旅行の近未来トレンド予測・2018年版を発表、8つのメガトレンド、「つながらない喜び」から「究極のシームレス体験」まで -英ユーロモニター社

英調査会社ユーロモニター・インターナショナルはこのほど、最新レポート「旅行・観光業の未来を左右するメガトレンドとは?(Megatrends Shaping the Future of Travel)」をとりまとめた。2018年11月6日、ロンドンで開催されている世界的な観光産業の国際会議・見本市「ワールド・トラベル・マーケット(WTM)」で発表したもの。

ここでは旅行産業を取り巻く世界的なトレンドについての予測調査を実施、1000人超の専門家やアナリストの見解を「8つのメガトレンド」として整理。一時的な流行ではなく、長期にわたって旅行業や消費行動に影響を与える問題や、根本的な変化に着目し、旅行関連各社による取り組みも併せて紹介している。

同社の旅行産業調査統括部長、キャロライン・ブレムナー氏は、「急速な変化を続けるグローバル環境において、競争はより激しくなり、業界全体を揺るがすような新たなアイデアも出現している。こうしたなかで、持続可能な成長を遂げ続けるために、メガトレンド分析は必須だ」とコメントしている。

8つのトレンドは以下のとおり。

メガトレンド1. カスタマージャーニーの再構築

旅行、あるいは航空券やホテルなど、専門分野がはっきりしている業種は、消費者との接点が、非常に限られる傾向にある。消費者は毎日のようにグーグルやフェイスブックにアクセスしているが、ホテルや航空会社のサイトを見るのは、おそらく年に数回程度と少なく、企業ブランドに対するロイヤルティ維持が難しくなる。そこで、これまでの殻を破り、もっと様々な形でユーザーとの接点を作る必要がある。

こうした試みの一つとして、ルフトハンザ航空では2017年10月、ドイツのスーパーマーケット「Rewe」と提携し、機内で食料や日用品をオンライン購入するサービスを開始した。ルフトハンザ航空の乗客は、帰宅時間に合わせて、購入品が自宅に届くよう手配できる。消費者との新しい接点が生まれることで、顧客理解も深まる。

一方、アコーホテルズでは、宿泊客だけでなく、地元の人々のニーズを取り込むべく「アコー・ローカル」アプリを始動した。ホテル内の店や施設と、周辺の店が提供している各種サービスを近隣住民向けに訴求するもので、例えば朝食、ヨガ、フィットネス・センター、コワーキングスペース、荷物のデリバリーなど。背景にあるのは、アマゾンやアリババ、フェイスブックなど、強大なネット商圏を確立する新興企業への危機感だ。アコーのセバスチャン・バザンCEOは、こうした企業が顧客と繰り返し接点を持つのに対し、「アコーホテルズはどうか? せいぜい年平均4回ぐらいではないだろうか」とコメントしている。

メガトレンド2. プラスチック・ゴミ問題

プラスチック製品による海洋汚染について、世界的に問題意識が共有されるなか、旅行関連では、アラスカ航空、アメリカン航空、マリオット、ヒルトン、アコー、ハイアットなどホテルチェーン各社が、プラスチック製ストローの使用中止を決めた。同時に代替製品の開発競争も過熱しており、米企業Loliware社による海藻をつかった「食べられるストロー」なども登場。企業側には、リサイクル方法やゴミ削減まで考える姿勢が求められている。

欧州最大の旅客数を誇る格安航空大手、ライアンエアーでは、2023年までに同社の機材から、リサイクル不可能なプラスチックを完全排除する方針だ。生物分解可能な素材のカップや紙製のものにすべて切り替えると同時に、利用客には自分のカップ持ち込みを推奨。価格の安さに加え、「グリーン」な企業であることは、消費者の支持拡大につながるとの考えだ。

メガトレンド3. デジタル時代への反動「つながらない喜び(JOMO=Joy of Missing Out)」

デジタル改革の最先端を進むアジアで特に注目されるのが、常に周囲とつながっていたいというこれまでの傾向に対する反動だ。消費者のネット疲れに加えて、国家や企業によるネットワークの不適切な活用への懸念も背景にはある。

こうした消費者の嗜好に応えようと、英国および米国市場でカスタマイズした旅を手掛ける旅行会社、ブラックトマトでは、ネットから遮断されてボルネオのジャングルやモンゴルの砂漠で過ごす旅などを提案している。

メガトレンド4. 中国も環境保全に積極姿勢

地球温暖化対策への取り組みから米トランプ政権が離脱する一方、中国は国内の環境保全や公害対策に積極的な姿勢を堅持している。上海郊外にあるリゾート、アマン・ヤンユンは、明・清時代の建物を復元し、インフラ開発プロジェクトによって伐採の危機にあったクスノキの森林を保存することで、その土地らしさを体験できるリゾートを実現している。

アリババ系列の企業、アント・フィナンシャルでは、アリペイ利用者向けのエコ・ポイント・プログラムを2016年からスタート。ポイントが累積するごとに、バーチャルな樹木が育ち、木が完成すると、内モンゴルで実際に植樹を行う。これまでに130万本を植えて緑化に貢献していると同時に、消費者の環境問題への意識向上にも役立っている。

トラベルトレンド5. 薄れゆく業種の境界線

旅行業と、そのほかの業種の境界線が、どんどんあいまいになる。例えばホテルの客室は、色々な人に家具や雑貨を試してもらう絶好の場となるため、ウェストエルムや無印良品は自社ブランドのホテルを開業。エキノックス・ジムも間もなくニューヨークでホテルを開業する。イケアは、自社食材やテーブルウェアを使ったポップアップ・レストランを展開している。米国で6軒のホテルを展開予定のウェストエルムでは、室内に設置している商品はすべて購入可能、そのまま持ち帰ることもできる。

キャセイパシフィック航空では、「食」への投資を強化。機内で提供している各種アジア料理のポップアップ店をニューヨークで展開したところ、SNSで8億件以上のインプレッション数を獲得した。本拠地である香港の空港ラウンジでも、「ヌードルバー」など、食での差別化に注力。航空サービスのコモディティ化への対抗策としている。

メガトレンド6. アクセスエコノミーの台頭

モノやサービスを所有するのではなく、必要なときに有料で利用する「アクセスエコノミー」がますます台頭していく。旅行業界では、エアビーアンドビー(Airbnb)やタクシー配車アプリのウーバー(Uber)、ガイドツアーのバヤブル(Vayable)、地元の人と食事するイートウィズ(EatWith)などが大きな変革をもたらしているが、この流れはさらに広がり、既存の業種の破壊、新しい業態の登場が進む。

米西海岸のサンフランシスコでは、自転車のシェアリングに続き、電気スクーターの利用が拡大する一方、町中での迷惑行為も増加。この分野に複数の新興企業が参入しているが、2018年8月、当局が1年間のパイロットプログラム実施許可を認めたのは、スクートとスキップの2社にとどまった。今後、米東海岸や欧州都市で、こうしたサービスがどこまで支持されるか注目されている。

エアバス・グループがシリコンバレーで展開するヘリコプター事業、ブーム(Voom)は、ウーバー同様、携帯アプリでヘリコプターをオンデマンド予約するサービスで、サンパウロやメキシコシティまで飛行できる。最近、エールフランス航空とも提携した。

フランスのウィングリー(Wingly)は、個人パイロット1万人以上が登録している飛行機の予約プラットフォーム。また、ドバイでも、空飛ぶタクシーの試験運転が始まっている。

トラベルトレンド7. 究極のシームレス体験

ドバイを中心に、中近東やアフリカ地区で進んでいるのが、旅行にまつわるすべてのストレスを完全に取り除こうという試みだ。空港での移動もスムーズになる。例えばドバイ空港では、顔認証用カメラ80台以上を装備したトンネルを設置し、旅行者はゲートではなく、このトンネルを通る仕組みだ。

エミレーツ航空の主要ハブ空港であるアル・マクトゥーム国際空港では、さらに最新技術を駆使した設備が建設される予定。IoTやロボティクス技術を使い、チェックインからイミグレーション、搭乗まで、旅行者の負担ゼロを目指す。

新興国ではモバイルを「かざす」だけでデータ通信ができるNFC(近距離無線通信)が広く普及。南アフリカでは、スナップスキャン社が同技術による決済サービスを提供しており、町中の店や市場などでも現金不要で支払いが可能だ。旅行関係者は、こうした便利なサービスが、もはや当然であることに留意する必要がある。

メガトレンド8. 中流層が新しいターゲットの中心

欧米の富裕層が多かったアフリカ旅行だが、今後、成長が見込まれているのは、アジアやアフリカの中流階級層の旅行者だ。一方で、ひたすら価格競争による数の獲得を目指すことは、昨今、欧州の都市などで問題になっているオーバーツーリズム(過剰な観光客受け入れ)による疲弊を招きかねない。

ラディソン・ホテル・グループでは、サハラ砂漠以南のアフリカ地区で2023年までに120軒を開業する計画を発表、供給規模を60%拡大する。同社では、これまでアフリカでは超富裕層にフォーカスしてきたが、新規開発ホテルでは、全体の65%が中~上級顧客層をターゲットに据える。アフリカ旅行市場の成熟などに伴い、セグメントをより細分化し、トレンド感のある中級ホテル・ブランドに力を入れる方針を打ち出している。

超富裕層向けサービスで知られる中近東の航空会社でも、幅広い客層へのアプローチに向けた変化が見られる。エティハド航空は、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、エジプトの利用客向けに分割支払いプランをスタート、最高で60カ月までの支払い期間に対応。2018年9月には、手荷物のみの旅客向けに安価な運賃を新しく設定した。一方、エミレーツ航空は、姉妹会社で格安航空会社のフライ・ドバイとのコードシェア提携を発表。両社の動きは「手の届く贅沢」への需要拡大を示唆している。

レポートの詳細(英語)は以下から参照できる。

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