トリップアドバイザーの日本トップに聞いてきた、日本人ユーザーが倍増した秘訣から3年間で起きた大きな変化まで

旅行のクチコミサイトからホテルのメタサーチ、レストラン予約、タビナカ体験の「トリップアドバイザー・エクスペリエンス」へと事業を拡大しているトリップアドバイザー。その日本法人の代表取締役に牧野友衛氏が就任して約3年が経つ。「大枠では当初立てていた計画どおりに進んでいるが、環境の変化もあった」。そう振り返る牧野氏に、その変化の中身や日本市場の特長、今後の注力ポイントについて聞いてみた。

日本人ユーザー数は二倍に、トラフィックの多くは国内旅行

日本人ユーザーを増やすことと日本での売上を伸ばすことーー。この日本法人トップとしての使命に対して、牧野氏は特に2つのことに注力してきたという。まずは国内の掲載施設数を増やすことだ。プラットフォームはただの「箱」であり、大事なのはその中身と使われ方。数年前と比較すると、「日本のホテル、観光施設、レストランなど数は他社と遜色ないレベルにまで達した」とコンテンツの拡充に自信を示す。

もうひとつはローカライゼーションのクオリティーを上げること。ほぼ完全に日本語化を実現し、掲載施設数の増加に合わせて検索の精度も上げた。サイト内検索、ディレクトリー検索、サジェスト機能(変換前に途中で地名などの候補が出す検索補助機能)を加えることで、使い勝手を向上させた。「訪問者にいかに居心地良く使ってもらうかが大事。それがなければ、また訪問してもらえない」からだ。

その結果、トリップアドバイザーとしてはユーザー数を公表していないが、第三者機関のデータでは、アプリ利用者も含めた日本人のユーザー数は二倍に増えた。現在日本のトラフィックの8割が国内旅行で利用する日本人ユーザー。この傾向は日本の特長となっており、たとえばアメリカでは逆に海外旅行で利用するユーザーの方が多いという。

また、日本では観光施設のトラフィックが一番多く、これもまたホテルのトラフィックが多いアメリカとは閲覧傾向が異なっている。牧野氏は「マーケットによってユーザーの求めているものは違う。それに合わせてコンテンツをすり合わせていくことになる」と話す。

レストランとタビナカで大きな変化

日本マーケットの成長に合わせて、「大きな変化が2つあった」と牧野氏。ひとつはレストラン予約の増加で「日本でも意外に早く浸透した」と振り返る。日本では2016年から「ぐるなび」と提携。「ぐるなび」が所有する日本国内のレストラン情報がトリップアドバイザーに掲載され、「ぐるなび」のレストランページへの予約導線が引かれている。多言語化することで、日本人ユーザーともに訪日外国人の利用も増加した。

他国ではレストラン予約プラットフォームを買収することでレストラン事業を拡大させている。たとえば、ヨーロッパでは2014年に「ラ・フォシェ」を買収、トリップアドバイザーのレストラン予約機能として運用しており、ユーザーの評価も高い。牧野氏は「トリップアドバイザー全体としてレストラン予約をやるのか、それともマーケットごとにアプローチを変えるのか、今後の展開次第」と話すが、いずにせよトリップアドバイザーでは成長分野として位置づけている。

もうひとつは、タビナカ市場の急成長だ。これは。近年、日本を含めた世界的トレンドとなっているが、トリップアドバイザーはいち早いタイミングといえる2014年に体験アクティビティのオンライン予約サイト「Viator (ビアター)」を買収。現在サプライヤー向けにはブランド名を「トリップアドバイザー・エクスペリエンス」として展開している。「日本で注目され始めたのは昨年あたりから。日本政府が現地消費額を上げる策として『楽しい国日本』を打ち出し始めたころではないか」と牧野氏。トリップアドバイザーでは全社的にエクスペリエンスに力を入れており、そのなかでも日本はフランスとともに注力市場に選ばれているという。

日本法人では国内サプライヤーを増やすために専任の営業担当も置いた。サプライヤー登録では、英語に加えて日本語での入力も可能にした。訪日向けには「トリップアドバイザーに登録すれば、世界中で売れる」(牧野氏)ことが最大のメリットとアピールする。

一方、エクスペリエンスの日本人ユーザー獲得にも力を入れており、決済ではJCB対応可能にしたほか、日本人旅行者向けの品揃えも増やしている。ユーザーサイドの入口となるビアターでもいち早く日本語に対応した。

牧野氏は「エクスペリエンスのグローバル展開で日本がテスト場になっている」と明かす。日本人ユーザーの増加に合わせて、登録サプライヤーも増えるというポジティブスパイラルがグローバル展開での指針になっているようだ。そのうえで、今後は美術館や博物館など観光施設のチケット事前購入サービスが拡大すると予測し、「消費者にとってはチケット購入で長い列に並ぶ必要がなく、サプライヤーにとってもキャッシュレス対応が可能になる」とその利点を説明する。サプライヤー側にとっては、長時間並ばないことをインセンティブとして、通常よりも高い価格で販売することも可能になるかもしれない。

日本の旅行市場のデジタル化は遅れている?

牧野氏は、トリップアドバイザー入社前は、GoogleやTwitterなどで製品開発や業務提携などを歴任。Google時代には、Googleマップの日本導入にも尽力した。旅行ビジネスに携わるのはトリップアドバイザーが初めて。その印象として「旅行業界はBtoBがすごく強い」と驚きを隠さない。インターネットはスイッチングコストが低いため、ユーザーは気に入らなければすぐにサイトから離れていってしまう。だから、消費者のことを常に考えて、使い心地のよさを改善する。「そういう話は旅行業界ではあまり聞かなかった」と話す。

それでも、近年状況は変わってきたという。消費者を意識するマーケティングの発想も強くなってきた。きっかけはインバウンドだ。牧野氏自身も、データを示してターゲットを明確にすることの重要さを説明する機会が増えてきたという。「魚がいるかどうかもわからないところに、釣り竿を垂らしてもだめだろう」と。そして、トリップアドバイザーとして、そうした事業者の取り組みの変化に合わせて、今年はじめて訪日外国人の動向をデータ化した「インバウンドレポート2019」を発表。これまではテーマごとにレポートをリリースしていたが、市場全体の動向をまとめた。

また、牧野氏はグローバル企業の日本法人という視点から、世界と日本との違いにも言及し、日本の旅行形態の特長として「紙のガイドブックなどまだオフラインが強く、インターネット、特にアプリの利用が相対的に低い」と指摘する。インバウンドでは成長分野としてデジタルを駆使して市場に参入する若い世代が増えているが、事業者でも消費者でも全体的にはオフからオンへの移行はゆるやか。牧野氏はその要因を「既存のチャネルが強く、デジタルがなくてもまだ便利に旅行できる環境があるからだろう」と分析したうえで、メディアでも販売でも「しばらくはオフラインとオンラインが共存していくのではないか」と見通した。

さらに、「日本人は予定をすべて決めてから旅行に出る傾向が強い」ことも特長として挙げる。この傾向から、トリップアドバイザー日本法人としては、タビマエのプランニング段階でのプロダクト開発に注力していく考えだ。

製品開発の第一歩はよいユーザーであること

牧野氏は、時間がある時はずっとトリップアドバイザーを見ているという。ある日は27回アプリを立ち上げた。「どのようなものが投稿されているのか、雑誌などで見つけた施設があるかどうかなど、感覚的にはテストしている感じ」と笑う。製品開発の第一歩はよいユーザーであること。「基本的に自分が使いたいプロダクトを出したい。いい製品とは自分が欲しい物。使えば課題も見つかる」。

世界最大の旅行のクチコミ量を誇ってきたトリップアドバイザーは、現在ではワンストップでホテル、観光、レストラン、そしてタビナカを見つけることができるプラットフォームに変化した。それはサプライヤー側にとっても大きな魅力だ。また、内外の旅行者を呼び込みたい自治体やDMOにとっても強力なツールにもなっている。最近では、自治体やDMOが地元の観光コンテンツを発信するアドソリューション「デスティネーションスポンサーシップ」を開始した。

ユーザーファーストで開発を推し進めてきたトリップアドバイザーという「箱」には、今後どのようなコンテンツが入り、デジタル化が急務の日本の旅行市場にどのような化学変化を加えていくのだろうか。

聞き手: トラベルボイス編集長 山岡薫


記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹

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