発売間近の「iPhoneX」が旅行に与える影響は? 最新の認証技術の行方とトラベル業界が注目すべき機能を考えた【外電コラム】

「アップル」ホームページより

アップルが「我社にすべてお任せください」とばかりに開発した話題の最新機種、iPhone X。いくつもの新しい機能がついているが、もっとも興味深いポイントは、ロック解除に顔認証を採用したところだ。

次世代型の顔認証テクノロジーを実現するため、新機種には2つのカメラが搭載され、3次元で画像を認証。ユーザーの顔に何千ドットもの光を当てて、リアルタイムで形状を確認する。この機能により、様々な新しいことが実現可能になった。例えばユーザーの顔をアニメ化した絵文字を作ることができるし、暗闇の中でも赤外線で顔認証ができる。

最新のアップル製品は、旅行のプロセスにどのような変化や進歩をもたらすのか。SITA(国際航空情報通信機構)の最高技術責任者(CTO)であり、革新的なことで知られるSITAラボの責任者でもあるジム・ピータース氏に聞いてみた。

ピータース氏は、アップルの顔認証と既存の技術との違いについて、以下のように説明してくれた。

3D技術を採用している点です。アップルでは、2つのカメラを搭載し、赤外線ロケーション・システムを使うことで、顔のあらゆる要素を読み取ります。2Dより3Dの方がもちろん正確です。
既存の機器のほとんどは、パスポートの顔認証と同じ2D技術を採用しています。カメラがパスポート写真と、あなたの顔が同じかどうか比べるのです。
最初に顔認証システムを搭載した機種を出したのはサムソン社ですが、これも2Dです。だから、あなた本人がいない場で、あなたの顔写真を見せても、同じだと認識してしまいます。一方、3Dの場合、(生きている)本人であるかどうかまでチェックできます。だから顔認証するときは、むしろ少し動いたほうがよいし、目はしっかり開きましょう。非常に秀れた顔認証です。

顔の細部までチェックできる技術を活かし、iPhone Xでは、持ち主の表情を瞬時に読み取り、アニメ化した絵文字に変換する機能もある。それだけ本人確認の精度が高いということで、セキュリティも数段、強化された。もちろんすべてのシステムには弱点があるが、iPhone X をだますのは容易ではない。

とはいえ、顔などを使った生体認証には、他にもまだ問題は残る。

正しい解を出す確率が何パーセントかという競争がつきまとう。99.99%か、あるいは99.97%か。本人だと判断する確率、誰かと間違える確率という数字の問題だ。
年を取ると、誰でも顔が変わり、正確な認証が難しくなることも悩みだ。パスポートの場合、定期的に更新されるので問題はなさそうだが、例えば8歳と40歳になってからでは誰でも顔が変わるので、こうした変化が正確な認証の妨げになりうる。

ピータース氏が考えるiPhone X の最大の貢献は、生体認証という新しい技術が広く一般に浸透するきっかけになることだ。抵抗感が薄れて、多くの人々が受け容れるようになると予測する。

iPhone X の登場により、顔認証という新しい技術の全般的な認知度が高まり、むしろ嬉々としてこれを使う人が増えるだろう。『iPhone Xで生体認証を使っているのだから、玄関のドアのセキュリティにも使ってみようかな』と。
こうして新しい技術が、当たり前になり、気が付けば毎日、誰もが使うようになる。特に問題が起きなければ、なおさらだ。

2014年、アクセンチュアが世界各国で実施した生体認証に対する抵抗感レベルの調査結果(PDFファイル、英語)では、旅行がもっと便利になるなら、生体認証を使いたいという意見が浮き彫りになった。

同調査に回答した6か国・3000人のうち85%は、生体認証を使った出入国管理の電子ゲートについて、従来型の人間によるチェックより迅速かつ便利だと答えている。

さらに生体認証の電子ゲートを利用した人の72%は、空港以外の場所で自分のID確認の際、生体認証を使うことについて、違和感はないと答えた。

ただし、iPhone Xの顔認証テクノロジーが、電子ゲートや生体認証による飛行機の搭乗手続きでも活躍するかというと、「話はそう簡単ではない」とピータース氏。

(携帯が保持している)顔データは、あくまで携帯電話の中にしかない。搭乗する際にカメラに向かって微笑んでも、カメラがとらえた画像と、携帯電話の中の画像が同一かどうか、確かめるすべがない。ゲートのカメラと、旅客が持っている携帯電話が何らかの方法で情報のやり取りができれば可能だが、今のところ、うまい方法がない。
記事「ジェットブルーと実施した生体認証での搭乗チェックのテスト(tnooz、英語)」では、旅客の写真をあらかじめ米入国管理局に登録してもらい、これと照合した。旅客の携帯電話が空港インフラとインタラクティブにやり取りすること、例えば携帯に向かって旅客が微笑むと、ゲートが顔を認証して開く、といった手法を実用化するには、携帯端末と搭乗ゲート間の通信に関する課題が残っている。
他にも、色々な選択肢があるが、セキュリティ面の問題がクリアできていない。
政府側は、国内の旅行者の本人確認をする際に、関係者以外のデバイスに頼る手法には懐疑的だ。航空業界がiPhone X の新機能を活用する場合、ここが最も難しい。
一番大きなプラス効果は、みんなが顔認証に慣れるという点だ。だがiPhone Xが航空会社のセキュリティ基準を満たすレベルなのかどうかは分からない。

iPhone X に批判的な意見では、新しい機能はすでにアンドロイド機種などで出回っている、アップルがやっと他社に追いついただけ、という指摘もある。しかしアップルといえば、すでにある機能をより魅力的にして消費者にアピールすることや、使い勝手をよりスムーズにするのが大得意だ。手厳しい批評をする人でさえ、新しい3Dでの顔認証については、「評価に値する」としている。

旅行業においては、これ以外にも注目すべき機能がある。例えば、決済の承認確認では、顔認証を使うことでセキュリティのレベルが向上。アップル・ペイ(Apple Pay)なら、より高額な買い物でも、安心してモバイル決済できるとなるかもしれない。

旅行会社なら、新しいグラフィック技術を使った拡張現実(AR)機能で、面白い試みが楽しめそうだ。例えばiPhone Xユーザーを対象に、様々な旅行シーンでのセルフィー体験が提供できる。日常的な接客の場でも、アニメ化した絵文字のパンダのボット(AI)がカスタマー・サービス担当となり、メッセンジャー上でお客様とやりとりすれば、大評判となるのでは。もし実現したら、ぜひ取材させてほしいものだ。

※編集部注:この記事は、世界的な観光産業ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」に掲載された英文記事を、同編集部から承諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事:iPhone X won’t be the future of travel, but it will boost biometric ID adoption


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