世界のオンライン旅行市場の現状と未来とは? 2つの海外カンファレンスに参加して考えた

こんにちは。ベンチャーリパブリックの柴田です。

今回からトラベルボイスでコラムを開始することになりました。僕の感じた世界のオンライン旅行動向やカンファレンスで得たインスピレーションなどを公開していきます。

さて、今回は、日本でもおなじみとなったWIT(Web In Travel)カンファレンス(シンガポール)と世界最大のオンライン旅行カンファレンスPhocuswright(フォーカスライト、ロサンゼルス)について。2つのカンファレンスで感じた、目まぐるしく変わる世界のオンライントラベルマーケットの現状と未来について感じたことをシェアします。

キーワードは「ファネル」

フォーカスライトの今年のテーマは“Funnel Revolution”。

簡単に言うと、ユーザーが旅行にあたって通る「Dream」「Search」「Plan」「Shop」 「Buy」「Travel」「Share」といった行動の各フェーズ(=Funnel、ファネル)をそれぞれのプレイヤーがまたいで戦う時代になったということです。

具体的な例では、当社が運営する“Travel.jp”のようなメタサーチ(検索・比較サイト)といわれるオンライン旅行サイトが予約機能を持ち、あたかもOTAのようなサイトになることが挙げられます。Tripadvisor(トリップアドバイザー)のInstant Bookingサービスがこのいい例です。

ファネルを超えるとこうしてビジネスモデルも変わってきます。

当社の例に例えると、これまでTravel.jpはメタサーチというビジネスモデルで“Shop”という特定なファネルをターゲットしてきましたが、ここ数年は“Dream”、“Plan”、“Travel(タビナカ)”といった他のファネル攻略に向けて、Travel.jpたびねす、Trip101といったコンテンツ配信サービスによって新たなビジネスモデルを展開し始めています。まさしくこうした思考の一環です。

新たなプレイヤーやテクノロジーが続々と

こうしたビジネスモデルを超えた戦いは、既存の旅行プレイヤー間のみならず業界の外からの参入にも繋がってきています。

わかりやすい例はGoogle。

Google(グーグル)はここ数年フライト検索・ホテル検索サービスによって旅行業界に参入し、まさしく“Shop”のファネルを狙いはじめていますが、今年はGoogle Tripsという新しいサービス導入によって今度は“Plan”や“Travel”のファネルも狙い始め、まさしく旅行業界に本格参入してきたともみてとれます。

最も新しく顕著な例はAirbnb。

Airbnbは偶然にもフォーカスライトが行われていたロサンゼルスにて同じ週にAirbnb Openという大きなイベントを開催(昨年はパリで6,000人のAirbnbホストを集めました)。その機会を利用して、今後は民泊のみならず旅行全般の予約サービスを始めると発表しました。

新たなテクノロジーはこのファネルを超えた戦いを増幅・加速させます。代表例がAI(人工知能)・マシンラーニングとよばれるテクノロジー。今回紹介している2つのイベントでも、最もとりあげられた話題です。

具体的な活用例は、メッセンジャー(LINEやFacebookメッセンジャーなど)プラットフォーム上で展開されるチャットボットサービス。Booking.comに代表されるグローバルプレイヤーは全ての会社が開発・テストし始めていますが、一方でLolaに代表されるような沢山のスタートアップがこのテクノロジーを梃子に新たなサービスを打ち出してきています。

これらのテクノロジーを使った新しいサービスは“Dream, Search, Plan, Shop, Buy, Travel, Share”といったファネルのほとんどを串刺しで制覇しようとする動きでもあり、旅行会社やホテルのコンシェルジュ、旅行ガイドブックといった業態がDisruptされる(脅かされる)という意味でも大きな注目に値します。

WIT(Web In Travel)に登壇する筆者

分野や国境を超えるサービスも

ファネルを超えた戦いはカテゴリーを超えた戦いにもなっていきます。

“Travel”のファネル = In Destination(タビナカ)でのサービスがいい例で、Expedia(エクスペディア)、Tripadvisorなど数多くの主要プレイヤーは買収などによって相次いでローカルツアーやアクティビティ、レストランの予約サービスに力を入れ始めています。民泊もしかりで、その代表例がExpediaによるHomeAway(ホームアウェイ)の買収。Booking.com(ブッキング・ドットコム)のBookingSuiteやExpediaによるMarriottグループへのサービス開始にみられるようなB2Cサービスを運営する会社がB2Bへ本格参入するような動きも興味深いものです。

ファネル、カテゴリーに加えて国境を超えた戦いも加速しています。

スタートアップも含め、世界の主要プレイヤーが全世界に向けてサービスを展開するのは最早デフォルトになりつつあるのです。

直近の例がドイツ発のメタサーチTrivagoです。世界の各主要都市で積極的にテレビコマーシャルを打つなど赤字経営もいとわない極めてアグレッシブな世界展開が目を引きますが、このほどアメリカで上場申請しました。想定企業価値は5千億円以上ともいわれています。

アジアでは中国、インドに注目が集まっています。中国のCtripは同国のNo.1メタサーチQunarも傘下に収め、巨大かつ未だ大きな成長が約束されている中国国内市場で圧倒的なマーケットシェアを獲得したわけですが、今年に入りインド最大のOTAであるMakeMyTripの株式も取得。今後は“中国国外へ進出する。中国人以外のユーザーへもサービス展開していく”(Jenny Wu, Chief Strategy Officer, Ctrip at Phocuswright)意向を持っているようです。

当社も今年から韓国(Allstay – 宿泊分野でのメタサーチ)、シンガポール(Trip101 – オンライン旅行メディア)をベースに海外市場へ進出しましたが、アジアでもいよいよ国境をまたいだ競争が活発化してくるのは必至でしょう。

トラベル市場は垣根を超えてさらに競争激化へ

最後に、マーケットの未来を占う意味でも常に興味深いスタートアップの最新動向に触れていきます。

キーワードとしては“AI”、“シェアリング”、“B2B”といったところでしょうか。

トラベルマーケットをよく知る投資家の間では“旅行プランニング系には投資するな”との意見が根強いのですが、めげずに引き続き“旅行プランニング系”のビジネスを追いかけるスタートアップがあちこちで目立つのが面白いです。

皮肉にも“AI”技術によって“Plan”のファネルにイノベーションがもたらされる可能性が高くなったからともみてとれます。“シェアリング”はフォーカスライトのピッチコンテストでも入賞した“Airmule”(旅行者が飛行機を利用する際に持つ“余った荷物スペース”を活用した新たな宅急便サービス)に代表されるような“宿”、“車”といった主要分野ではないニッチな分野でのサービスが出てきている印象です。

“B2B”ではローカルツアー・アクティビティ分野に特化したサービスなど、ターゲットを絞り込んだモデルが散見されます。

世界のトラベル市場はこうしたファネル、ビジネスモデル、カテゴリー、国境、企業規模といったあらゆるバウンダリーをまたぎ、入り乱れた、混沌とした競争世界に入ってきていると言っていいでしょう。

79032_2余談ですが、Brexitに引き続き今回のアメリカ大統領選のタイミングでも現地に居合わせました。フォーカスライト最終日のセッションで、アメリカのメタサーチKAYAKのCEO Steve Hafnerが壇上から数百人の聴衆に対して“この中でTrumpに投票した人はどれくらいいますか? 挙手してもらえますか?”と聞いたところ挙手する人は1人もいませんでした(彼はその後“投票したが挙手しない人が必ずいるとは思うが”とコメント)。

こういう混沌とした時こそ、WITで提唱されたテーマである“Reimagine”する力がますます重要になってきていると感じます。日本で開催されるWIT Japan & North Asiaの2017年開催は、6月8日、9日の2日間と決定。今から、そこでの議論を楽しみにしています。


柴田啓(しばた けい)

柴田啓(しばた けい)

ベンチャーリパブリック代表。大手商社での大手コンビニチェーンの重要プロジェクトなどを経て、2001年にベンチャーリパブリック設立。月間1300万規模のビジット数を持つ旅行検索サイト『Travel.jp(トラベル・ジェーピー)』を軸に、海外オンライン旅行市場への本格進出を図る。 慶応義塾大学法学部、ハーバードビジネススクール卒業。WIT Japan共同創業者、ベンチャー三田会会長、経済同友会メンバーなど経済活動に多数参画。

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