日本観光振興協会の最明(さいみょう)です。
今回は、2028年度中に新たに導入されるといわれる日本版ESTA「JESTA」について、考えてみました。
※写真:ユーロスターでロンドンに出国する旅行者で混雑するパリ北駅(筆者撮影)
観光庁関係の2026年度予算案が国会で審議されています。総額は1383億4500万円と2025年度(579億2900万円)の2.4倍、年度初予算としては過去最高の破格の水準となりました。
日本観光振興協会では、観光を日本の「成長産業」として位置づけるべきだと、これまでさまざまな提言・要望活動をおこなってきていました。3月に取りまとめられる第5次観光立国推進基本計画の素案では「観光産業は国内第2位の輸出産業に急成長しており、地域経済・日本経済の発展をリードする『戦略産業に』」とより力強い表現が盛り込まれ、大変喜ばしいことと考えています。
2026年度予算はこれを先取りする形で、3本柱の施策を打ち出しています。
- インバウンドの受入れと住民生活の質の確保
- 地方誘客の推進による需要分散
- 観光産業の活性化
裏づけとなる財源の大半は7月から3000円に改定される国際観光旅客税(旅客税、いわゆる出国税)1300億円です。出入国者数が伸びれば伸びるほど、税収も大きくなる「インセンティブ税」とも言えるでしょう。
これまでのように国に対して、ただ支援や配分を仰ぐだけでなく、観光をさらに発展させ、産業として経済波及効果を高め、税収を予算以上に増やして国家財政にも貢献していくという気概と高い志が求められます。観光に対する国民の理解と評価を高めるためにも、関係者全員が緊張感を持たなければならないでしょう。
新たに導入される日本版ESTA「JESTA」とは?
2025年、政府は短期滞在ビザ免除の国・地域からの来訪者に対して、電子渡航認証制度「JESTA(日本版ESTA)」を2028年中に適用する方針を公表しました。
高市政権が掲げる外国人政策の一つに、国民の安全・安心を守るための出入国管理の厳格化、DXがあります。訪日旅行者の増加とともに懸念される犯罪者、不法滞在者の入国を防ぐことと併せ、入国審査の自動化などによる効率化と迅速化を目指す「事前入国審査」の仕組みです。
短期滞在ビザ(査証)免除国に対して適用され、ビザとは異なり、渡航者本人に対して取得義務が課される認証制度として構想されています。認証未取得の場合、渡航者は航空機や船舶への搭乗自体が拒否され、日本に渡航することはできません。
現時点では未確定ですが、報道によると手数料は3000円ほどを想定しているとのことです。このニュースを聞いたとき、「旅客税とESTA手数料を両方納める国はあるのか」「旅客税と合わせると、日本に入国するために6000円の負担が必要になるが、好調なインバウンド需要に影響は出ないか」「長い時間をかけて71の国・地域に広げてきた短期滞在ビザ免除政策に逆行しないか」「日本のイメージを損なわないか」といった素朴な疑問が湧きました。
関係者に問い合わせをしたのですが、当時はほとんど明確な回答を得られませんでした。本コラムは、現時点で得られる情報に推測も交えながら執筆していますので事実誤認があれば、ご容赦ください。
国際観光旅客税(旅客税財源)の目的と使途
財務省のホームページによると、旅客税は「観光先進国の実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための財源を確保するための税金」としています。
使途は、「外国人観光旅客の来訪の促進等による国際観光の振興に関する法律」(平成9年法律第91号)に基づき、2030年に訪日外国人旅行者6000万人等の目標達成に向けて、次の3分野に限定されています。
- ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備
- 我が国の多様な魅力に関する情報の入手の容易化
- 地域固有の文化、自然等を活用した観光資源の整備等による地域での体験滞在の満足度向上
第5次観光立国基本計画や2026年度観光庁関連予算では、これらを根拠とする具体的な施策に旅客税財源を充てられます。本稿では観光庁関連予算の詳細については割愛します。
JESTA(認証手数料)の目的と使途
一方、 「2030年に訪日外国人旅行者数6000万人」との政府目標を前提としながら、不法就労や偽装滞在、難民認定申請の長期化(一次審査は平均約2年)などの課題もあります。
現状、訪日外国人情報の電子的な一元管理・分析が十分にできていないことから、効率的な情報分析や外交交渉の強化を図り、厳格かつ円滑な出入国管理を実現することを目的に、JESTA導入が決まりました。
制度設計やシステム要件の定義を急ぎ、当初2030年度までとしていた導入予定を前倒し、2028年度中に導入することをめざしています。導入後には、短期滞在者の入出国情報を一元管理し、中長期在留者についても不法滞在者の迅速かつ的確な把握・管理につなげる方針としています。JESTAの認証手数料は、こうしたシステムの維持・運営財源に充てられるとみられます。
なお、これとは別に空港到着時に税関・入管手続に必要な情報をVisit Japan Webを通じて電子的に提供させる共同キオスクや到着時の円滑な入国のためのウォークスルーゲートが羽田など主要空港に設置されていますが、事前審査を行うJESTAとは制度思想が異なるシステムになります。
諸外国の事例は?
旅客税(出入国税など)を課す諸外国での観光財源の使途は、観光振興や受入態勢整備など我が国の考え方と概ね同じです。欧米では、出入国税が比較的高額に設定され、近年はアジアでも採用する国が増加傾向にあります。
かつては、税かビザのどちらか一方だけを課す国が多かったものの、観光客を多く受け入れている国では両方採用され、しかも短期滞在ビザ免除=無料でない国が増えています。例えば、米国、ニュージーランド、オーストラリア、イギリス、ニカラグアなどが該当します。欧州では、2026年第4四半期からシェンゲン協定域内へ入る多くのビザ免除国の旅行者に事前申請と手数料を課すETIAS(欧州渡航認証)が導入される予定です。フランス、ドイツでは観光税がありますので、税と渡航認証の両方が課せられることになります。
両方を課している国で、旅行者数に顕著な減少が起きたとの情報は確認されていません。
JESTAが導入されるにあたって留意すべきことは?
世界の趨勢は、一昔前までの廉価の税・手数料から明確に転換しつつあります。特に観光客数が多く、入国管理コストが高い、環境・オーバーツーリズム対策を掲げる国ほど「両取り構造」に移行しつつあります。
日本も国際的に見ると「例外」ではありません。むしろ、主要国型の制度変更を目指しているといってもよいでしょう、ただし、ビザ免除国の旅行者が実質的に負担増になることは事実です。日本は、もともとの旅客税の金額が低かった分、上げ幅と見え方が突出して見えます。それが訪日旅行者の印象にマイナスを与えないよう配慮が必要です。
特に、近年大きく数を伸ばしている韓国や台湾をはじめとするアジア各国からの旅行者(特に若い世代)にとって航空券単価が低い分、旅客税とJESTA手数料にかかる総額のインパクトは大きいはずです。高額を支払っても納得いく、さまざまなサービス改善、例えば長時間待たないにスムーズな入出国の実現などが問われます。
また、日本は特に「何に使われているか」が見えにくいところがあります。旅客税やJESTAは何に使われるのか、名目(建前)と実態(現実)の違いが必ずと言ってよいほど話題になります。財務省は旅客税の使途例として、個人識別情報システム強化や電子申告ゲート利便性向上を挙げていますが、JESTAとの違いが一般には分かりにくい側面もあります。
全国多くの温泉地で入湯税が一般財源化され、源泉管理や観光振興の予算に振り向けられなくなった教訓を忘れないよう、観光産業がその使途の可視化と意見具申ができるように訴えていかなければなりません。
さらに、JESTAとVisit Japan Webなどとの連携も必須です。この二つのシステムを融合させること、さらに消費免税システムとのリンクにより小売事業者にとっても旅行者にとっても負担軽減とスムーズな手続きが可能になります。オープンデータ化が進めば、インバウンド6000万人、消費額15兆円達成に向けて産業と地域全体に有益な情報が得られるはずです。
日本は省庁間どうしても縦割りになりがちですが、観光庁を司令塔として、JESTAを我が国の観光が戦略産業としての地位を確立する武器にしていきたいものです。



