世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は、地中海の島国マルタで第26回グローバルサミットを開幕した。開幕に合わせて首都バレッタで開かれた記者会見では、WTTCのグロリア・ゲバラCEO、マルタ観光局(MTA)のカルロ・ミカレフCEO、ジョー・エティエンヌ・アベラ観光相らが登壇。世界と欧州の旅行・観光産業の成長見通しに加え、マルタが進める「量から価値へ」の転換、持続可能性、地域社会との共存、オーバーツーリズムへの対応などについて考えを示した。
今回のサミットには、世界の観光・旅行業界のCEOや政府首脳など200名以上を含む、世界各国から1000名超の参加者が集まった。
世界の旅行・観光産業について、ゲバラ氏は経済への寄与額が11.6兆ドル(約1833兆円)、世界GDPの約10%に相当し、雇用は3億6600万人、世界の雇用のおよそ9人に1人を支えていると説明した。2026年の世界全体の旅行・観光産業は2025年の2.6%の成長率を上回ると見込む。
欧州については、2026年の旅行・観光産業が3.1%成長するとの新たな予測を示した。前年から伸びが加速する見通しで、国際旅行者の消費額は5.8%増、レジャー旅行は3.2%増、ビジネス旅行は4.2%増を見込むという。ゲバラ氏は「欧州は前年よりも良い状況にあり、数字は我々が予想していたよりもかなり良い」と述べた。
世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)のグロリア・ゲバラCEO
マルタ観光、「量から価値へ」、通年型・高付加価値を軸に
開催国マルタでは、旅行・観光がGDPの16.6%を占め、雇用の約5人に1人が同産業に依存しているとWTTCは試算している。ゲバラ氏によると、2025年のマルタの旅行・観光産業の成長率は16.8%で、欧州平均の2.6%を大きく上回り、欧州で最も高いパフォーマンスだったという。ゲバラ氏は、その背景として政策と官民連携を挙げた。
一方、マルタ側が強調したのは、単純な旅行者数の拡大ではなく、観光が生み出す価値そのものを高めていく方向性だ。
マルタ観光局のミカレフCEOは、今後の観光について「季節単位ではなく戦略的に、四半期ではなく数十年単位で考えなければならない」と指摘。マルタとゴゾ島の観光を「高付加価値で通年型、持続可能で地域社会にプラスとなり、独自のアイデンティティに根差したもの」にしていく考えを示した。
その実現に向け、5つの重点項目を提示した。旅行者数を追う「量」から「価値」へと軸足を移すこと、季節・地域・旅行者セグメントの面で観光需要をより適切に分散させること、質の高い独自の体験に投資すること、デジタルとサステナビリティの変革を加速させること、そして官民連携と人材を通じてレジリエンスを高めることだ。
また、航空会社、クルーズ会社、OTAなどとの連携を強化し、島国に不可欠なアクセスを維持・多様化する方針も説明した。観光人材については、研修、スキル向上、キャリア開発に取り組み、若者にとって観光を魅力ある専門職にしていく考えを示した。
さらに、観光政策を気候変動、インフラ、住民のウェルビーイング、文化、デジタル化、教育といった国の幅広い政策と整合させる必要性を強調。「観光を孤立した分野として扱うことはできない。国の将来をどのように計画するか、その中に統合されなければならない」と語った。
MTAのチャールズ・マンジオン会長も、成長と責任の両立を強調した。「成長を続けなければならないが、その成長には責任が伴わなければならない。競争力を維持しながら、マルタを特徴づけるものを守る必要がある」と述べ、技術革新を取り込みながらも、旅行とホスピタリティの中心には人の体験を置くべきだとした。
観光の成果についても、単純な到着者数ではなく、地域にもたらす価値で評価すべきとの考えを示した。「何人を迎えたかだけではなく、どのような価値を生み出したかで考えるべきだ」とし、観光の恩恵が旅行者や企業だけでなく、地域社会にとって意味のあるものになることが重要だと訴えた。
観光はGDPの約17%、マルタ観光相「世界の観光の首都に」
アベラ観光相は、WTTCグローバルサミットの開催について、「今後3日間、マルタ、とりわけ首都バレッタは世界の観光の首都になる」と表現。200人を超える企業CEOが集まり、投資機会、雇用、持続可能な観光モデルについて議論することの意義を強調した。
特に小国であるマルタにとって、経済成長と住民の受け止め方とのバランスは重要な課題だとの認識を示した。アベラ氏は、経済、社会、環境の3つの側面の相互作用が持続可能性の中核になるとし、サミットでの議論に期待を示した。
マルタ観光局のミカレフ氏も、観光の将来像について、ビーチ、歴史、食文化といった従来の観光資源だけで語るのではなく、「小さな国が大きく考え、長期的に考える」姿勢が重要だと説明。「観光が経済と地域社会にとって良い力であり続けることを確実にしたい」と述べた。
地政学・AI・人材など8つの優先課題、オーバーツーリズム対策も
今年のサミットのテーマは「Future Reset」。MTAのマンジオン会長は、将来を見るだけでなく、現在地を見直し、経験から学び、目的を持って将来を形づくる姿勢を示す言葉だと説明した。気候変動と持続可能性、人材、テクノロジー、消費者ニーズの変化、地政学・経済の不確実性など、観光産業を取り巻く課題は一国や一企業だけでは解決できず、政府、デスティネーション、企業、投資家、地域社会、国際機関の協力が必要だとした。
世界の旅行・観光産業が直面する課題について、ゲバラ氏は、WTTCが8つの優先課題を設定していると説明した。具体的には、地政学上の問題、ジェット燃料価格、中東を含む一部地域での座席供給や接続性の低下、シームレスな旅行、AIの活用、人材などを挙げた。
ゲバラ氏は、この8つの優先課題について「課題を管理するだけでなく、成長を解き放つためのロードマップになる」と説明。地域ごとに優先順位は異なるものの、各国政府と連携しながら対応していく方針を示した。
また、今後10年間で旅行・観光産業が9100万人の雇用を創出するとの見通しにも触れた。今回マルタに集まった経営者の投資先、人材採用、導入する技術などの意思決定が、世界の観光産業の将来に影響を与えるとの認識を示し、「このイベントは議題を整えるだけでなく、その議題を実行するためにも重要だ」と話した。
オーバーツーリズムについては、WTTCが進める「デスティネーション・スチュワードシップ」を紹介した。7つの原則を設定し、政府との連携を強化しながら、観光を国家計画の中に位置づける考えだ。
ゲバラ氏は、旅行者の増加が地域の交通、水、廃棄物などにも影響することから、観光政策を地域全体の計画と一体で考える必要があると説明。「観光の恩恵は地域住民にも旅行者にも良いものでなければならない。双方にとって良いものであることで、そのエコシステムを維持できる」と述べた。
さらに、人気観光地への集中を緩和するには、旅行者をより幅広い地域へ分散させることも必要だとした。小規模な都市や地域社会にも経済的、社会的な恩恵を広げながら、文化資産や自然資産を守ることが重要だと強調した。
今回のサミットでは、こうした課題を官民双方のリーダーが議論する。マルタ側は、自国をその議論の開催地としてだけでなく、通年型、高付加価値、持続可能で、地域社会に利益をもたらす観光モデルを模索する場として位置づけている。
※ドル円換算は1ドル158円でトラベルボイス編集部が算出
取材・文: 鶴本浩司



