カギは「海外旅行ニーズから国内へのシフト」、高級宿泊「一休」の絶好調の理由やJTBの次の動きなど、WiT Japan 2020を取材した

デジタル旅行の国際会議「WiT Japan & North Asia 2020」のオンライン特別プログラムが開催された。コロナ禍の影響で例年のようなリアルな場での開催はできなかったものの、国内外から旅行業界のキーマンが参集。厳しい旅行業の現状から、様変わりした世界への対応、コロナ後の展望を共有した。

今回のオンライン特別プログラムでは、3時間強にわたり計7つのセッションを実施。全体を通して、出演者の多くがコロナ発生後の最悪の時期から回復している状況を説明した。日本政府が行う旅行需要回復へのGoToトラベルキャンペーンについては、国内のみならず、海外事業者からも高評価だった。

GoToで4、5倍の推移、海外旅行からのシフトも

WiT Japanならではの国内OTAのセッションには、楽天、じゃらん、JTB、一休の4社が出演。現在の業況についてオンライン旅行会社は好調のようだ。

各社から「昨年対比くらい」(リクルートライフスタイルじゃらんプロデューサーの宮田道生氏)、「明確な数字は言えないが、絶好調で数倍成長」(一休CEOの榊淳氏)、「前年の4、5倍くらい。予約数に比べ、売上の方が伸び率が高い」(JTB執行役員個人事業本部ウェブ販売部長の盛崎宏行氏)とのコメントがあがり、春先の最悪の時期を脱して成長を遂げている状況が明確となった。

その牽引役は、やはりGoTo。「業界全体に大きなインパクトがあった。もし(GoToが)なかったら、前年の半分くらいだったかもしれない」(JTB盛崎氏)という意見もあるほどだ。

一方で、「東京は昨年対比まで戻っていない」(じゃらん宮田氏)や、「カテゴリ別でみると、大変厳しい状況もある。都市部の宿泊施設も回復するようにしたい」(楽天執行役員コマースカンパニー・トラベル&モビリティ事業統括バイスプレジデント髙野芳行氏)というように、コロナとの戦いが続いている状況もある。

一方で、高級宿泊予約の一休は、少し違う推移を辿ったようだ。榊氏は、GoToがなかったとしても「我々は成長したと思う」と言及。榊氏によると、一休では緊急事態宣言の発出時期も、「実は非常に売れていた。富裕層はステイホーム下でお金の消費先がなくなった時、高級旅館に行っていた。そこで一気に戻せた」。部屋食や温泉露天風呂付客室などの多い高級旅館は感染リスクが低いと見られ、「コロナ禍での生活が、我々の事業にマッチしていた」と説明する。

GoToに関しては、高級な宿泊施設に需要が集中する制度であると批判的な報道がある。このことについて、モデレーターのベンチャーリパブリックCEOの柴田啓氏が榊氏に「報道は正しいと思うか」と問うと、榊氏は「正しいと思う」と答えた。榊氏は、ユーザーがいつもの利用金額よりも割引金額分高額な施設を利用していることが予約傾向からうかがえるとし、「どうしても高級施設によるのは、GoTo施策の特徴だと思う」とも話した。

(左上から右へ)モデレーターの柴田氏、楽天・髙野氏、一休・榊氏、(左下から右へ)じゃらん宮田氏、JTB盛崎氏さらに、コロナによる日本市場の変化にも言及があった。

じゃらん・宮田氏が「報道にある通り、同一県や隣接県の需要は盛り上がっている」と、マイクロツーリズムの顕在化を指摘。また、楽天・髙野氏は「オンラインシフト」をあげた。コロナで、今までネット予約をしていなかった人がするようになり、それが自粛期間の終了後も続いているという。

「国内の海外旅行ニーズから国内へのシフト」というのは、一休の榊氏。今回初めて体感したことで、これも高級宿泊施設が売れた理由と見ている。「これまでは国内旅行者が海外旅行でどれくらい消費しているのかを気にしていなかった。海外旅行市場が巨大であることが良く分かった」と、特殊状況下で察知できた需要の影響を語った。

世界各所でコロナによる行動変化が浮き彫りに

このほかWiTでは、海外OTAからキーマンが出演。グローバルOTAとホテルチェーンのセッションでは、海外からの目線で日本とアジアの動向が語られた。

日本でのGoToトラベルキャンペーンに関し、モデレーターのWiT創設者イェオ・シュウ・フーン氏が「(日本国内で)日本のローカルOTAと戦うのは大変か?」と水を向けると、外資OTA出演者は「日本企業に後れを取っている」としながらも、「日本政府は素晴らしい成果を残している」(アゴダ ストラテジック・パートナーシップ&プログラム・ヴァイスプレジデントのDamien Pfirsch氏)など、評価する声があがった。

日本市場が10億ドル規模というエクスペディアグループでは、「6割が国内からの需要。政府との取り組みや地方自治体とのパートナーシップもあるので、これを継続していく」(シニアディレクター・Ang Choo Pin氏)と、GoToによる市場の弾みに期待を持っているようだ。

一方、コロナ発生後の市場の変化を指摘する声も。ブッキング・ドットコム北アジア地区統括リージョナル・ディレクターのヴィカス・ボーラ氏は、予約の柔軟性に対するニーズが増加している状況を指摘。グローバルトラベラーの74%が、取消料規定に柔軟性を求めているという調査結果を示した。

また、アコーホテルズAPAC CEO代理のLouise Daley氏は、中国市場でバウチャーやクーポンのデジタル化へのニーズが高まっていることを紹介した。コロナによる新たなトレンドやユーザーの行動変化は世界各所で起こっており、今後のインバウンドや海外展開でも注意する必要がありそうだ。

(左上から右へ)モデレータのシュウ・フーン氏、エクスペディアChoo Pin氏、アコーのDaley氏、(左下から右へ)ブッキング・ドットコムのボーラ氏、アゴダのPfirsch氏 

未来への判断と展望

今回のWiTではJTB代表取締役社長の山北栄二郎氏、日本航空(JAL)常務執行役員イノベーション推進本部長の西畑智博氏など、日本の旅行業界のトップ企業で変革を担うリーダーが出演。危機対応だけでなく、未来への生き残りに向けた変革への強い意志が印象的だった。

JTBの山北氏は、この状況で変革の指揮を執ることに「非常に難しいタイミング」としながらも、優先順位を「サバイバル」「デジタルへの対応」「エコシステムの強化」の3点と説明。その上で、デジタル対応については「いい機会」と前を向き、エコシステムについては、「我々のカスタマージャーニーの定義は、OTAと異なる」と独自路線の変革を強調した。

JTBでは顧客の旅行体験を、インスピレーションを掻き立てる段階から、旅行から帰宅して日常に戻るまでのエンドtoエンドでカバーし、次の体験を改善するサポートまで目指しているといい、「これが、我々の目指すエコシステム。サスティナブルでなくてはならない」と説明する。

また、国際競争力のトピックで「日本の強み」を問われた山北氏は、「システムを実行する力」と回答。その一例として、新幹線の定時運行性を上げ、「日本人の持つ能力が、観光産業に非常に貢献している」と力強く述べた。グローバル化やデジタル化で遅れが指摘される日本の旅行業界だが、新たなシステムの構築と推進が必要なウィズコロナ時代においては、それを改善しながら忍耐強く続ける「実行力」は、大きな強みになるはずだ。

左から)モデレーターのシュウ・フーン氏、JTB社長の山北氏JALのイノベーションを担う西畑氏の話からは、コロナ禍でも工夫をして未来を拓く手をやめない強さがうかがえた。JALでは2018年4月にオープンイノベーションの活動拠点「JAL Innovation Lab」を開設し、顧客体験(CX)と社員の働き方(EX)の最大化を目指す、地に足の着いたイノベーションを推進している。

とはいえ、この未曽有の経営危機下では今を生き延びる戦略を優先し、未来への投資は難しいが、「確かに4月、5月はスタックしたが、その期間は金の代わりに知恵を出し、それを今、パートナー企業と具現化している」(西畑氏)。今上期も10のPoC(概念実証)を出したという。

現在、西畑氏は企画から3か月でのローンチを目指している。「それで可能なスペックのものしか作らないが、このスピード感での開発をJALはしてこなかった。社内にこの文化を作り、それができる人材を育てる」。これをやり切ることも、課題なのだという。

左から)モデレーターの柴田氏、JAL西畑氏なお、WiT Japanの来年の開催は2021年7月1日、2日を予定している。

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