北欧のDMOの最新事情を取材した、ツーリストセンターは閉鎖、情報提供はデジタル化、旅行会社にサステナブル教育プログラムを提供 ―フォーカスライト欧州2022

このほど開催された旅行テックイベント「フォーカスライト・ヨーロッパ2022」では、「サステナビリティ×旅行」に着目した討論が多く展開された。観光局などデスティネーション側でも、デジタル化を取り入れることで、旅行業界がサステナブルな体験を届けられる枠組み作りが動き出している。そんな事例が語られたパネルディスカッション「Sustainable Innovation - Destinations Lead the Way(サステナブル・イノベーション-デスティネーションがリードする取り組み)」の議論をレポートする。

パネリスト:

  • トーマス・ローレル(Thomas Laurell)氏 ストックホルム観光局 スタッフ責任者、分析&戦略局責任者 ※写真中央
  • アナカイザ・オハラ(Annakaisa Ojala)氏 ビジネス・フィンランド デジタル・ストラテジスト ※写真右
  • モデレーター:ニコラス・ホール(Nicholas Hall)氏 デジタル・ツーリズム・シンクタンク創業者兼CEO(最高経営責任者) ※写真左

北欧フィンランドと、スウェーデンのストックホルムの事例を取り上げたセッションに登壇したビジネス・フィンランド(BF/貿易・観光・投資の促進を行うフィンランドの政府機関 )のデジタル・ストラテジスト、アナカイザ・オハラ氏は、「旅行事業者やDMOサポートにおける戦略的フォーカスの一つがデジタル化だ。フィンランドの場合、ほとんどの旅行・観光事業者は中小企業や家族経営。すばらしい旅行体験を提供することに全力を注いでいる反面、デジタル化やサステナビリティ施策については、まだ多くのサポートが必要というのが現状」と話す。

通常のプロモーション活動が止まってしまったパンデミック禍の間、フィンランドではデジタルツール開発に注力。同国観光プロダクトに関するコンテンツを集めたデータベース「ビジットフィンランド・データハブ」を作り、API経由でアクセスできる仕組みを構築。フィンランドの観光素材や旅行事業者の流通・マーケティング支援に役立てている。

またサステナビリティについては、4年前にDMOや旅行会社向けのプログラム「サステナブル・トラベル・フィンランド」をスタート。これは認証制度ではなく、排出ガス計算機能などの各種ツールや教育プログラムを事業者に提供するもので、各社がそれぞれ必要とするものを活用できるようになっている。

ツーリストセンターは閉鎖、情報提供はデジタル化

ロックダウンを実施しなかったスウェーデンでも、ストックホルムの経済活動は、通常より縮小していたため、観光局ではスタッフのデジタルスキル研修をおこなったり、サステナビリティについて学ぶ機会を増やし、デジタルマーケティングやサステナブルなビジネス開発に力を入れる体制作りに取り組んだ。

同観光局のスタッフ責任者であり、分析&戦略局を率いるトーマス・ローレル氏は「実は以前から、ストックホルムのツーリストセンターを訪れる人はそれほど多くはなく、観光情報の使い方や入手するタイミング、知りたいことが変化していると感じていた」と振り返る。そこで同観光局では、すでにパンデミックの前に、市内のツーリストセンターを閉鎖、その機能のデジタル化に着手した。物理的なオフィスではなく、様々なソーシャルメディア上に観光局スタッフを配し、ストックホルムに関心を持ってもらえるような活動を展開。ストックホルム滞在中の人からの質問には、電話やSNS経由で応答している。

また、旅行者はホテルのフロントスタッフに対して色々な相談をしていることも分かったので、ホテルスタッフに情報提供ツールを渡し、ストックホルムで楽しめることなどの最新情報を提供している。デジタル化によって、「オフィスで旅行者が質問に来るのを待つのではなく、我々の方が、旅行者がいる場所へ出向くことが可能になった」とローレル氏。現在、すべてのツーリスト向けサービスはデジタル化が完了しており、旅行者が必要とするタイミングに、必要な内容を提供できるサイクルが整っているという。

受け入れる地域社会にとってサステナブルな観光を目指すストックホルム観光局では、マーケティング方針も転換。「すべての人にストックホルムに来てほしいとは考えていない。ここに合う人を誘致し、地元の一員になったような滞在を楽しんでほしい」。そのためには、適切なタイミングで、適切なターゲット層にリーチできるマーケティングツールが役立っていると話す。


事業者の現実と未来への投資

コロナ禍から復活しようと奮闘する事業者が、日々のビジネスで必要とするサポートと、未来を見据えてデスティネーションをリードする役割。この2つのバランスは、どのようにとっているのか?

オハラ氏は「目下、観光事業者はとにかく営業や成長、(コロナ禍からの)回復につながるメリットを求めている。サステナブルな商品開発についても、事例を紹介し、営業拡大にどんな効果があるか、というところまで踏み込んで紹介するようにしている。ただツールを提供するだけでは不充分で、事業者からは、ビジネス面でのメリットにどう役立つのかを問われる。これはデータ活用やデジタル化でも同じ」と話す。

大局的な理想、大きな目標には注目が集まるが、最終的には、日々のビジネスの現実の上にすべてがある。ローレル氏は「デスティネーションの持続可能な開発は、ストックホルムにとっても、世界にとっても今、重要な課題で、デジタル化はその手段の一つ。だが同時に、パンデミックの打撃は甚大で、旅行業に従事する人材は激減、これを取り戻さなくてはならない。デジタルツールで穴埋めできる業務もあるが、すべてではない」。こうした問題を放置したまま、前には進めないと話す。

サステナビリティと旅行産業の成長、この2つの柱は、どちらも欠かせない。必要な人材を集めて、生き残るための課題の一つが、年間を通じて、ビジネスが安定する状況にし、魅力的な産業になることだという。

「フィンランド観光にとって、サステナビリティの大きな課題はシーズナリティ」とオハラ氏。例えば人気観光地の一つ、ラップランドでは、冬に集中する需要を、他の季節にも拡げることが課題だ。「今までとは違うシーズンを売り出すというのは、ものすごく大きな労力が必要になる。国と地域、官民で、夏のラップランドの需要喚起に取り組んでいるところだ」(同氏)。

デジタル化やデジタルトランスフォーメーションは、シーズナリティ開発にも活用できるとローレル氏は考えている。「デジタル経由で観光情報を届け、旅行事業者が新プロダクトを開発する労力を軽減したり、ターゲット顧客層について把握するのとサポートしている。ストックホルム観光局では、データ分析にもかなり投資しており、訪れる旅行者について、その嗜好やトレンド、要望などを分析している。こうした知見は、旅行事業者との議論のベースにもなっている」(同氏)。

一方、データ活用の今後の課題としては、過去の分析はできるものの、未来予測は難しいこと。さらに、リアルタイムのデータ分析は可能だが、「例えば、混雑状況が把握できたとして、これに対応するリソースは観光局にはなく、関係事業者に働きかけることになるが、観光産業は非常に多くの事業者で構成されているため、課題解決も複雑になりがち」(ローレル氏)と話した。

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