シートリップ、「旅館」のサイト表示や販売システムなどを改善へ、中国の本社(上海)で日本の旅館関係者と協議

中国大手のOTAシートリップ(Ctrip)が、日本の「旅館」の特性にあったオンライン販売に向けた開発を開始した。2019年6月、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部(全旅連青年部)と日本旅館協会から5名の役員が上海本社を訪問。シートリップの役員やシステム、マーケティング、プラットフォーム管理などの各担当責任者と旅館関係者が直接顔をあわせ、現状の課題解決に必要な事項を話し合った。その会議の内容を取材してきた。 ※写真はシートリップ本社のある複合施設「SKYBRIDGE HQ天界」

シートリップによると、特定カテゴリーの宿泊施設と直接意見を交わし、双方のビジネスモデルに合致する開発を試みるのは、世界でも日本の旅館が初めて。昨年12月に、傘下の「トリップドットコム(Trip.com)」で発生した在庫がない客室販売の問題を受け、全旅連青年部と日本旅館協会の要請で協議の場が設けられた。そこで話された、旅館がグローバルOTAで販売する際に直面する問題を改善することが、ユーザー満足にも必要だと判断した。

世界でもユニークといわれる旅館をどのように世界に流通し、ユーザーと旅館に有益な販売ができるのか。「前払い式の予約依頼(オンリクエスト方式の予約)」に関する表示・通知の改善とともに、分かりやすい発信と世界で販売しやすい仕組みを、旅館と共同で構築しようとしている。

宿泊客が安心して旅館を利用できるために

旅館の特殊性とは、どういうことか。例えばサービスでは宿泊に1泊2食の食事が付き、食事場所も部屋食やダイニングなどさまざま。築年数の長い旅館などは施設の構造上、客室タイプが一室ずつ違うなど特異なケースも少なくない。それぞれに説明が必要で、料金設定も異なってくる。

今回の会議でも、旅館側から「全20室規模の旅館でも客室タイプが10~20ということもある。料理も複数ランクを用意しており、料理と部屋の組み合わせが100通りになることもある」など、旅館の特殊性が説明された。

一方で、客室タイプが別のものであっても、馴染みの少ない外国の人には同じように見え、似たような客室や食事が同一商品として販売されることもあった。これは、グローバルOTAがプラットフォーム化する中で増えている代理店販売で見られるもので、「ベッド付き和室のはずが布団の部屋に案内された」など、宿泊客が予約時に案内された内容と代理店からの通知の通りに確保していた客室が違うことが、チェックイン時に発覚することもあるという。

会議の初日、シートリップのホテル事業・首席商務官(CBO)の周栄氏は、昨年12月にトリップドットコム(Trip.com)で発生した問題に対する謝罪をした上で、「(それをきっかけに)日本旅館の特別さを理解し始めた。旅館が求めるやり方で正しい情報発信をする流れを作り、ユーザーに分かりやすいシステムを構築することが最終目標」とプロジェクトに対するシートリップとしての考えを話した。

25日の夕方に行なわれた幹部同士の会合。シートリップからはホテル事業の首席商務官(CBO)・周栄氏、東アジア地区ホテル事業の総経理・劉楊氏、日本代表の蘇俊達氏が参加。旅館からは日本旅館協会副会長の永山久徳氏、全旅連青年部部長の鈴木治彦氏、政策担当副部長の星永重氏(藤龍館)、総務広報委員会委員長の中西敏之氏(南禅寺 八千代)、流通・インバウンド委員会委員の河本孟徳氏(嵐山辨慶)

全旅連青年部部長の鈴木治彦氏(名泉鍵湯 奥津荘)は、「旅館は世界でも特殊な商習慣があるが、旅館文化を理解いただいた上で協力関係を構築できれば、中国はもちろん、世界の旅行マーケットに素晴らしいものを提供できる。ぜひ世界のユーザーに旅館の独特のサービスを正しく伝えられるものを開発されるよう、お願いしたい」と述べ、旅館を世界で販売する仕組み作りに協力する意思を示した。

日本旅館協会副会長の永山久徳氏(ホテルリゾート下電グループ)は、OTAの代理店契約(プラットフォーム化)を含め、この数年でオンライン旅行流通が大きく変わっているなか、「我々もわからないことがたくさんあり、消費者も混乱している」とし、世界の商習慣が日本市場に十分に浸透していないことを指摘。特に、「我々が問題視したのは、日本にはない“リクエスト予約”」と述べ、「両方の立場で歩み寄りながら、最終的にユーザーに分かりやすい商品販売が行なわれるよう、お願いしたい」と話した。

周氏は「弊社も全旅連、日本旅館協会も、カスタマーファーストで一致している。今後は、双方のお客様満足度の向上を目指してコミュニケーションを密にし、Win×Win関係を作らせていただきたい」と話し、今回のプロジェクトについては、第1フェーズの商品を9月末を目途に稼働すると表明。その後も調整しながら開発の手を緩めず、子会社化した旅行比較大手の英国スカイスキャナーや、インドの大手OTAメイクマイトリップにも波及させる方針だ。

左から蘇俊達氏、鈴木治彦氏、周栄氏、永山久徳氏、劉楊氏

前払いの予約依頼(オンリクエスト方式の予約)を分かりやすく

今回の会議の論点は、(1)前払い方式の予約依頼(オンリクエストやリクエスト予約と呼ばれることが多い)への対応、(2)旅館販売に必要な情報発信の仕組み作りと代理店販売の対応、(3)旅館のマーケティング、の3点。このうち特に議論が白熱したのはやはり、リクエスト予約への対応だ。

現在、日本では機能を停止しているリクエスト予約だが、旅館側では販売間口の広がる施策として理解する施設もあり、実際、リクエスト予約の停止後に予約が減少した旅館もあるという。ただし再開には、その仕組みが正しく機能し、誤解なく使用されることが大前提。旅館側からは「昨年まで施設側もお客様もリクエスト予約を知らなかったのが問題」と、説明不足を指摘する声も上がった。

海外プラットフォームサービス管理のディレクター・陶莉萍氏は、「リクエスト予約は宿泊施設の協力があって成り立つ仕組み」とし、安全かつ安心な環境整備とユーザーと施設との関係構築を前提に、再開する方針を説明。

その後、ホテルプロダクトマネージャーの叶博賢氏が、現在開発中の表示の仕方を示し、シートリップ・エアチケッティング・ジャパン・ゼネラルマネージャーの吉原聖豪氏が、意見をすり合わせていく形で進行した。

2日は午前から夕方まで会議が行なわれた。写真はオンリクエスト表示の会議

旅館側からは宿泊施設の経営者の視点と同時に、ユーザーの立場での意見も提示。「支払いの時点で予約がとれていないことを、もっと直感的に伝えられないか」「予約という言葉は日本では『予め約束されたこと』の意味が含まれるので、『予約』の文字が入ると分かりにい」「『まだ確定していません』『キャンセル待ち』と表示した方が良い」など、細かい提案がだされた。

これに対して叶氏は、オンリクエスト方式でも9割の予約依頼が完了することから、「『キャンセル待ち』では予約がされない可能性が高いように感じられる」など、シートリップ側の考えを説明。その一方、「リクエスト予約をするユーザーが今、どの状態にあるのかプロセスが見えた方が良い」という旅館側の意見には、「プログレスバーで現在のステップを表示してはどうか」と呼応し、その場でイメージを作成してプロジェクターに投影して見せた。これをたたき台に、両者でさらに分かりやすい表示へと詰めていくことが決定した。

旅館文化を伝える大切さ、満足度向上にデータ活用も

また会議では、旅館の大きな特徴の一つ、食事に関する情報掲載の説明もあった。サイト上での食事の説明については、旅館の情報ページから予約完了までに切り替わる画面のすべて(4回)で、食事内容から料理画像(イメージ)、メニュー詳細などを確認できるようにする予定。早ければ8月にも稼働できる見込みだ。

これ以外でもシステム管理では、子供料金を大人料金のパーセンテージで設定したり、キャンセル料は時期に応じて段階的に設定できるようにするなど、宿泊施設の基準で子供料金とキャンセル料の設定ができる変更も行なう。

さらにマーケティングでは、今年6月から隔月で計4回の旅館キャンペーンを実施する。「海・湖が見える温泉地」「散策が楽しい温泉地」「カニor和牛の食べられる温泉地」「雪が見える温泉地」と、中国人ユーザーの関心の高いテーマで温泉地を5つピックアップ。温泉地紹介の下に宿泊施設を入れ込み、特集を見て行きたくなったらすぐに予約できるようにした。月間アクティブユーザーが10.4億人のウィーチャット(WeChat)の公式アカウントでも発信する予定だ。

シートリップのアプリ画面。左が上部に展開された旅館キャンペーンのバナー。ここをクリックすると中央の特集画面に。熱海温泉の紹介の下に旅館などの宿泊施設を掲載(左写真)

このほか旅館側からは、他の宿泊施設とは異なる旅館独自のサービスについて、誤解なく伝えるための情報掲載を要望する声も上がった。「オンライン販売ではサイト上の情報量が少ないため、お客様が間違った理解をして泊まりに来ることもある」と現状の問題点を伝える一方、「日本の文化をほぼ堪能できるのが旅館文化。そのことをぜひ、旅行検討中のユーザーに伝えていただきたい」と、その解決のためにも旅館文化を伝える意義を訴えた。

シートリップグループ日本代表の蘇俊達氏は、「宿泊の中に食事や温泉などがあり、それぞれが一つの体験。それをあわせたものが旅館の文化であることをユーザーに理解していただきたいと思っている」と呼応。特に初めて旅館を利用するユーザーに対しては「旅館の利用の仕方や振舞いが分からない。温泉の入り方や夜は静かにゆったりと寛ぐことが好まれることなどを教育的な意味を含めて伝えていきたい」との考えも示した。

日本の旅館側からも「我々も、中国の旅行者が旅館に求めるニーズを把握しきれていない。ぜひ、教えていただきたい」と要望。蘇氏は、宿泊や航空券に加え、空港送迎やチケット、レストラン予約などシートリップが販売するあらゆる旅行商品を組み合わせることで、「日本での行動が分かってくると思う」と述べ、相互の顧客満足度向上に向け、データを活用した情報提供にも取り組む考えを示した。

取材協力:シートリップ


取材:山田紀子

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