エクスペディア・グループの宿泊仕入れ戦略を聞いてきた、世界の先行事例になった「旅館の食」から料金最適化の無料ツールまで

オンライン旅行予約でますます存在感を増す海外OTA。なかでも、各種ブランドで展開するエクスペディア・グループは、日本人の海外・国内旅行とともに、訪日外国人の急増で日本の宿泊施設販売を急速に伸ばしている。

代表的なExpedia.comのほかHotels.comなど各種ブランドの国内宿泊施設の仕入れを一手に担っているのが、エクスペディア・ホールディングスだ。「日本は引き続き重点的に投資している市場。東京オリンピック・パラリンピックにかかわらず、今後も伸びていくと予測している」と話す代表取締役のマイケル・ダイクス氏。同氏に日本での仕入れ戦略について聞いてきた。

日本では仕入れと販売を分社化

まず、改めてエクスペディア・グループの組織について整理しておく。

ダイクス氏が日本で代表取締役を務めるエクスペディア・ホールディングスは、仕入れ全般を担当する米Expedia.Inc.の完全子会社。仕入れた施設はエクスペディア・グループすべてのブランド(75か国35言語、200以上の予約サイト)で販売され、日本の国内旅行とインバウンドの両ユーザーが顧客となる。

一方、Expedia.Inc.とエアアジアの合弁会社として設立されたエアアジア・エクスペディアによって設立されたAAEジャパン(石井恵三社長)はExpedia.co.jpを運営。対象は海外と国内で宿泊先を探す日本人旅行者だ。

世界各国で展開する同社が、このように仕入れと販売で分社化体制を組む市場は、日本を含む大きな数市場だけだという。ダイクス氏は「エクスペディア・グループはマルチブランド。それぞれのブランドには独自の販売戦略があり、どこに何を売るかはブランドが決める。仕入れサイドとしては、スピード感をもって仕入れを最適化することが求められる」と説明する。

旅館の仕入れを強化、世界の先例になった旅館の食事

エクスペディア・ホールディングスでは、急速に拡大するインバウンド市場に対応するため、仕入れ体制を強化している。

地元に近い営業活動を行うために、営業拠点を全国6ヶ所(東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、那覇)に構え、2016年には前年比でスタッフも倍増させた。昨年は特に旅館の仕入れを強化。課題も1年かけて分析したという。

その結果、従来のホテルのスターレイティング(格付け評価)は旅館には合わないことから、その評価制度を変更した。また、旅館特有の食事付きについても調査。全マーケットにおいて、2食付き、朝食のみ、素泊まりの好みは3分の1に分かれたという。

「つまり、外国人には食事付きで6割はカバーできる。旅館に対してこのデータを説明し、泊食分離について提案している」とダイクス氏。エクスペディア・グループが蓄積している膨大なビックデータを、販売と同様に仕入れでも生かしていると話す。

こうした動きの中で、日本の旅館スタイルが、世界の宿泊施設販売に影響を与えた一例がある。宿泊施設の予約サイト上での食のアピールだ。

エクスペディア・グループでは、これまで食事をビジュアルでクローズアップして宿泊施設を紹介することはしてこなかった。しかし、宿泊だけでなく食事をサービスの柱とする旅館が日本独自の宿泊形態として人気を集めるなか、「食事の写真の有無によって、予約成約率やコンバージョンもあがることが分かった。」という。ダイクス氏は「特にアジアからの旅行者にとっては大切な要素になっている。」と話し、それが旅館の食のクオリティーの高さを示しているとみる。

こうした背景から、食事の紹介も含めたサイトの改善を行い、旅館の訴求力をさらに高めた。また、日本の事例をもとにオーベルジュや韓国のパンション(民宿)など海外の宿泊施設でも食事の紹介に力を入れ始めた。

2016年第3四半期のインバウンド実績では、東京や大阪が前年比30%増となっていると同時に、地方でも高い伸び率を残した。例えば、函館が同160%増、九州(福岡除く)が同100%増、甲信越が同80%増などなっており、その要因のひとつとして「サイト改善で一定の効果があったのではないか」と分析している。

なお、今回の取材後に発表された2016年通年では鹿児島が約200%増、岡山が150%以上増、大分が約140%増となった。

エクスペディア・ホールディングス代表取締役のマイケル・ダイクス氏

マルチブランドでさまざまなマーケットにリーチ

また、訪日外国人旅行者の国別シェアでは、興味深い結果もあらわれた。

2016年第3四半期は、韓国、香港、米国、台湾につづいて第5位にオーストラリアがランクイン。この結果について、ダイクス氏は「オーストラリアやニュージーランドの旅行者が慣れ親しんでいるサイトWotifの存在が大きい」と明かす。つまり、グループとして仕入れた客室を、一定の市場に強いローカルOTAが突出して販売した結果。グループの仕入れ力が生かされた形だ。

仕入れた宿泊施設はエクスペディア・グループという箱に入るが、そこから各ブランドがその戦略や客層に合わせて、販売する宿泊施設を決める。また、同じ宿泊施設でも掲載するデータ、掲載しないデータはブランドによって変わってくる。「万人にヒットするブランドというものはもはやない。消費者の趣向はどんどん細分化している」というマーケットの変化に対してマルチブランド化は功を奏しているという。

AIとビックデータで最適料金をアドバイスする無料ツールを提供

エクスペディア・ホールディングスは仕入れの組織だが、ダイクス氏は「宿泊施設サイドから求められれば、データに基づいてアドバイスする」という立場も強調。宿泊施設側がOTAを選ぶ時代のなか、エクスペディア・グループでは20年にわたって蓄積したビックデータを武器にアプローチを強めていく。今年前半には、宿泊施設向けに新たに「REVプラス」というツールの提供を無料で始める予定だ。

これは、AIとビッグデータを組み合わせたサービスで、宿泊施設に対して、競合との料金差や為替レートなどを考慮しながら、最適な料金設定を助言するもの。契約施設はエクスペディアの管理画面で使用することができる。

「エクスペディアが持つ膨大なデータ量だから可能なこと。他ではなかなか真似できないだろう」と自信を示す。すでにアメリカでは2016年末に導入。好評を得ているという。

エクスペディア・ホールディングスでは、「REVプラス」をはじめとして、今後もB2Bのコンサルティング・ビジネスを強化していきたい考え。「部屋単価の体系と同じくらいプロモーション体系を決めるのは大切。単価、連泊、早割、朝食ありなし、ターゲット市場などさまざまな観点でアドバイスすることができる」とアピールする。

地方の新規契約獲得にフォーカス

ダイクス氏は日本の商慣習についても言及。「宿泊日に近づくにつれて、料金が下がる傾向は健全ではない」と話す。

日本では、たとえば宿泊日が近づき、大量の客室在庫が戻ってきたとき、たたき売り(低価格販売)が始まることが多い。一方、世界では、さまざまな制限がなくなるため、料金が上がっていき、予約の取り直しも行われない。

「エクスペディアのデータによると、2週間前でも1ヶ月前でも2ヶ月前でも、世界で日本を検索している量は変わらない。それだけ人気のデスティネーション。宿泊日が近づくと、国内サイトでは安く売られるが、世界では高値でも求める旅行者は多い」と話し、海外OTAが持つネットワークの利点を強調する。

日本の宿泊施設は約3万6,000軒。「主要都市は増えてきたが、地方でまだ開拓できないところは多い。当面の目標は直接契約1万軒」とダイクス氏。代表取締役に就任した2015年10月に比べると、契約数は倍以上に増えたが、「さらに新規契約獲得にフォーカスしていく」方針だ。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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