世界の航空業界で導入進む「タッチレス(非接触)技術」とは? 空港と航空会社の取り組みを整理してみた【外電】

航空各社が新たな安全・衛生対策を次々と打ち出している。人々が空の旅への信頼を取り戻し、安心して出かけられるようにするためだが、政府の渡航規制という壁も、依然として立ちはだかる。

ルフトハンザ航空では、航空券とコロナ検査を併せて提供する方針とし、エミレーツ航空は、コロナに関連して生じた医療費や自主隔離の費用をカバーする保険を、利用客に無料で用意するという。壊滅的な打撃を受けている航空業界が、なんとか安心感を取り戻そうとしている。国際航空運送協会(IATA)予測によると、2020年に航空各社が背負う赤字は840億ドルとなる見込み。各国政府から発出されている渡航規制という逆風もまだ続く。

多くの政府は、科学的根拠に従っているとの立場だ。これに対し、欧州の空港および航空会社はこのほど、科学的根拠に基づいた一貫性あるアプローチが採用されていないことが原因となり、「ヨーロッパ経済が機能不全に陥っている」とする書簡を各国政府当局に送った。

空港・航空会社が求めているのは「世界的に統一性のある導入基準」をもって、欧州航空安全機関(EASA)とICAO(国際民間航空機関)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)がまとめた「安全な空の旅のプロトコル(Take-Off Aviation Health Protocols)」が採用されることだ。

こうしたなか、IATAでは、需要が2019年レベルに戻る時期について、これまでの予想よりさらに1年遅く、2023年までかかるとしている。ウイルス検査の実施や渡航制限の解除だけでは冷え込んだ客足は戻らないのが現実で、テクノロジーが果たすべき役割はとても大きくなっている。

7月末、ジェットブルーはニューヨークJFK国際空港とフロリダのフォート・ローダーデール-ハリウッド国際空港で、機内清掃に紫外線除菌ロボットを試験投入すると発表した。健康・衛生対策強化の一環だ。

こうした新しい取り組みやテクノロジーの活用が、これからどんどん増えていく。旅行再開に伴い、利用者側も少しずつ、新しい旅のスタイルに慣れていくことになる。

タッチレス、そして究極のシームレスへ

航空関連マーケティングのシンプリーフライング(Simpliflying)社と同テクノロジー企業エレニウム(Elenium)社が発表した最新レポートでは、旅客サービスにおけるタッチレス・テクノロジー(非接触技術)の今後の可能性について取り上げている。

生体認証に加え、体温など健康状態のスクリーニングやスキャナー技術、さらにタッチレスで完結する荷物の諸手続きが、空の旅のニューノーマルになるとしている。

すでに多くの新しい取り組みが動き出している。その一つがID認証テクノロジー、クリア(CLEAR)社だ。空港のセキュリティ検査の際、優先レーンで同技術が採用されるようになり、旅客の生体認証データと体温チェック、コロナ検査を組み合わせたソリューションを提供している(同レポート)。

デンバー国際空港では、生体認証とID管理を専門とするデオン(Daon)社の協力を得て、旅客と従業員を対象とした生体認証ソリューションを試験導入している。

ほかにも様々な試行錯誤が始まっており、空港も航空会社も、キャッシュ不足に苦しみつつ、手元にある資源を最大限に活かそうとしている。

アマデウスとノルウェーの空港運営会社、アビノール(Avinor)は、旅客が何にも触れることなく、タッチレスで過ごせる環境整備計画を明らかにした。

計44の空港を運営しているアビノールでは、チェックインから手荷物を預ける手続き、セキュリティ検査、そしてフライト搭乗まで、旅客側は何にも触らないで済むタッチレス・テクノロジーのテスト運用を行っている。

旅客はまずフライトのチェックインをリモートで行う。すると搭乗券代わりのバーコードが、自身の携帯端末に送信されてくる。

バーコードは、荷物に付けるタグを、空港のセルフサービス・キオスクで印刷する際のクーポン機能も兼ねている。その後、同じくセルフサービスの所定の場所で、自分のカバンを預けるだけだ。

アビノールでは、すでにタッチレスでの搭乗サービスを導入済みだったが、さらに機能を拡充し、旅行に伴う多くの手続きでコンタクト・フリーを実現する。

同社の最高情報責任者(CIO)、ブレデ・ニールセン氏によると、これまでは巨額の投資を伴うIT開発を躊躇することが多かった同社だが、今回ばかりは「最先端」を目指し、しかも短時間で実現する必要があると判断した。

アマデウスと協議を始めたのは2020年3月半ばだったが、7月中旬には、2つの空港でテスト運用が始まった。アマデウスで欧州中東アフリカ地区・空港IT事業を担当するヤニック・ブナード副社長は、安全対策が絡むソリューションの導入事例としては最速という。

同氏は「多くの空港から、これ以外にも様々なソリューション導入に関する問い合わせを受けているところで、中にはかなり複雑な内容もある。ただ、極力シンプルにする方が、より効率的になることが少なくない」と指摘する。

ニールセン氏によると、アビノールが運営する空港のうち17か所では、短時間でテクノロジー導入が完了する見込みだが、残る課題は、利用客からの反応だ。

「我々としては、最善のソリューションを実現したつもりだが、最終的には、利用客にとって使い勝手がどうかという問題になる。今は少々、緊張しながら、新しいやり方が受け入れてもらえるか見守っているところだ」。

今回のテクノロジー導入で非常によかったことは、巨額の出費にはならなかった点だ。

「顔認証など、大掛かりなソリューションについては、最初から検討しなかった。すでに空港にある施設を活かしつつ、既存のプロセスをどう変えられるか話し合った」(ニールセン氏)。

同じような考え方は、航空業界のあちこちで聞かれる。

SITA(国際航空情報通信機構)の空港・国境管理担当副社長、アンドリュー・オコナー氏は、これまではカスタマーエクスペリエンスを改善するテクノロジーの導入が「かなりのペースで」進んでいたが、ここにきて、接触機会を減らす「ロータッチ」テクノロジーへの関心が特に強くなっていると指摘する。

また、これまで利用されていた共通プラットフォームをベースに、新しい機能や設備の追加を検討している空港が多いとオコナー氏は話す。

こうした新機能の一つ、SITAフレックス(Flex)を使えば、これまで旅客との接触が必要だったタッチポイントで、モバイル端末を導入しやすくなるという。

生態認証のイノベーションであれ、モバイル対応ソリューションであれ、インフラやシステムに新規の投資を行うところはないだろう、というのがSITAの現状認識だ。

「SITAでは、すでに一般に普及しており、利用実績のあるものを土台とし、そこに新しい機能を積み上げている。その方がやりやすい」(同氏)。

オコナー氏もブナード氏も、既にテスト運用済みのテクノロジーが、これから加速度的に広まると予測している。

ブナード氏は「今までとは違う世の中になることが容認されるようになり、近い将来について具体的に考えるようになっている。タッチレスの旅行ソリューションとはどんなものか想定し、ソーシャルディスタンスや衛生環境、セルフサービス、生体認証などのテクノロジーを使ったソリューション開発に乗り出している」。

「(新型コロナウイルスによって)あらゆる変化がスピードアップし、新しい現実をようやく直視するようになった。コロナのトラウマが、この分野における変革を加速させることになろうとは、全く予想外の展開だが」。

空港や航空産業に関わるステークホルダーの間でも、お互いの協力が不可欠であるという点で、意見は一致している。

オコナー氏は「こうした取り組みがうまく機能する理想的な状況、今までよりも格段に上のレベルまで到達できるかどうかは、航空会社、空港、各国政府のさらなる協調次第だ」と指摘する。

「現在の危機的状況のおかげで、航空産業のエコシステム全体に対する深い理解が進み、それぞれの国の政策や決断が、お互いにどう影響するのか分かるようになった」。

アビノールの事例では、空港運営側や航空会社に加え、国のセキュリティ管轄省庁からの理解も得ることができて、目指すべきゴールを共有できたとニールセン氏は話す。

航空分野におけるデジタル・テクノロジー進化のカギは、相互協力の精神が、どのような形であれ、これまでよりも高まるかどうかだ。

オコナー氏は、協力体制こそが「究極のビジョン」達成をスピードアップする要素だと考えている。例えばIATAが提唱する「OneID」コンセプトもその一つで、生体認証を活用し、空港内での手続きや移動を「途中で途切れることなく」シームレスにつなぐことができるようになる。

「もっと戦略的な進め方も可能だが、まずはどのような未来像を描くべきかを検討し、”一歩下がって”冷静に考えることも重要だ」というのが同氏の結論だ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Touchless tech: Airports and airlines take steady steps to restore confidence in flying

著者:リンダ・フォックス

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