民泊「年間ゼロ」で問題は解決するのか?「ウォーターベッド現象」が示すオーバーツーリズム規制の限界、住宅・都市政策から考察【コラム】

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日本交通公社の山田雄一です。

民泊に対する潮目が大きく変わってきています。観光客と地域住民や行政との軋轢を背景に、国が営業日数の「年間ゼロ日」を容認し、自治体が厳しい対応に乗り出すなどの動きがみられます。民泊を巡る問題の本質に目を向け、観光産業の健全化に向けて求められていることを、不動産価値や都市政策の視点も交えて解説します。

※写真:民泊の一室。旅先で食材を調達し、料理が出来るのは民泊の特徴だ(筆者撮影)

民泊への風当たりの高まり、背景に住民と自治体の負担

2026年5月29日をもって、大阪市は特区民泊の新規受付を終了しました。また、観光庁、国交省、厚労省は7月15日に、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく営業日数制限を自治体の判断で実質的な営業禁止となる「年間ゼロ日」とすることを許容する通知を出しました。これを受けるように、東京都新宿区が住宅地や学校周辺で民泊新法に基づく施設の全廃を検討しているという報道もあります。

世界に目を向けても、スペイン・バルセロナでは民泊の新規許可を停止するだけでなく、2028年11月以降はライセンス更新も停止する方針を打ち出しています。シンガポールでは民間住宅の3カ月未満の賃貸を禁止しており、旅行者向けの民泊そのものが認められていません。また、ニューヨーク市、パリ市、アムステルダム市といった都市でも厳しい営業日数や営業形態の制限を課しています。

民泊に対して、こうした厳しい対応が取られる理由は、大きく二つあげられます。

一つは、旅行者が住宅地に入り込むことで起こるハレーション(摩擦や悪影響)、もう一つは、住宅が民泊施設に転用されることによる住宅の不足と家賃の高騰です。多くの地域住民にとって民泊は、安全・安心な居住空間を脅かすリスクを抱えた存在だということです。

さらに、地元自治体もこの問題の主要な当事者となります。住宅として整備された施設や住宅密集地に旅行者が入り込んでくることで、ゴミや騒音、治安の悪化といった問題が発生すれば、住民からクレームが寄せられます。それが議会にも影響を及ぼし、行政負担は増大していくことになるからです。

しかも、民泊が増えても、地方自治体の税収などの歳入額は増えるとは限りません。地方自治体の基本的な歳入額は定住人口が多いほど増加しますが、旅行者は人口にカウントされず、民泊による雇用創出効果も限定的だからです。むしろ、家賃高騰によって住民流出が生じてしまえば、歳入が減っていく可能性の方が危惧されます。民泊を進めることで行政負担が増え、財政も悪化するというのは、自治体にとって受け入れがたい構図です。

そもそも民泊は、周辺環境が良好であることを前提に成り立つビジネスです。例えば、民泊利用者が独自に食事や食材を確保するには、近隣に住民向けのコンビニやスーパーがあることが不可欠です。治安が良くない地域や、管理が不十分で荒れている地域で営業するのは困難です。清掃やリネンが個別・小口対応となることを考えれば、ある程度の周辺人口も必要です。

従来の宿泊事業であれば、適正な規模を設定することで館内に飲食施設を構えたり、フロント周りのセキュリティを高めたりして自立的に立地することが可能であることを考えれば、その差は明らかです。民泊は、安全で快適な良い街という環境があってこそ成立する事業であり、地域にコストを負担させる形になる「外部不経済」が発生しやすい構造でもあるということは認識しておくべきでしょう。

観光振興と民泊規制は矛盾するのか?

一方で、わが国や各地域は基本的に観光振興を是認する立場をとっています。特区民泊の新規受付を終了した大阪市も、次に目指しているのは統合型リゾート(IR)の開設であり、むしろ、これからさらに観光による地域振興を強化していこうという立場にあります。バルセロナやニューヨークには、市街地再生に観光需要の獲得が寄与したという歴史的な背景もあります。

こうした中で、宿泊施設の大きな柱となってきた民泊を否定することは、観光振興の立場と自己矛盾するのではないかとも考えられます。しかし、実際には、ここに矛盾は生じません。なぜなら、旅行者は「泊まれる場所があるから、そこに行く」のではなく「行きたい理由があるから、そこに行く」からです。宿泊地域、施設をどこにするかは副次的な問題であり、民泊が規制されたからといって、目的地に行かなくなるわけではありません。

実際、バルセロナやアムステルダム、ベネチアといった象徴的なオーバーツーリズム地域では、来訪者の急増を抑えるために、中心部の宿泊施設規制(民泊だけでなく一般的なホテルなどを含む)をおこないましたが、来訪者増は食い止められませんでした。どうしても目的地に行きたい人々は、中心部に泊まれなければ周辺地域に宿泊するだけだったのです。アムステルダム市の担当者は、ある地点を抑えると別の場所が膨らむこの状況を「ウォーターベッド現象」と表現していました。

これらの事例は、「宿泊施設の供給」に制限をかけてもオーバーツーリズムを根本から止められないことを示すと同時に、民泊規制が観光振興そのものを否定するものではないことを裏付けています。需要を喚起し獲得すること(いわゆるマーケティング)と、その需要をどのように地域に受け入れてコントロールするか(いわゆるマネジメント)は、別の問題だということです。

住宅が民泊に転用される経済的な理由

そう考えれば、民泊問題の本質は「住宅として利用すべき施設を、旅行者の宿泊に活用する是非」に行き着きます。現在は否定的に捉えられがちな民泊ですが、かつては肯定的な存在でした。その好例が農家民泊でしょう。農家民泊は、宿泊施設が少ない農村部に、グリーン・ツーリズムやエコ・ツーリズムで訪れる人々を受け入れる手段として、政策的に後押しされました。こうした流れは、ホテルだけでなく、民泊にも宿泊させるという修学旅行の拡大にもつながりました。

また、文化財とまでは行かないものの、歴史的建造物を一棟貸しの宿とすることで保全・活用する事例や、中心市街地に複数の民泊を展開することで、「まちなか観光」の振興と宿泊需要の確保を両立した複数の事例がありました。民泊は、むしろ、観光振興の成功例として語られることが多かったのです。

この空気が大きく変わった背景には、Airbnb(エアビーアンドビー)社をはじめとする仲介企業が、ネット上のプラットフォームでホスト(施設提供者)とゲスト(宿泊客)をP2P(個人と個人)で直接つなぐサービスを世界的に展開したことがあります。これによって、地域(行政やDMO、NPOのような地域の仲介者)が介在せずとも、建物所有者である個人の判断で容易に民泊を始められるようになったのです。旅行者も、普通のホテルを予約するのと同じような感覚で民泊施設を選択することが出来るようになりました。

この仕組みは従来の宿泊施設の流通構造を大きく変え、瞬く間に世界中に広がっていきました。

もともと「住宅」は、需要が大きいものの地価担保力が低い用途とされています。分譲か賃貸かにかかわらず利用者は基本的には個人であり、支払える住宅費には自ずと限界があります。その負担力は、オフィスや商業床には及ばないからです。土地のオーナーとしては、オフィスや商業施設、ホテルとして運用したほうが経済的な利益は大きくなります。

しかし、オフィスや商業施設は供給過剰な地域も多く、ホテルに需要があっても多額の初期投資が必要であり、その後も人件費など固定費が継続的に必要となるため、消去法的に住宅が選択されているケースが多いのです。昨今話題に上る駅前タワーマンションも、バブル期のような経済状況であれば、高層住宅ではなくオフィスビルとなっていたことでしょう。

つまり、同じ立地条件ならば民泊は、ほぼ確実にホテルと比べて安価となります。筆者の感覚で言えば、月の家賃が10万円の住宅を民泊として貸し出せば、料金は1泊2万円程度。同等の広さや設備のホテルに泊まろうとすれば、1泊10万円程度になるイメージです。ゲストはキッチンや洗濯機が備わった広い部屋をホテルよりも安価で利用でき、ホストは、住宅賃貸よりも高い利回りで不動産を運用できるメリットがあります。

つまり、民泊は、そもそも相対的に不動産価値が低い施設を起点にしたことで、世界中で成立した事業モデルなのです。しかし、それは同時に周辺の住宅価格や家賃相場に影響を及ぼすことになります。不動産オーナーは、当然ながら民泊に転用した場合の収益と、通常の家賃による収益との差額を考えるでしょう。物件の新規購入者も民泊での高収益を見込んで、収益還元法に基づきより高額で取得しようとするため、結果として地域の不動産価格が高騰してしまうのです。

用途地域指定が存在する理由とその限界

ただ、これは民泊によって「初めて」生まれた問題ではありません。土地のオーナーが、少しでも経済価値の高い用途で不動産を利用したいと考えるのは当然であり、過去に何度も繰り返されてきました。

高度成長期に遡れば、現在の首都圏郊外の住宅地の多くが農地や雑木林でした。膨れ上がる人口に対応するために、住宅地開発が無秩序に広がる「スプロール開発」が社会問題になりました。また、バブル期には地上げが横行し、木造賃貸住宅が立ち並ぶ地域がオフィスビルや高層マンションに姿を変えました。新潟県湯沢町にリゾートマンションが乱立したのもこの時期です。

こうした教訓を踏まえ、都市計画法に用途地域指定の制度が定められています。地域ごとに都市計画区域内を区分し、住居、商業施設、工場など建築できる建物の用途や規模を指定するルールです。同制度自体は以前から存在していましたが、バブル期の地価高騰や用途混在の問題を受けて1992年に都市計画法・建築基準法を改正し、1993年6月25日に8種類だった用途地域を12種類に細分化しました。

この制度では、例えば「低層住居専用地域」に指定された場所に高層住宅や大規模オフィスビルを建てることは原則としてできません。

ただ、この制度が本来の目的通りにしっかり機能している自治体は限定的です。まず、全国の都市計画区域の約半分は、いまだに用途地域が指定されていません。開発圧力が弱い地域であると考えられているのが理由ですが、かつてのリゾートマンションや現在の民泊のように、短期間に投資環境が変化しても、既存の規制や行政の対応が追いつかないことがあります。用途地域を設定している地域でも、形式的に主要道路沿いを商業地域として指定したために、中高層のマンションが乱立し、ドミノ状態となってしまっている事例もあります。

また、民泊と混同されやすいですが、一般に「民泊」と呼ばれる施設でも、実際には旅館業法に基づく「簡易宿所」の許可を得て営業している施設であることも少なくありません。これは、旅館業法にある簡易宿所の規定を利用したものであり、一棟貸しと言われる戸建て施設や、アパート形態の施設にも、この許可を得て営業するものがあります。こうした施設の建物の形状や機能は一般の住宅とほとんど変わりませんが、法規上はホテルや旅館と同じ「宿泊施設」となります。

当然、建設できる用途地域は限定されていますが、住居専用地域ではない駅周辺や主要道路沿い、各種施設が集積している地区の多くは、展開が可能です(具体的には第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域)。そのため、上限180日の営業日数など民泊新法による制限を避ける目的で用途地域をクリアできる物件の多くが簡易宿所に業態を切り替えています。このような施設は旅館業法下で営業しているので、当然、民泊新法に基づき営業日数制限が強化されても無関係です。

良好な住環境を維持するなら、自治体がそのエリアの用途地域を住居専用地域に指定していれば簡易宿所も制限できますが、自治体(議会)が用途を制限するという選択を取りにくいのが現実です。用途を制限するということは、潜在的な地価を引き下げることにつながるためです。地価の下落は、固定資産税負担が減るメリットがあるものの、資産価値の低下を良しとする地主は少なく、それは選挙にも影響することになります。つまり、民泊をめぐる問題は観光政策にとどまらず、都市政策の問題として捉えることが適切なのです。

人口減少時代、新たな街のデザインを行うタイミング

先に、高度成長期に首都圏の都市デザインが大きく変わったということを指摘しました。当時は、ベビーブームや地方からの労働力流入によって、首都圏の人口が爆発的に増えたことを背景に、住宅開発が広域で進展し、様々な社会インフラ、既存の地域コミュニティに多大な影響を及ぼしました。我々は、そうした強い開発圧力の中で、様々に知恵を絞り、ステークホルダーの調整に取り組み、今日の街を造り上げてきました。

訪日外国人客数が年間4000万人を超え、国内の様々な地域を訪れるようになった現在の状況は、高度成長期に新規人口を大量に受け止めた20世紀後半の構図と重なるのではないでしょうか。

当時の人口増とは異なり、観光は拒否できる選択肢かもしれません。しかし、今後、首都圏でも人口減少が確実視される中、観光による交流人口をいかに街の活力に取り込んでいくかは、我々に課せられた大きな課題です。そうした状況下で、民泊を「異端」として頭ごなしに否定するのではなく、どのように協働していくのかを考えるタイミングではないでしょうか。

観光の力を地域振興につなげるには、日帰りではなく宿泊を促すことが有効だとよく言われます。ただ、ホテルは多大な投資が必要であり、その立地場所は採算が確実視できる一部の地域に限定されます。また、その運用ノウハウ(ブランド)は国際資本に集中しており、地域経済への波及効果が限定的であることは、以前の連載記事で述べたとおりです。加えて、ホテルの設備は長期滞在には不向きで、地域とのタッチポイントも限定されます。

一方で、民泊(簡易宿所を含む)は、比較的少ない資本で始められ、もともとが住宅であることから「暮らすように旅する」ことができます。地元のスーパーで食材を購入し、家族らとキッチンで料理をしながら時間を過ごすといった体験は、民泊ならではの魅力でしょう。人口が減少していく中で、住宅街に交流人口という新たな需要が入り込むことで、売上減に悩む地域密着の小型スーパー、酒屋、飲食店といった事業が採算を確保することが可能となる地域も出てくるでしょう。

地域と調和し、地域づくりに貢献できるホストやゲストと協働することで、民泊による交流の良い側面を伸ばし、地域づくりに取り組んでいく絵を描くタイミングとなってきているのではないでしょうか。

法制度の枠を超えて、業界の自主規制を

では、そうした社会はどのように実現できるのでしょうか。ここで注目したいのは「富の8割は人口の2割によって支配される」といった傾向を示す「80:20の法則」と、その背景にある「パレート分布」です。私は、世の中の事象はすべからくパレート分布が当てはまると考えています。もしそうであるならば、民泊でルール違反や騒音などの問題を引き起こしているホストやゲストは、全体の2~3割程度であると推測できます。一部のルール違反者を排除するために、行政が一律に民泊に規制をかける、特定のエリアの民泊を全廃するというのは乱暴な話です。

実は、こうした一部の事業者の行動が業界全体に波及し、非難の対象となる事態は過去にも多く発生しており、社会はその都度乗り越えてきました。有効な解決手段となったのが、「業界による自主規制」です。

通信販売の誇大広告の排除や返品に関するルールを策定して、業界の健全化に取り組む日本通信販売協会(JADMA)、ゲーム市場の拡大に応じて問題となった暴力的・性的表現を年齢別制限によって自主規制した特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)、インターネット広告の適正化や個人情報保護に取り組む日本インタラクティブ広告協会(JIAA)などが、その例です。こうした事例を考えれば、ホスト側が横断的な業界団体を組織し、自律的な認証制度を運用し、認証情報をプラットフォーマーや行政と共有していくことが、有効な手段となるのではないでしょうか。

具体的には、認証内容に基づきホストに自律的な運営を促したり、認証を受けた施設だけが(または、認証を受けた施設が優先されて)、プラットフォームに掲載されたりする仕組みを作る。地域住民からのクレームに対応する一次窓口は行政ではなく、業界団体が担う。宿泊実績や利用者像、地域との関係性などのデータ収集、調査分析をおこない、社会に発信するなどの取り組みを業界が主導していくことにより、悪質なホストを法制度によらずに市場から実質的に排除し、地域社会との関係性を向上させていく。こうした取り組みが求められるのではないでしょうか。

山田 雄一(やまだ ゆういち)

山田 雄一(やまだ ゆういち)

公益財団法人日本交通公社 理事/観光研究部長/旅の図書館長 主席研究員/博士(社会工学)。建設業界勤務を経て、同財団研究員に就任。その後、観光庁や省庁などの公職・委員、複数大学における不動産・観光関連学部などでの職務を多数歴任。著者や論文、講演多数。現在は「地域ブランディング」を専門領域に調査研究に取り組んでいる。

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