岐路に立つホテルの会員プログラム、ポイント経済から「体験×AI」への転換、直販エコノミクスが戦略を再設計【外電】

ホテル・グループ各社が、顧客ロイヤリティ・プログラムの抜本的見直しに着手している。近年、規模的な拡大を続けてきたが、「より良いもの」にはなっていないからだ。会員数が増えるなかで複雑化し、会員のエンゲージメントは低下。これでは持続可能とは言えないのではないだろうか。

スキフト・リサーチによる最新レポート「ホテル・ロイヤリティの未来:パーソナライゼーションと直接予約、拡大する体験主導型の旅(The Future of Hotel Loyalty: Personalization, Direct Booking, and the Rise of Experience-Led Travel)」では、顧客ロイヤリティのあるべき姿と、選ばれるブランドに必要なことを明らかにしている。変化は深く、表層だけにとどまらない。ロイヤリティは、単にポイントを集めるプログラムの域を超え、ホテル宿泊から毎日の生活における価値提供、充実した体験、さらにAIによるパーソナライゼーションも駆使した総合的なエコシステムになる。

「取り引き」から「体験」へ

目下、進んでいる変容のなかで最も重要なのは、体験を通じて生まれるロイヤリティが拡大していること。レポートでも指摘されている通り、顧客の共感、支持、そしてリピート利用を促すうえで、最も強い影響力を持つのが「体験」だ。

ホテル内での様々な活動、アドベンチャーや文化体験、ウェルネス、飲食を楽しむひととき、ライフスタイル提携パートナーなどが、利用者の記憶に残り、そのブランドをまた選ぶかどうかを左右するようになっている。さらに、こうした体験は、AIが情報を検索し、ホテルを探す際にも影響する。体験を重視するのは好ましいだけでなく、戦略的にも不可欠となる。

宿泊業界の経営トップも、同じような変化を認識している。調査の回答者らは、ロイヤリティがポイント・プログラムから意義や帰属感を深めるものになるとの見方を示した。目指すゴールは、同じ興味関心や自分らしさを共有するコミュニティ形成で、ロイヤリティ・プログラムを旅行のためだけでなく、年間を通じた「つながり」へと発展させることだ。

直販エコノミクスが戦略を塗り替える

ロイヤリティは、感情面だけでなく経済的な効果ももたらす。ホテルにとって、直接予約の獲得コストは平均4~5%だが、OTAの典型的なコミッションは15~30%。この違いは、事業オーナーにとって非常に大きく、特にロイヤリティ会員が稼働客室利用者の半分以上をすでに占めているグローバル規模のプログラムではなおさらだ。

客室稼働率に占めるホテル会員の貢献度(2016-2024年)

同レポートでは、ロイヤリティ・プログラムが「稼働率を安定化する保険」の役割を担っていることを示している。将来的なリピート客を予測でき、獲得コストは他より低く、消費額は高い。予約時期が早い客層の確保にもつながる。流通コストがどんどん上がるインフレ局面下では、これまで以上に重要な経済問題でもある。

共同ブランドのクレジットカードは、こうしたメリットをさらに大きくする。銀行はロイヤリティ・プログラムのポイントを一括で大量購入してくれるので、ホテル・グループにとって確実な収益源になり、旅行需要が弱含みの時も、ロイヤリティ・プログラム事業を支えてくれる。

AIとパーソナライゼーションがエンジン役

未来のロイヤリティの主役はAIだ。

レポートによると、AI活用でロイヤリティは受け身型から能動型になり、ホテル側がゲストの意図を推測し、各人に適したリワードをカスタマイズし、到着するずっと前からカスタマージャーニーのキュレーションができる。

自律型AI(プランを作成し、推論し、行動できるシステム)の登場により、こうした流れは今後、さらに加速していくだろう。一般的なAIによるセグメンテーションによる押し上げ効果は5%ほどだが、自動でゲストとリワードをマッチングし、そのメリットを分かりやすく説明し、パーソナライズした内容をリアルタイムで届けられる自律型AIでは15~25%増に高まる。

伝統的な価値よりも、自分にとって必要かを重視する若年層の旅行マーケットにおいて、こうした仕組みは競争力アップに欠かせなくなっている。また、パーソナライズされた体験を提供できるようになれば、ユーザーからの(ブランド)認知度が高まり、アルゴリズムによるリコメンドを増やすこともできる。「オーセンティック」「唯一無二」「意義がある」といったバズワードは、体験に関する話に限らない。消費者の共感を得て、これを拡散させていくカギは、AIアルゴリズムを使った認知度アップとエンゲージメント強化だ。

ただし、AIだけですべて解決できる訳ではない。回答者が強調していたのは、テクノロジーがロイヤリティ向上に威力を発揮できるのは、ヒューマン・タッチを高められた場合だけで、その代役になることはできない。(AIという人工)知能を駆使して、相手を理解する共感力を高めることが成功につながる。

本物の体験がAIエンゲージメントをさらに強化する

高まるロイヤリティ獲得のハードル

スキフト・リサーチがまとめた欧米、アジア、中東、北アフリカの消費者インサイトからは、明白な傾向が浮かび上がった。旅行者が求めているのは、シンプルで透明性があり、真に価値あるプログラムだ。会員数が増える一方、実際のエンゲージメントは失われつつあるのが現状だ。事実、米国のロイヤリティ会員の83%は、自分のニーズにもっとぴったりのプログラムがあれば乗り換えるつもりだと答えており、ここでもパーソナライゼーションの重要性が浮かび上がっている。

旅行業界ではロイヤリティ領域の競争が激化しているが、曖昧なルール、ポイント価値の低下、利用しにくかったり、活用範囲が狭すぎる内容に旅行者はうんざりしている。

これからの時代に支持されるプログラム作りで最優先すべきことは、透明性と信頼、そして現金と同じような価値の提供だ。具体的には、フレキシブルで、複数ブランドのエコシステムへの汎用性があり、各会員それぞれのライフスタイルにぴったりな選択肢が求められている。

SKIFT レポート:The Future of Hotel Loyalty: Personalization, Direct Booking, and the Rise of Experience-Led Travel

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(Skift)」 から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:The Great Reinvention of Hotel Loyalty

編集:Robin Gilbert-Jones氏


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