航空業界の新たな「流通通信規格(NDC)」は旅行業界の流通革命になるのか? トラベルポートの新たな取り組みを聞いてきた

トラベル・コマース・プラットフォームのトラベルポートは、国際航空運送協会(IATA)と加盟航空会社が主導して導入を進めている新しい流通通信規格NDC (New Distribution Capability)に対する取り組みと今後の見通しについて説明を行った。現在、トラベルポートは、API接続によるNDCを取りまとめるアグリゲーターとして、最高レベルのLevel 3認証を取得。GDSながら、NDCの開発と普及に努めているところだ。

IATAは、2018年をNDCの試験的な年と位置づけ、2019年半ばから2020年にかけてNDCでの取扱量が拡大し、2020年末までにはNDC認証を受けた20の航空会社が取り扱う全流通のうち20%がNDCのAPI接続を通じた予約になると見込んでいる。しかし、説明を行った同社インド亜大陸/北アジア/太平洋地区シニア・コマーシャル・ディレクターのクリス・ラム氏は、「2019年もまだ試験的な取り組みは続くだろう。まだNDCへのAPI接続に対応していない航空会社も多いため、もう少し時間がかかる」との見解を示す。

NDCについて各航空会社との交渉を担当するクリス・ラム氏がトラベルポートの取り組みを説明。

今年後半には試験的なNDC対応プロダクトをリリース

そのような中、トラベルポートでは今年後半に旅行会社向けにデスクトップ上でNDCに対応するプロダクトをリリースする予定だ。

ただ、現在ATPCoでの処理とは異なる操作手順となり、APIで提供される航空会社のコンテンツも従来のものとそれほど変わらないため、「まだ、あまり使われることはないだろう」との見立て。あくまでも「まだ実験的なもの」という認識だ。現在のGDSとNDCのコンテンツを同一画面で、「どちらか意識せずとも手配できるようになる」のは2019年になる見込み。さらに、NDCならではのリッチコンテンツの提供が増える2020年にかけて、「旅行会社の利用度は高まるだろう」と予測する。

IATAがNDC プロジェクトを発表したのは2012年のこと。現在NDC認証を受けているITプロバイダーやアグリゲーターは54社。Level 3認証を受けている航空会社は43社。そのうちIATAが2020年の流通目標に掲げている20社中アジアの航空会社はシンガポール航空、中国南方航空、キャセイパシフィック航空の3社にとどまっているのが現状だ。

IATAや航空会社がNDCを推進する理由とは

では、NDC導入を進める背景には何があるのだろうか。

まず、航空会社にとってGDSに支払う費用が負担になっていると言われているが、ラム氏は「それは誤解だ」と明言する。航空会社はこれまでNDC開発のために多額の投資をしており、今後もさらなる投資が必要になってくるとされている。それよりも、航空会社が重視しているのは、「これまでとは違う価値を提供するところにある」。

これまで運賃は、ATPCoにファイルされたものを旅行会社がGDSの仕組みを活用して計算をしているが、NDCでは、エンドユーザーひとりひとりの特性に合わせた運賃を計算してオファーすることが可能になる。また、API接続によって機動的な運賃提供などにも対応。現在LCCの多くがAPI接続で、柔軟に、素早く、運賃を変更し、エンドユーザーに提供しているが、既存のATPCoではそれは難しいという。

このほか、航空会社の多様化する付帯サービスにも対応。NDCのAPI接続によって、いわゆるリッチコンテンツに対する取り組みも充実することになるため、航空会社にとっては収益の最大化につながり、旅行会社にとっても顧客に対してより決めの細かいサービスを提供することで、収益の確保・増加の機会が増えることになる。

NDCの究極のゴールは「パーソナライゼーション」。エンドユーザーの属性に応じた運賃やサービスを提供するところにある。「顧客ひとりひとりのリクエストに対して、最適な運賃やアンシラリーサービスを返答できるようにする」。そのためには、それを管理運用するruled engineを開発する必要があり、航空各社がAPIの裏側でそのリクエストを仕分けるためのシステムを開発していく必要もある。

現在は、ATPCoにファイルされている運賃と同じものをNDCのAPIに乗せて返答する段階で、「パーソナライゼーションにはまだ時間はかかる」との見解だ。

NDC普及には航空会社、アグリゲーター、旅行会社の協力関係が不可欠

NDCが旅行業界で普及していくためには、「航空会社、アグリゲーター、旅行会社の3者の協力関係が不可欠」とラム氏。現在、航空会社はさまざまな試験的な取り組み進めている。ある航空会社は、自社とのダイレクトコネクトを使わない旅行会社から手数料を徴収し、一方ある航空会社はNDC経由の予約にはコミッションを支払うなど、「アメとムチ」(ラム氏)で旅行会社との関係を試行錯誤している。

IATAは近頃、主要な旅行会社を集めた「Global Travel Executive Council」を立ち上げた。これまでは航空会社を主体としてNDCが進められてきたが、流通の最前線である旅行会社との関係も強化。NDCの枠組みのなかで旅行会社としての意見を反映させる場を設けた。旅行会社は今後、操作端末、ビジネスプロセスやワークフロー、人材の面でNDCコンテンツに対応した仕組みが求められてくる。OTAであれば、NDCコンテンツを踏まえた新しいUI/UXの構築が必要となってくるだろう。

アグリゲーターとしては、API接続する航空会社を増やし、旅行会社に対して、NDCコンテンツを的確に表現できる仕組みを構築していく必要がある。航空会社としては、これまでのブッキングクラスコードだけでなく、今後大幅に拡大していくコードに対するレベニュー管理も求められてくる。

アグリゲーター競争に自信を示すトラベルポート

今後アグリゲーターとしての競争も激化していくと予想されているが、ラム氏はトラベルポートの強みとして、「他社よりも先行している」点を挙げる。

トラベルポートはGDSとして、すでに400社以上とつながっているほか、独自規格のAPIで24社の航空会社と接続している。また、同社オリジナルプロダクト「アグリゲーテッド・ショッピング」を展開しており、アグリゲーターとしての実績も持っており、たとえば、ロンドン/パリ線を検索する場合、ブリティッシュ・エアウェイズやエールフランスのほかLCCのイージージェットやライアンエアー(API接続)、鉄道のユーロスター(API接続)の料金を一律に比較することが可能。「NDCという新しいAPI接続が登場しても、基本的に現在のシステムにつなぐだけ」と優位性をアピールする。

「NDCは、もう後戻りはできない。それぞれ主体的に取り組んでいく必要がある。その結果として、消費者の利益に貢献していかなければならない」とラム氏。単なる流通から価値の提供へ。旅行業界の流通革命が今後どのように進展していくのか注目だ。

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