。

「誰も来ないよりは、来てもらったほうがいい。それは宿泊施設にとってだけでなく、その土地の周辺観光施設にとっても同じだと思う。キャンセルを利用して、通常よりも安く宿泊できれば、現地での消費額拡大も期待でき、地方創生にもつながるんじゃないでしょうか」。cancelがcan sellされれば、人は動く。人が動けばお金が回る。cancelだけでは何の波及効果も生まないということだ。

聞き手 トラベルボイス編集部 山岡薫

記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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