
マスターカード経済研究所(Mastercard Economics Institute)は、旅行経済における消費動向に関する最新レポート「Travel Trends 2025」を発表した。この調査は、マスターカードが保有する匿名化・集計済みの取引データに加えて、外部のデータソースも活用して独自分析したもの。世界的に地政学的リスクや経済の不確実性が高まるなか、今夏の旅行先として日本を含むアジア太平洋の人気が高まっていることがわかった。
今夏、世界でアジア旅行の人気が高まる
2025年6月~9月の夏休み期間、世界の人気旅行先ランキングでは、1位が東京で前年の2位からランクアップ。また、2位には大阪、13位に福岡が入った。トップ15を見ると、アジアから8都市がランクイン。ベトナムのニャチャが11位に急上昇するなど世界でアジアの人気が高まっている様子が伺える結果となった。
日本がトップ2を占めたことについて、マスターカード・アジア太平洋地域チーフエコノミストのデビッド・マン氏は「やはり円安が追い風になっている」との見方を示した。
2025年夏の人気旅行先トップ15(Mastercard Economics Institute)
そのなかで、マスターカード経済研究所では、円安と訪日旅行との関係も分析。円が相手国の通貨に対して1%下落すると、例えば中国からの旅行者は1.5%、香港からは1.2%、台湾からは1.1%増加するなど、為替レートは特にアジアからの訪日市場に大きな影響が見えるという。
国別の円安と訪日旅行者数の相関(Mastercard Economics Institute)
また、シンガポールを例に旅行コストへの影響を見ると、2024年前半では航空運賃が前年比1.6%増、宿泊費が同3.9%増のなか、円が4.5%下落したことによって、コスト増加分が相殺された。その結果、旅行コストは前年と比べて0.8%の増加にとどまった。
しかし、2025年1月~2月を見ると、全体の旅行コストの増加は2024年前半と比較して緩やか。円高傾向に振れたことによって、円安効果は薄れ、結果的に旅行コストは前年と比べて3.5%増となった。
今夏の傾向として、マン氏は「単なる移動ではなく、意味を見いだすような旅、価値を求める体験が好まれる傾向にある」と分析。そのうえで、特にウェルネスツーリズムとスポーツツーリズムに注目した。
ウェルネスとスポーツに注目
マスターカード経済研究所の「ウェルネストラベル指標2024」によると、ウェルネスツーリズム旅行先のトップ3は、ナンビア、南アフリカ、タイ。特にタイは「心を整える瞑想リトリートといったリラクゼーション体験やセルフケア分野において先進的な取り組みを進めている」と評価した。
また、自然体験のワイルドネスツーリズムでは、ニュージーランドやマレーシアなどに加えて、国立公園が充実している日本の注目も上がっていると指摘した。
スポーツツーリズムでは、観戦が旅行先決定の動機になる需要が強まっているとして、日本の例を紹介。2024年のLAドジャース対NYヤンキースののMLBワールドシリーズでは、ロサンゼルスでの試合の前後5日以内にスタジアム5マイル(8キロ)以内での消費額は、世界平均が前年比15%増だった。それに対して、日本人は同91%増と特筆すべき増加を残した。
また、2024年6月にロンドンで開催されたUEFAチャンピオンズリーグ決勝では、世界中からファンが押し寄せ、周辺地域での消費額が前年比3桁の伸びを示したという。