宿泊施設の未来を、6つの消費者トレンドから読み解く、リテール革命を加速させる世界の事例を聞いてきた

旅行テクノロジー企業のセーバー(Sabre)は、調査会社トレンド・ウォッチと共同で最新の消費者トレンド調査を実施し、ホスピタリティ産業における「リテール革命」としてその結果を発表した。「ホテリエのリテーラーへの変革を加速させるもの」と位置づけられたその中身について、セーバー・ホスピタリティ・ソリューションズAPAC地区マネージング・ディレクター兼CCOのフランク・トランパート氏が説明。注目すべき6つのトレンドを紹介した。

生体認証技術で旅行や消費行動に革命

1つ目のトレンドは「Sentient Spaces (知覚空間)」。カメラやセンサーなど空間を知覚するテクノロジーが旅行の形態を変えているというものだ。その代表例が顔認証システム。トランパート氏は、アリババが2018年12月に杭州に開業した「FlyZoo」ホテルを例にあげる。同ホテルは、チェックイン、エレベーターの利用、部屋へのアクセスなど宿泊者の一連の動作すべてを顔認証で管理。さらに、ルームサービスやランドリーサービスなどはロボットが行っており、ホテルのバーではロボットが20種類ものカクテルをつくるという。日本でも「変なホテル」がロボット技術による省人化や効率化を進めているが、FlyZooはさらにその先を進んでいる。

また、イギリスのテクノロジー広告企業「Bidooh (バイドー)」は、韓国企業とパートナーを組み、約1万の顔認証広告掲示板を本屋やショッピングセンターに設置。歩行者の属性から、その人に合わせたリテール広告を表示するサービスを始めたという。

AIによる適材適所の提案で消費を刺激

2つ目が「A-Commerce」。AとはAIあるいはAutomationのA。人工知能や自動化は労働の機会を奪うと言われているが、一方で効率化や収益性の向上につながるチャンスでもある。また、消費者もよりシンプルな消費を望んでおり、そのニーズに応えるためにアルゴリズムによって最適な時間に最適なモノを提供・提案できるA-Commerceの重要性が増している。

「旅行でも行列に並びたくない。もっとスムーズに動きたい。コミュニケーションやリアクションをもっと早くしたい。そういう欲求が高まっている」とトランパート氏。その旅行者ニーズに応えるソリューションも数々登場しており、たとえば旅行先でのリコメンデーション・アプリ「Porter & Sail」は、その時の天気や利用者の好みに合わせてリアルタイムに「泊まれるホテル」や「できること」を提案。現在のところ、バリ島、シンガポール、シドニー、プーケットでサービスを展開しているという。

また、GPSカーナビ大手の「Garmin (ガーミン)」は、交通情報だけでなく、ルート上にあるドライバー好みの観光情報(レストランや景勝地など)も自動的に提示するサービスを始めた。

ホテルにとっても無視できない環境問題

3つ目のトレンドは「The end of excess (無駄の排除)」。環境問題がクローズアップされている現在、「使い捨て」という言葉に敏感になっている旅行者は多い。その対象は、プラスティック、水、食品、そして時間やスペースにも広がっている。トランパート氏は、「ホスピタリティ産業もこの社会的要請に応えるべき」と話し、最新の取り組みを紹介した。

2018年6月にバンコクにオープンした「アキラタス・スクンビット」ホテルは、開業当初からプラスティックを全く使わない運営を行っている。宿泊者にはチェックイン時にステンレスのウォーターボトルを渡し、各階にあるウォーターサーバーから飲水を確保するように求めている。また、バスルームのアメニティはすべて陶器にした。

また、ヒルトンは、「FoodMaven (フードメイヴァン)」とパートナーを組み、食品ロスの対策に乗り出すとともに、地域の農家や酪農家から余剰在庫を買い取る活動を始めた。現在のところコロラドとダラスのホテルで行っているという。トランパート氏は「環境に対する消費者の意識は高まっており、ホテルにとってもそうした取り組みを進めることで、宿泊者への大きなアピールになるはず」と付け加えた。

ダイバーシティへの対応も社会的要請

4番目に指摘したトレンドは「Practical Representation (実用的な表現)」。これは、多様性への対応を促すフレーズだ。マイノリティーと呼ばれる人々(旅行者)は、さらに実用的な社会的変化を求めているという。ダイバーシティという考え方のもと、宿泊施設もあらゆる人のニーズに応えるプロダクト、サービス、スペースの提供が求められている。

「Wheel the World (ホイー・ザ・ワールド)」は2019年3月に、初めて車椅子の旅行者をマチュピチュにつれていくツアーを立ち上げた。フロリダの「VillaKey(ビラ・キー)」は、世界で初めて自閉症の旅行者を受け入れるバケーションレンタルを始めた。トランパート氏は「テクノロジーの活用や異業種とのパートナーシップで、多様性に対応するホテルも増えてきた」と話す。

バーチャルとリアルとの融合

5つ目は「Fantasy IRL(リアルライフでのファンタジー)」。VRやARなど最新テクノロジーの活用によってより豊かな生活を求める傾向はさらに強まっている。すでにVRを使ってプロパティを紹介するサービスを展開しているホテルは多い。トランパート氏は「実際の旅行先と想像の領域との境界を無くそうとするトレンドは活発。いわゆるゲーミィフィケーションの感覚が旅行業界でも起こっている」と指摘する。

たとえば、マカオの「Lisboeta Hotel (リスボエタ・ホテル)」は、LINEとのコラボで総客室の3分の1を「LINE友だち」向けに提供するプロダクトを開発した。バーチャルでつながるLINEでの友だちがマカオでリアルにミーティングする仕掛けは、ホテル側にとっても、ギャンブル目的ではない旅行者を取り込む機会になると期待されているという。

ホテルもコミュニティ形成の機会を創出

最後のトレンドは「Village Squared (多面的な村)」。高齢化や都市化が世界的に進行していくなかで、人々の孤独感が増していくと推測されており、その解決としてリテーラーやホテルはそのスペースを活用して新たな社会的コミュニティを作る機会を提供できるというものだ。

たとえば、アメリカの「Life House Little Havana (ライフ・ハウス・リトル・ハバナ)」ホテルは、同時期に宿泊する旅行者をプラットフォームでマッチングさせるサービスを始めた。似たような活動や趣味を持つ宿泊者同士を引き合わせることで、ホテルをコミュニティの場としている。

またアメリカ・ミシシッピー州の「Travelers Hotel (トラベラーズ・ホテル)」は、20室すべてをアーティストの作品を展示するスペースとして開放。ホテル運営もアーティストが行うことで、ギャラリーとしての機能のほか、アーティストたちのコミュニティの場にもなっているという。

宿泊施設は旅行者が到着する前に部屋を販売するが、到着したあとでもさまざまなモノやコトを売ることで収益性を上げることができる。宿泊施設が抱える余剰スペースでさえ、さまざまなアイデアで「売る」ことが可能だ。6つのトレンドから、トランパート氏は「宿泊施設にも、旅行者へ宿泊の場所を提供するホテリエとしてだけでなく、リテーラーとしての考え方が必要になってくる」と強調した。

8月に東京で行われた宿泊施設向けセミナー「DNA」のために来日したトランパート氏。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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