観光以上・定住未満の新サービス「多拠点住み放題サブスク」を取材した、ANAも参画する「ADDress」の課題は「移動」、MaaSや定額制航空券にも意欲

サブスクリプション型の多拠点コリビングサービスを展開する「ADDress (アドレス)」は2019年8月、新たに宮崎県日南市の油津商店街に九州で7ヶ所目の「拠点」をオープンした。別府(大分県)、新富(宮崎県)、多良木(熊本県)、宇城(熊本県)、屋久島(鹿児島県)、八女(福岡県)に続くもので同社初の買い上げ物件だ。また、京都市伏見区にも関西初となる拠点も立ち上げた。これで全国24拠点に拡大。今年中に50拠点を目指す、このサービスを新拠点のオープニングにあわせて取材してきた。

ADDressは昨年12月に設立。月額4万円(法人は月額8万円)から利用可能な定額制の多拠点居住シェアリングサービスとして、遊休住宅資産を活用しながら、プラットフォーム上で拠点と会員ユーザーとをマッチング。地域と都心部との「人口シェアリング」の実現を目指している。同社代表取締役社長の佐別当隆志氏は、「全国の『拠点』をベースとして関係人口を増やし、地元の人たちと一緒に地域を盛り上げていきたい」と抱負を語る。

各拠点では、空き家や別荘をリノベーションすることで快適な居住空間を用意。個室を確保し、シェアハウスのようにリビング・キッチンなどを共有するほか、月額には光熱費、Wi-Fi、共有の家具やアメニティの利用、共有スペースの清掃も含まれる。会員とはサブリース物件の賃貸借契約を結ぶことで、「観光以上、定住未満」(佐別当氏)の滞在を提供する。また、「拠点」の固定のベッドを賃貸借し、そのベッド所在地で住民票登録をすることも可能。そこを拠点にADDressの物件を渡り歩く「アドレス・ホッパー」の機会も提案している。

世界的に20代を中心に「所有しない」ことに価値を置く潮流が生まれており、日本でも2拠点以上で生活する「デュアラー」人口は約100万人、潜在需要は1100万人ほどあると言われている。一方、日本全国には2000万軒の空き家が存在すると試算されており、その問題は年々深刻化している。ADDressは、ライフスタイルと住宅環境の変化をマッチングさせることで社会的課題を解決。油津商店街の拠点は15年間も空き家だった元果物屋を、伏見の拠点は築60年の元学生寮をリノベーションした。

ADDressでは中長期的な目標として、2030年までに20万件、会員数100万人の目標を掲げる。佐別当氏は「100万人登録になれば、中規模都市と同等の規模になる。そうなれば、新しい働き方や暮らし方のムーブメントが起き、国の政策にも影響を与えることができるのではないか」と将来を見据える。

先行会員の募集と資金調達を目的として今年4月からクラウドファンディングを開始。これまでに約200人の年会員と半年会員が集まったという。一方、クラウドファンディング会員とは別に、これまでに約2000人の入居エントリーが集まっていることから、今年10月には正式に会員による予約サービスを開始する予定だ。

オープニングイベントで抱負を語るADDress社長の佐別当氏

課題は移動、MaaSや定額制航空券にも意欲

課題は拠点間の移動だ。全国を「ホッピング」するには交通費が大きな足かせになってしまう懸念がある。佐別当氏は、その解決の可能性としてMaaSの取り組みにも言及。「二次交通を含めた地域交通の整備は、ADDress会員だけでなく、地域住民のためにもなる」との考えを示す。

また、オープニングイベントに参加したANAデジタル・デザイン・ラボのチーフディレクター津田佳明氏は、構想段階と断ったうえで、ADDressの拠点と組み合わせたサブスクリプション型航空券の可能性について触れた。「年間国内線の3割の席が空いている。これを遊休資産と捉えて、シェアリングできる新しいアイデアを考えている」と明かす。将来人口減少に伴い先細りが懸念される国内線の需要を維持していくためには、都市と地方との関係人口を増やし、人の流動性を高めていくことが有効な手段のひとつとの考えだ。

油津拠点はレコードがつなぐコミュニティースペースにも

油津の「拠点」は、2つの商店街が交わるちょうど角にある。オープンに至るまで地元が支えた。油津商店街の活性化に尽力する油津応援団は、物件オーナーとの交渉や地域の人たちとADDressとの橋渡しを行い、日南市飫肥のデザイン会社「パーク・デザイン」が元果物屋をモダンな空間にリノベーションした。

宿泊施設は2階。個室1室に加えて、男女に分かれたドミトリーがあり、それぞれ4つのベッドを備える。キッチン、リビングスペース、トイレ、風呂は共有となる。1階は地元のコミュニティースペースとして開放。若い世代に加えて50代や60代の地元の人たちも集まれる場所として、昭和の歌謡曲や60年代から80年代を中心とした洋楽のレコードが聞ける環境を整えた。

油津応援団代表取締役の黒田康裕氏は「商店街にはIT企業も誘致できたし、カフェやゲストハウスなど若い人が集まるスペースもできたが、逆にビートルズやローリングストーンズ世代の60歳を過ぎた人たちが集まる場所がなかった」と振り返り、コンセプトづくりに携わったパーク・デザインの神明美里氏は「レコードは年配の人たちにとっては懐かしく、若い人たちにとっては新しい。文化的機能として両方をつなぐことができると考えた」と発想の原点を明かした。

自走する商店街とシェアリングエコノミー

油津応援団は2014年に起業。これまで、商店街活性に取り組み、「油津コーヒー」「多世代交流スペース『油津Yotten』」「あぶらつ食堂」「ゲストハウスfan」などを手がけてきた。創業者のひとりで、現在は地場産品「九州パンケーキ」を手がける一平ホールディングス社長の村岡浩司氏は「商店街が消費の中心ではなくなったが、ADDressの拠点で観光とは少し違う中長期的な滞在することで、油津の街や人を好きになって、ここで働きたいと思ってくれる人も出てくるだろう」と関係人口の増加への期待を口にする。

同じく創業者の木藤亮太氏は、若い人を加えた油津応援団は新しいフェーズに入っているとし、「その活動の象徴がADDressの拠点」と位置づける。そのうえで、「全国で展開するADDressの事業を受け止められる組織や人材が油津にできている。自走する商店街に近づいてきた」と話し、これまでの取り組みに手応えを示した。ADDressの拠点に関わる商店街の人たちは多く、カギの管理は隣接する写真館の主人が行い、レコードの管理や整理はレコードバーのオーナーが務めている。屋守は無人図書館の運営者だ。

シェアリングエコノミーの基本的な考え方は、ヒト、モノ、コトなどの遊休資産をお互いにシェアして有効活用すること。写真館の主人は自分の時間を、レコードバーのオーナーはそのスキルをシェアする。佐別当氏はこれからの経済活動として「資本主義の合理的な生産性ではなく、地域間が助け合ってオーガニックな生産性を上げていくことが求められている」と提言。日南市はシェアリングエコノミーによる地域活性化に積極的な自治体のひとつだが、崎田恭平市長は、「この拠点が成功するには、商店街のリアルな価値を提示することが大切ではないか」と発言し、行政としてのサポートを検討していく姿勢を示した。

拠点づくりには地元の多くの人たちが関わった。(左から)村岡氏、津田氏、崎田市長、佐別当氏、黒田氏、木藤氏

ADDressの拠点が生み出す関係人口に期待

油津応援団の商店街活性化の取り組みは全国的にも注目されている。若者を惹きつける事業の展開のほか、広島カープのキャンプ地であることから、油津駅を赤色に染めるなどカープによる町おこしにも積極的に取り組んでいる。

村岡氏は、「地域創生は国の政策の横展開では困難。地元の1分の1の型を作ったところがうまくいく」と油津応援団での自身の経験から持論を展開。そのうえで、油津という「内」と日南や九州という「外」の視点で商圏を見つめ、そこに流動性を創り出す必要性に言及し、「まずは九州の人たちに油津のADDress拠点を利用してもらうことが大切ではないか」と付け加えた。

黒田氏は「人口減少のなかでも、関係人口を増やしていくことで、地域内でしっかりと利益を出せる循環型経済をつくりたい」と意欲を示し、ADDress拠点の役割に大きな期待を寄せた。

京都伏見、地域との協力で関西初拠点に

一方、京都市伏見区の拠点は、京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)との共同事業。古くなった元学生寮の再開発の話が持ち上がったとき、元入居者がADDressによる利活用をオーナーに提案したのが始まりだという。リノベーションは事業パートナーであるR不動産が担当。モダン和風の共有スペース、個室2室、4ベッドのドミトリー3室に改装した。

「(ADDressは民泊ではないが)、京都は民泊への抵抗が強いため、拠点づくりももっと遅くなるのではないかと思っていた」と佐別当氏。関西初の拠点として立ち上げられたのは、油津と同様に「伏見の人たちの協力が大きい」と強調した。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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