旅行者のコロナ禍でのココロの変化を読み解く、国内旅行市場回復からワーケーションの可能性まで -トラベルボイスLIVEレポート

新型コロナウイルスは、移動によって感染リスクが高まることから、旅行や観光に対する消費者マインドにも大きな影を落としている。2020年6月19日から都道府県をまたぐ移動自粛が緩和され、タイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドとの間で「例外的な人の往来」に向けて調整が始まった。6月後半の「トラベルボイスLIVE」では、その消費者のココロの変化に注目。JTB総合研究所執行役員企画調査部長の波潟郁代氏を招き、先日JTBとJTB総合研究所が共同で発表した「新型コロナウイルス感染拡大による、暮らしや心の変化および旅行再開に向けての意識調査(2020)」をもとに、今後のマーケット動向を読み解いた。

この調査は、2月の感染拡大から緊急事態宣言の発令、解除の見通しが立つまでの間の人々の意識や行動の変化、今後の足元の旅行回復の動き、未来の旅行・観光のあり方への影響について調査したものだ。

コロナ禍以前にもデジタル化、世代交代、販売チャネルで変化

波潟氏は、withコロナにおける旅行者の心の変化について説明する前に、前段としてコロナ禍以前に進みつつあった変化を振り返った。その変化のひとつがデジタル化。「行動だけでなく、価値観やライフスタイルの多様化が進んでいる」とし、新しい顧客基盤として若者、女性、ネティズン(ネット市民)を挙げた。

また、海外旅行市場では、「世代交代が見えてきた」と分析。若者の海外旅行離れが言われてきたが、実は20~40歳の出国率は他世代と比較して高く、特に女性がその世代の旅行市場を牽引。波潟氏は、その背景として「親がバブル世代で旅行に積極的。その影響を受けているのではないか」としたうえで、「海外旅行に行く人は国内旅行にも行く」として、今後の国内旅行市場回復に向けてもカギになる層と位置づけた。

販売チャネルでは、旅行会社のウェブサイトに着目。調査結果で、全体では僅差ながらOTAを抜いてトップとなり、特に男女60代以上、女性では50代は他を圧倒している。波潟氏は、この傾向はコロナ禍でも変わらないとして、旅行会社による拡販のヒントになると指摘した。

JTB総合研究所執行役員企画調査部長の波潟郁代氏

感染状況の長期化によって変化する心境

日本の旅行市場で進めみつつあった変化を踏まえたうえで、波潟氏は、コロナ禍の「旅行再開に向けた暮らしや心の変化」の調査結果について説明した。

まず、旅行再開のきっかけとしての特徴として、女性は『旅行に行きたいという気分になったら』と『旅行に行っても周囲から咎められない状況になったら』など感情的な理由が相対的に高く、一方、男性は『緊急事態の解除』など行政の対応が高い結果となった。

外出制限が緩和された際の旅行に行く心境では、『しばらく行きたくない』のは海外旅行と大都市への旅行となり、『すぐ旅行したい』のは自然が多い地域という結果に。波潟氏は「これは、緊急事態宣言の発令で気持ちがダウンしている4月末の調査結果のため、今後変化する可能性がある」として、時期に応じた気分の変化を注視していく必要性に言及した。

また、性年代別の心境では、男性29歳以下は国内も海外も『すぐ行きたい』が高かった一方、女性60歳代の旅行意欲は低く、『海外旅行には二度と行きたくない』との回答が14.6%にものぼった。波潟氏は「ここが今後の大きな課題」と指摘。この性年代層は旅行会社のウェブサイトからの申し込み・購入が多いことから、「旅行会社は自社ウェブサイトでの情報発信を工夫し、行きたい気持ちにさせることが大切になるだう」との考えを示した。

国内旅行の出発時期については、感染状況の長期化につれて、後ろ倒しになり、シルバーウィークを含む9月~10月の回答は4月の25.1%から5月には34.4%に増加。冬休みの11月~12月も10.3%から16.2%に増加しているが、今後の感染状況次第で、さらに後ろ倒しになる可能性がある。

一方で、国内旅行の行き先について、波潟氏は「4月の段階では北海道や東北など密でないところの人気が高かったが、緊急事態宣言が解除された5月になると、本来の人気旅行先である関東と関西が伸びている」と説明。居住別では、5月のデータで地域内旅行の割合が高く、その背景として「自治体による県民向けキャンペーンの影響ではないか」と分析した。また、域外への移動も増加傾向にあることから、都道府県をまたぐ移動自粛が緩和された6月の調査が注目されるとした。

発表資料より

ライフスタイルに変化、リアルのよさを見直す若者層

旅行を予定・検討している人が、まだ予約をしていない理由では、ウイルスへの不安に加えて、月が進むにつれて「世間体が悪い」と「正確な情報の不足」の割合が増えていることを特徴として挙げた。

コロナ禍でのライフスタイルの変化では、旅行については『国内旅行への意識が高まった』が高くなったほか、仕事では『働く場所にこだわらなくてもよい』や『テレワークやテレビ会議で済ませられる仕事が多い』が増加していることから、波潟氏は「デジタルトランスフォーメーションの背中が押されている」と現状を分析した。

また、特徴的な結果として、『対面や直接のコミュニケーションが大切』の回答が若者層に多いことから、「デジタル世代ほど、合理的にできることはデジタルを利用するが、リアルの本物のよさは何かかを感じようとしている」として、若者層の考え方の変化を読み解き、「デジタル世代に対してリアルのよさを改めて提案していくことが大切ではないか」と付け加えた。

そのうえで、波潟氏はHISのオンライン体験ツアー商品を紹介。商品内容の面白さに加えて、消費者視点からは「オンラインによる合理性と時代感覚にハマっているという参加者の満足感やコロナ禍でもがんばっている人への共感が商品の訴求力を高めている」と分析。一方、企業側からすると、「高頻度で高品質な顧客接点を作ることで、マーケットデータの収集や次の商品企画につながる持続性として有益」と話したうえで、「オンライン商品は、リアルとの融和という点でアフターコロナでも大切になってくるのではないか」と見通した。

発表資料より

ライフスタイルの変容で国内旅行の領域は拡大

コロナ渦中の旅行者の心やライフスタイルの有り様は、時間が経つにつれてさらに変容していくと思われるが、波潟氏は、そのなかでも、日本人の国内旅行はその領域を拡大させると予測。旅の動機は「異日常(感心や共感)」へ、旅の目的は「個人の価値観を反映するテーマ性の高い旅」へ、地域との関係では「地域や人との交流の中で暮らすように過ごす旅」へ、旅のスタイルでは「拠点を持って動く旅」へ、旅行者のニーズは変化しながら、拡大していくと指摘した。

波潟氏のライフスタイルの変化についての分析を受けて、トラベルボイス鶴本が働き方の変化としてワーケーションに言及し、参加者にライブアンケートを実施。『すでに体験したことがある』は9%にとどまったものの、鶴本は「10%近い数字は大きいのでは」と指摘し、『ぜひ体験してみたい』が56%にものぼったことから、波潟氏は「ワーケーションの仕組や商品はまだ少ない。ここにビジネスチャンスがあるのでは」と付け加えた。

このほか、鶴本がレスポンシブル・ツーリズムについて触れ、波潟氏に見解を求めた。レスポンシブル・ツーリズムは、環境保護やオーバーツーリズムなどの観点から、旅行者も責任持って旅行をすることを求めているもので、コロナ禍以前から世界で注目されている取り組み。コロナ禍では感染拡大防止の観点から、受け入れ側の感染防止対策だけでなく、旅行者のエチケットも必要とされているところだ。波潟氏は「今後は、受け入れ側として住民との合意形成が必要になってくると同時に、旅行者側ではレスポンシブルがマナーに変わっていくような意識改革は必要だろう」との見解を示した。

トラベルボイス鶴本(上)の質問に答える波潟氏(下)

*編集部注:この記事は、6月17日の実施回をまとめたものです。

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