外国人に販売したデジタルカメラは免税対象外? 税務調査の実態を事例で解説【コラム】

こんにちは。公認会計士・税理士の石割由紀人(いしわり ゆきと)です。

前回は、日本の免税制度に関する基礎的な特徴を解説しました。今回は、免税店が税務署からうける税務調査で興味深い裁決事例を紹介します。

前回コラム >>>

ある免税店がデジタルカメラを外国人旅行者に売却したものの、税務当局から「通常生活の用に供する物品」には当たらず、消費税免除をできないとされた事例です。

ここでは、「非居住者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品に当たるか否かは、非居住者の輸出物品販売場における物品の購入について、その購入回数や購入の反復、継続の状況、購入数量や購入金額の多寡及び購入代金の支払方法などを総合勘案して判断するのが相当である」とされています。

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)並びに所得税について、原処分庁が、請求人が営む輸出物品販売場に係る譲渡物品のうち一部の譲渡物品は「通常生活の用に供する物品」に当たらず、当該物品の譲渡については消費税を免除できない、請求人が課税標準額に対する消費税額から控除した課税仕入れに係る消費税額の一部は、課税仕入れの税額の控除に係る「帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当するので、これを控除することはできない、請求人が提示した帳簿書類は不正確で推計課税の必要性があるなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、それらの認定に誤りがあるなどとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

裁決とは、税務署等の処分が行われた場合の不服手続きのうち、国税不服審判所により判断されるものをいいます。ちなみに、裁判所により判断されるものを判決といいます。

この裁決事例では、下記のような指摘がなされています。本件において、税務当局は、「デジタルカメラ等は土産品としての域をはるかに超えているものと認められ、デジタルカメラ等は、非居住者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品といえ、通常生活の用に供する物品に当たらないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない」と判断しました。

(イ) 消費税法施行令第18条第1項に規定する通常生活の用に供する物品とは、非居住者が通常の生活において用いようとする物品を指すのであって、非居住者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品は含まれないと解される。

そして、非居住者が国外における事業用又は販売用として購入することが明らかな物品に当たるか否かは、非居住者の輸出物品販売場における物品の購入について、その購入回数や購入の反復、継続の状況、購入数量や購入金額の多寡及び購入代金の支払方法などを総合勘案して判断するのが相当である。


 

ちなみにある外国人旅行者に向けての売上は、合計販売回数は101回、合計販売台数は6941台及び合計販売金額は3億1873万6100円でした。

この点に関して、私見ではありますが、以下の点で疑問を持っています。

まず、消費税法施行令第18条第1項の「通常生活の用に供する物品」の範囲は不明確です。

そして、そもそも免税方式による仕組みに問題があるとも考えられます。

仮に、購入回数や購入の反復、継続の状況、購入数量や購入金額の多寡及び購入代金の支払方法等を勘案したとしても、具体的基準は無く、事業者は、常に免税範囲適用誤りと課税リスクを負うことになります。さらに課税処分を受けた場合に、事業者が顧客から回収することは多くの場合不可能であるという不安定な状態であるといえます。

税務調査では、「通常生活の用に供する物品」の範囲について争点となる可能性がありますので留意が必要となります。


税務調査で免税店主張が認めてもらえた事例

私がお客様の税務調査で経験した事例をご紹介します。これは、免税店が高級ブランド品を外国人旅行者に売却したものの、税務当局から数量や金額を踏まえると「通常生活の用に供する物品」には当たらないという指摘を受けたケースでした。

このケースでは、もともと他の税理士さんが顧問をしていました。しかし、税務調査の期間が長期間にわたり、税務署から免税店免許取り消しを匂わされて、さらに、会社は課税期間を3カ月に短縮していたのですが、税務署は税務調査の結論が出ていないことを理由に還付金の振り込みもストップしている状況でした。

もともとの顧問税理士さんが税務署の言いなりだということで、社長から急遽相談を受けて、受任したのです。

税務署に、以下のような反論をして会社主張を100%認めてもらいました。

もちろん、還付金ストップも、交渉して、すぐに振り込みをしてもらいました。

  • 消費税法施行令第18条第1項の「通常生活の用に供する物品」の範囲は不明確である。そもそも我が国の免税方式による仕組みに問題がある。
  • 購入回数や購入の反復、継続の状況、購入数量や購入金額の多寡及び購入代金の支払方法等を勘案したとしても、具体的基準は無く、事業者は、常に免税範囲適用誤りと課税リスクを負うことになり不当である。
  • 課税処分を受けた場合に、事業者が顧客から回収することは多くの場合不可能であり不安定な状態である。
  • 高級ブランド品は単価が高い商品であり、デジタルカメラの販売金額とは単純比較するべきではない。
  • デジタルカメラの場合、同一製品を収集目的で大量購入することは考えにくいが、ブランド品の場合、趣味性が強く高価なブランドを複数収集するコレクターもいる。
  • 外国からの旅行者となると、文化も生活様式も様々であり、収集対象が高級ブランド品の場合、生活必需品とは異なり、多量のお土産になる可能性もある。
  • 法令上、個別に上限金額や上限数量が定められるならともかく、規定がない現状において金額・数量をもって販売用と推認するのは困難である。

納税側、税務調査側が話し合うことで、当初の指導が変わる可能性もあります。これからも様々な事例が発生すると思われますので、その時はご紹介していきたいと思います。


石割 由紀人(いしわり ゆきと)

石割 由紀人(いしわり ゆきと)

公認会計士・税理士。国際会計事務所にて監査・税務業務に従事後、ベンチャーキャピタルを経て、スタートアップベンチャー支援専門の会計事務所を経営。多くのベンチャー企業等の株式上場支援・資本政策立案等を多数支援。上場会社をはじめ多くの社外役員も兼任。

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