老舗OTA・アップルワールド社の新たな経営計画、取扱高2倍を目指して海外展開を本格化へ

日本の老舗OTAであるホテル予約サイト、アップルワールドの全株式を投資ファンド(※)が取得してから1年。先ごろ、「3年後の取扱高2倍」を目指す中期経営計画を策定し、新体制下での取り組みが動き出した。※アント・キャピタル・パートナーズ運営の「アント・カタライザー4号投資事業有限責任組合」

規模で世界を席巻する海外OTAや既存の旅行ビジネスモデルに依らない異業種からの新参入など、目まぐるしく変化する日本のオンライン旅行業界において、投資会社はBtoBをメインとするアップルワールドのどこに価値を見出したのか。中期経営計画の目標達成に向けた方向性は――。

共同創業者の一人である代表取締役社長の真柄聖彦氏と、アント・キャピタル・パートナーズから入った代表取締役副社長の小木尊人氏に話を聞いた。


内製の独自システムに自信

代表取締役社長の真柄聖彦氏

アップルワールドの主要マーケットである日本人の海外旅行は、激増する訪日旅行とは対照的に前年割れの推移が続いている。加えて、旅行形態では団体旅行からFIT、旅行手配ではリアル販売からネットへのシフトなど、構造的な変化も起こっている。

しかし、アップルワールドの取扱いは「対前年プラスで動いている」(真柄氏)。景気の上向き基調で法人需要が伸び、円安や情勢不安、感染症の影響を受けてスローダウンした個人旅行をカバーした。方面や取扱い旅行会社の一部に変化はあったものの、「顧客(旅行会社)の顔ぶれもほとんど変わらない」という。

この好結果について真柄氏は、内製で開発した独自の仕入れシステム「マルチベンダーシステム」の強みを強調。ホテルがリスク分散のために、時期や階層を組み合わせてアロット(販売チャネルへの客室供給の配分)を細分化するなか、同社が「ホテルにとっては現実的な販売を実現し、ホールセラーとしては多彩な商品が提供できる。そこが同業他社と違う」と強調。旅行会社が短時間で確実に予約できる使い勝手の良さも追及しており、「コンファーム率は業界一だと思う」と、胸を張る。

取り扱うホテルのラインナップもポイントだ。現在のホテル契約数は海外が10万6000軒、国内が5000軒。バブル後に旅行業界を揺るがせた景気変動や世界情勢時の動向を分析し、4つ星と5つ星のホテルを拡充した。この理由を真柄氏は「安定的に旅行するマーケットが購入するクラス。景気変動の影響を受けにくい」と話す。オンライン販売では価格競争に目が行きがちだが、「うちは参加しない。3つ星を求めるお客様はバーゲンハンターで、顧客にはなる可能性は低い」と見る。

こうしたシステムとネットワークを含む仕入れの盤石さが、投資ファンドとしても「一番の魅力」だと小木氏。これを基盤に「販売の伸びしろがある」と判断した。この思惑が、先ごろ設定した新中期経営計画にも反映されている。


グローバル事業の成長に期待

代表取締役副社長の小木尊人氏

新中期経営計画で大きく変わったのは、ビジネスラインを「国内BtoB」「国内BtoC・ウェブマーケティング部」、そして4月から本格稼働した「グローバル販売部」の3部体制に明確化したことだという。当面は主軸をBtoBに置きつつ、今後はBtoCとグローバル事業を育てていく。

特にグローバル事業は、ほとんどがアウトバウンドだったアップルワールドにとって新しいマーケット。小木氏も「未来があるところ」と、最も期待を寄せている分野だと語る。

グローバル展開においても、BtoBが中心。海外でも、多忙な旅行会社の店頭のニーズは日本と同じだ。「話をするとこんなに便利なものがあるのか」と好感触だという。現在はアカウント開設の営業成果が見えてきたところで、間もなく本格的に運用開始となる見込み。

「3年後の取扱高2倍」の内訳は「国内BtoB」が大きい想定だが、グローバル事業の状況次第では「もっと上をいくポテンシャルもあると思う」(小木氏)と見る。

BtoCに関しては、「爆発してみたい気持ちはある」(真柄氏)といいつつも、「今までの限られたリソースでは、そのノウハウはない」と冷静。OTAに対する消費者の価格志向は強く、特にマーケティングに大規模な予算を投下する外資OTAとは「真っ向から勝負するところではない」(小木氏)と、別の道を歩む考えだ。それでも「確実にマーケットがある」という。

というのも、現在は「特に何かしているわけではないが、伸びてもいないが減ってもいない」(真柄氏)状態だからだ。1年に10回旅行するようなヘビーリピーターのコアなファンに支えられているといい、こうした旅行やホテルが好きな客層に絞ったマーケティングをしていく方針だ。ただし、加齢とともに将来的に減少するのは明白。そこで「新しいアイディアを注入しなくてはいけない。そのあたりは研究している」。

真柄氏は、次々に出てくるオンライン系の新サービスとの連携も「避けて通れない」との考え。OTAに宿泊施設の在庫を提供するBtoBサービスのほか、BtoCではメタサーチとも連携している。メタサーチとの連携では、専用のサーバを増やすほどアクセスがあったといい、「常にベネフィットを見極め、効率さえよければ積極的にやりたい」と考えている。


独自の土俵を行く

アップルワールドのBtoCサイト。最上部の写真はBtoBサイト

過去の活動でアップルワールドは、BtoCで「How to be a smart traveler」をテーマに、本物のFITになるためのノウハウをメルマガやウェブ上で提供し、書籍の発行も手掛けてきた。「アップル博士のホテル講座」は、海外旅行部門のコラムで読者数日本1位になったこともある。

また、国内でのクチコミ導入のはしり的な存在で、トリップアドバイザーの日本上陸時には日本語のクチコミ提供も行なっていた。2015年5月には、クチコミ件数が10万件を突破。こうした活動は現在、隆盛するコンテンツマーケティングの先駆けで、その効果が現在の顧客のエンゲージメントの強さに表れている。

また、当時は世界初だったというホテルのマルチベンダーシステム(複数の手配会社による宿泊プランを一括検索、予約手配できるシステム)の開発など、先駆的な取り組みも推進。「ハイシーズンでも取れる」ことやリアルタイムで各種宿泊料金を見せることを強みに展開してきた。

しかし、現在の一番の課題は「アップルワールドを知らない若いスタッフが存在すること」(真柄氏)。年4回発行していた紙タリフを廃止し、いち早くウェブへの完全移行も果たしたことが、逆に店頭スタッフなどとの関係性を希薄化してしまった一面があるという。こうした反省を踏まえ、今後は旅行会社の若手スタッフ、手配担当者への営業やサポート体制などへの投資を強化していく方針だ。

真柄氏によると、1992年の会社設立時に、前社長の共同創業者とめざしたのは、労働集約型産業である旅行業界での「脱・旅行業ビジネスモデル」だった。だから、効率化を進めつつ、システム志向の旅行会社として開発部門を重視し、利益は積極的にシステムに投資してきた。「システムの質と人間工学的な利便性を高めて、ホスピタリティに溢れた面白みのあるサイトが、常にゴールにある」(真柄氏)といい、それはこれからも変わらない。

今後、その実行とともに明らかになる中期経営計画の具体的な施策、企業価値向上への動きに注目していきたい。

  • 聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫
  • 記事:山田紀子

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