航空業界の調査・コンサルティング機関であるCAPA(Centre for Aviation)は2026年10月1日・2日の2日間、北海道の新千歳空港で「エアライン・リーダー・サミット・アジア2026」を開催した。会場には、アジア太平洋地域の航空会社や空港会社のトップが集結。人口減少や運航コストの上昇、地政学的リスクへの対応をはじめ、アライアンス(航空連合)の再定義、航空流通(リテーリング)の進化、機材構成の刷新など、業界が直面する課題と将来の成長モデルをめぐって熱い議論を交わした。各セッションにおけるリーダーたちの主要な発言をレポートする。
日系航空会社と空港:地方路線の維持、流通変革、新たな価値創造
JAL:枠組みを超えた提携と流通進化、人間中心のDXを推進
日本航空(JAL)グループCEOの鳥取三津子氏は、2026年3月に発表した「JALグループ経営ビジョン2035」に基づき、国際線事業およびマイレージ&ライフスタイル事業の2軸で成長を加速させると説明した。成田国際空港の拡張による発着枠拡大を機に、旅客・貨物双方の獲得を狙う。
また、国内線の維持に向けては「人口減少とコスト上昇は業界共通の課題」と指摘し、自社生産性の向上に加え、スケジュール最適化など他社との連携に積極的に取り組む姿勢を示した。テクノロジー活用に関しては、顔認証による空港手続きの自動化を進め、「地上スタッフの役割を手作業から人ならではの最高のおもてなしへとシフトさせる」と語った。
JAL専務執行役員路線事業本部長のレゲット・ロス氏は、スカイチーム加盟の大韓航空との提携を例に挙げ、「個別のニーズが航空連合の枠組みよりも優先されるケースが増えている」と指摘。さらに航空券販売(エアライン・リテーリング)の進化について言及し、将来的には従来のGDSやコードシェアに依存せず、システムの直結連携でパートナー区間の販売やマイレージ付与、手荷物のスルー対応が可能になると予測。「5年後には航空券だけでなく、ホテル、レンタカー、レストラン予約まで一元化される環境が整い、60年間続いた流通モデルと収益管理の手法が劇的に変化する」との見解を示した。
JALグループCEOの鳥取三津子氏
ANA:機材の適正規模化と地方路線支援、成田・羽田の「デュアルハブ」深化
ANAホールディングス執行役員兼グループCSOの保谷智子氏は、燃料ヘッジや燃油サーチャージへのダイナミックプライシング導入、緻密なイールドマネジメントにより、中東情勢緊迫化に伴うコスト圧力をコントロールできていると説明した。円安によるレジャー需要の逆風に対しても、堅調なビジネス需要が下支えしているという。
地方路線の維持に向けては、国の航空ネットワーク維持に向けた方針を踏まえ、IBEXエアラインズと提携。2029年から100席規模のリージョナル機を導入し、運航委託事業を開始する方針を明らかにした。成田空港の拡張に対しては、羽田(ポイント・ツー・ポイントのビジネス需要)と成田(太平洋・アジア間の乗り継ぎ需要)の「デュアルハブ戦略」を強固にする好機と捉える。機材計画では、国際線にボーイング787-9型機や次世代777-9型機を投入する一方、国内線には737-8型機や100席クラス機を2028年度までに順次導入し、需要規模に適合させていく考えを示した。
ANAホールディングス執行役員兼グループCSOの保谷智子氏(右)
Peach:レジャー特化の強みと国際線拡大、LCCの品質認識を変革
Peach Aviation常務執行役員(経営企画統括)の遠藤哲氏は、利用者のほぼ100%が非ビジネス(レジャー・親族訪問・イベントなど)である点を挙げ、南北に長い日本国内において鉄道に対する航空の優位性を強調した。供給座席数は国内線55%、国際線45%の構成だが、台湾や韓国からの訪日インバウンドが好調であることから、今後は国際線比率を引き上げる方針だ。
路線展開では双方向の需要獲得を狙うとともに、「『安かろう悪かろう』という固定観念を覆し、手頃な価格と確かな品質の両立を認知させていきたい」と意欲を語った。
北海道エアポート:夏のグリーンシーズン開拓とリピーター戦略
北海道エアポート航空営業部ディレクターのケイコウ・ヴィンスコウ氏は、世界的に定着した冬のスキー・パウダースノー需要に対し、夏の魅力発信が今後の成長課題であると指摘した。自治体やDMO、旅行会社と連携し、東南アジアや東アジア市場へのプロモーションを強化している。また、訪日リピーター層における北海道の人気の高さを踏まえ、価格弾力性を生かした戦略とともに、航空会社と連携して再訪を促す環境整備を進める方針を述べた。
アジア太平洋大手キャリア、事業再編、ブランド刷新、プレミアム化への挑戦
大韓航空:アシアナ航空との統合が目前、機材簡素化で近代化を加速
大韓航空会長兼CEOの趙源泰(チョ・ウォンテ)氏は、アシアナ航空との合併が2026年12月17日に実現する運びとなったことを報告。運航面の統合はほぼ完了しており、30年以上にわたり重複していた仁川発着の運航スケジュールを最適化することで、乗客の利便性と選択肢を大幅に広げるとした。欧州路線の一部を競合他社へ移譲したことについては、「競争が会社をより強くする」と前向きな姿勢を示した。
統合を機にコーポレート・アイデンティティ(CI)の全面刷新を進めており、12月17日以降にアシアナ全機材の改修に着手し、2027年中に完了させる予定だ。機材戦略では、運用の複雑性を解消するため、A380型機(11機)と747-8型機(4機)を今後2年程度で退役させ、燃費効率に優れたA350型機、777型機、787型機へ集約する。A330型機や旧型A320型機も今後3~4年で順次退役させ、近代的な客室仕様への刷新を進める。
大韓航空会長兼CEOの趙源泰氏(右)
マレーシア航空:第3次長期事業計画(LTBP 3.0)始動、非航空収益を強化
マレーシア航空グループ社長兼CEOのキャプテン・ナサルディン・A・バカール氏は、2026年から始動した第3次長期事業計画(LTBP 3.0)の概要を説明した。戦略の柱として「プレミアム・エアラインへの成長」「ワンワールド内外のパートナーシップ深化」「約94%を見込む定時運航率の堅持」「企業レジリエンスの強化」の4点を掲げた。特に貨物、MRO(整備・修理・分解点検)、機内食ケータリングといった非航空事業は高い利益率を確保できるため、注力分野に位置づける。
機材面では過去3年間に95機(ボーイング737型機55機、エアバスA330型機40機)を発注済みで、2030年までに輸送能力を約50%引き上げる。また、ハブであるクアラルンプール国際空港の接続性を生かし、国際線乗り継ぎ客が追加料金なしで国内8都市へ立ち寄れるプログラムを展開し、マレーシアへの誘客を促す。
マレーシア航空グループ社長兼CEOのキャプテン・ナサルディン・A・バカール氏
カンタス航空:アジア重視を鮮明化、豪州発の訪日需要が市場を牽引
カンタス航空エグゼクティブ・バイスプレジデント・アジアのニック・マクグリン氏は、国際線運航の62%をアジア向けが占めている事実を挙げ、同地域への強気な姿勢を示した。特に日本市場は力強く推移しており、オーストラリアからの訪日者数は年間100万人を超える勢いを見せている。路線特性に応じた「カンタス」と「ジェットスター」の使い分け戦略も順調で、季節変動の激しい新千歳路線などでも柔軟な機材運用を成功させていると語った。
成長著しいLCC・ハイブリッド各社:新技術と地域需要の掘り起こし
エアアジアX:グループ内アライアンスから「OTAプラットフォーム」へ
AirAsia Xジェネラル・マネージャーのベンヤミン・イスマイール氏は、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、カンボジアの5社による「グループ内アライアンス」に加え、トルコのLCCペガサス航空など外部パートナーとの連携を強化していると報告した。自社の旅行プラットフォーム「AirAsia Move」では自社便にとどまらず他社便やホテルなども販売しており、「航空会社であると同時にOTAとしても機能する新たなモデルへの移行を進めている」と強調。スマホ上で5クリック以内に購入を完結させるUIの整備や、空港のチェックイン業務自動化、AI活用による組織のスリム化を推進している。
スパイスジェット:インド地方都市需要とハイブリッド戦略
インドのスパイスジェットCCOであるカマル・ヒンゴラニ氏は、運航コストの抑制と30分以内のターンアラウンド(到着から次の出発までの折り返し時間)を武器とするハイブリッドモデルを解説した。インドでは大都市圏の成長率(年約6%)に対し、巨大な人口を抱える地方都市間の直接移動需要が急拡大している。若年層がデジタル予約を活用する一方、中高年層には手厚いカウンター業務が求められることから、両者のバランスを意識していると説明。採算性の精査にあたっては需要予測AIを活用し、無秩序な路線拡大を避けて路線ごとの収益性を高めている。
HKエクスプレス:香港空港の拡張を追い風に「GBA」若年層を取り込む
HKエクスプレスCEOのジャネット・モウ氏は、3年以内に機材数を50機、就航地を50都市へ拡大する目標を掲げた。香港国際空港の3本滑走路稼働および第2ターミナル整備による発着枠拡大は大きな成長機会となる。特に人口9000万人を擁する広東・香港・マカオ大湾区(グレーター・ベイ・エリア=GBA)からの利用者が全体の約3分の1を占め、その6割が21~39歳であることから、デジタル親和性の高い若年層の取り込みを加速させる。
親会社であるキャセイパシフィック航空との「デュアルブランド・モデル」により、同一路線でも時間帯やターゲットを分けることで相互補完を図る。
ベトジェット:ハイブリッド移行と事業革新でCAPA最優秀賞を受賞
ベトジェット取締役会副会長、執行副社長兼グループCFOのホ・ゴック・イェン・フォン氏は、同サミットにおいて同社が「アジア最優秀LCC/ハイブリッド・エアライン賞」を受賞した喜びを表明した。運航開始15年を迎えた同社は、運航効率とコスト管理を強みにハイブリッドモデルへの移行を進めており、機材、テクノロジー、サービス体制への積極投資を継続。日本路線でも各地への直行便網を構築しており、新たに発表した関西/ダナン線を含め、さらなる利便性向上と長期的な価値創出を目指す。
ベトジェット取締役会副会長、執行副社長兼グループCFOのホ・ゴック・イェン・フォン氏(中央)



