阪急交通社は、現在、約20年ぶりに社内基幹システムの全面刷新を進めている。単なる環境変化への対応にとどまらず、持続性と収益最大化を見据えた戦略的なプロジェクトとして、約3年をかけて移行していく計画だ。その中で、同社の国内旅行事業の柱ともいえるバスツアー領域のシステムにナビタイムジャパンの「行程表クラウド」を連携することを決めた。
すでに、新基幹システムとの連携を前提に行程表クラウドの運用が始まっている。バスツアーの核である行程表を軸に、業務効率化はもちろん、販売強化や品質管理、収益性や価値向上を目指している。阪急交通社とナビタイムジャパンに、導入の理由から効果、今後の展開を聞いた。
バスツアーの課題、行程表作成を業務改革の起点に
阪急交通社では、募集型企画旅行が事業の8~9割を占める。企画から販売に至るまでの時間、経費は先行投資であり、そのコストは大きい。今回のシステム刷新について、DX戦略担当である取締役執行役員の飯坂敏之氏は「企画から募集、販売までの一連の流れにおいて全面的に業務とシステムを見直し、(効率化を図ることで)利益率を向上させたい」と話す。
そこで、国内旅行の主力であるバスツアー領域を担うシステムとして採用したのが、ナビタイムジャパンの「行程表クラウド」だ。行程表の作成はバスツアー企画の要であり、このデータをもとに手配や募集、販売、催行、精算がおこなわれる。ツアー実施におけるデータの出発点という意味では、DXの最重要部分といえる。
システム刷新に至るまで、阪急交通社のバスツアーの企画には、大きな人的リソースを必要としていた。
例えば、年間約1万8000にのぼるコース数は、年々増加している。市場のニーズに応じて定番コースに毎年新たな要素を加えるほか、手配先のキャパシティ縮小により、設定数を増やす必要があるからだ。また、売れる商品には、より効率よく多数の見どころを組み込んだコースが求められる。その采配は、企画担当者の「経験と勘」によるもので、同社ではExcelをベースに手作業で行程表を作成していた。
飯坂氏は、「企画担当人員を増やしてもコース数が増えるから、現場が楽にならない状況が続いている」と負荷の大きさを強調する。
さらに、バスツアーの主戦場であるメディア販売では、企画から販売までのリードタイムが短く、商品発表まで1週間ということも珍しくない。従来の体制ではミスや品質低下を招くリスクが高く、行程表の不備によって旅程をこなせないツアーが発生すれば契約不履行につながる。損失に直結する事態を防ぎ、効率化とスピード、正確で魅力ある企画の両立を満たすサービスとして選んだのが、行程表クラウドだった。
(右から)阪急交通社 取締役執行役員DX戦略事業本部長兼総合管理本部副本部長兼情報システム部長 飯坂敏之氏、東日本営業本部メディア営業一部国内営業二課 髙橋侑希氏
スタッフの価値を最大化するシステム
行程表クラウドは、貸切バスを利用する旅程の作成や見積もり時の業務効率化を支援するクラウドサービスだ。「行程に組み込む観光スポットを選べば自動的に移動時間と距離が生成される。ベテランのノウハウをシステムで再現できる」(飯坂氏)と期待し、同社の品質管理部門が半年間にわたって検証したうえで、2024年11月に導入に踏み切った。
導入から1年あまり。バスツアーの企画現場では、業務に変化が表れている。
ツアー企画を担当する髙橋侑希氏は「人気の花見ツアーなど、ベテランの知識に頼っていた渋滞予測や移動時間の算出が自動化され、経験の浅いスタッフでも正確な行程を引けるようになった。個々の経験に頼らず“仕組み”で仕事ができるようになった意義は大きい」と話す。若手スタッフが先輩に確認をする時間が不要になり、大幅に仕事の効率が上がった。
行程表の精度の向上は、経営面にも貢献している。飯坂氏は「予定通りの行程をこなせなかった場合、旅程保証に基づき旅行代金の一部を返金する必要がある。行程表クラウドの導入以降、こうした営業損失に直結する報告が減少したと実感している」と話す。
また、大型バスの通行可否を「行程表クラウド」で確認できるメリットも大きい。これも、経験と勘に頼る部分もあったが「あまり知られていない場所でもバスで行けるか、分かるようになった。新人には既成概念がない強みがある。新規コースや挑戦的なコースの増加につながっている」(髙橋氏)と、社員の力を生かせる利点も強調した。
法令遵守アラート機能など、旅行実務経験の長短を問わず、安心して行程表作成を支援する機能を用意
旅行業務特有のニーズに応えるデータと技術
こうした現場の変化を支えているのが、行程表クラウドが有する高度なデータと技術だ。ナビタイムジャパンで、行程表クラウドを担当するセールス・アライアンスマネージャーの渡辺俊彦氏は、同サービスの根幹となる2つの強みをあげた。1つは「誰でも簡単に安全・正確で、実現性の高い行程表を作成できること」、もう1つは「旅行業務特有の“未来の予測”に応えられるデータと技術を有すること」だ。その上で、随時アップデートやサービスの進化に取り組んでいる。
1つ目の実現性について、渡辺氏は「大型バスが運行できる道路に限定したルート検索」をあげる。各都道府県の警察から収集した大型バスが考慮すべき交通規制情報に加え、大型車専用駐車場など、独自に整備した地点データを経路検索エンジンに統合。最近では、通常は進入不可だが許可証の取得で通行可能になるような、特殊な条件にも対応した。バス会社の手配時の手戻りをゼロに近づけるべく、細かなルート検索やそれに応じた高速道路等の料金、運賃の算出を可能にしている。
2つ目の「未来の予測」は、半年や1年先のツアーを企画する旅行業務ならではのニーズだ。行程表の作成では、観光地間の移動時間を正確に算出してスケジュールを出す必要があるが、交通状況は曜日によっても大きく変動するため、予測には高い技術力が求められる。30以上のサービスを提供するナビタイムジャパンでも、1年先の予測は例がなく、社内横断の技術開発で実現した。同社が日々収集する膨大な走行データにAIを掛けあわせ、特定時期の渋滞発生を高い精度で予測する。
(右から)ナビタイムジャパン トータルナビ事業部 行程表クラウド・バスカーナビチーム セールス・アライアンスマネージャー 渡辺俊彦氏、同事業部企画推進チーム 酒井美帆氏安全運行の根幹である、ドライバーの拘束時間規定や下限運賃などの法令遵守の支援が機能するのも、常に最新のデータ整備や機能拡張に取り組む同社の機動力があるからこそ。渡辺氏は「法令違反となる手配ができないよう、システムがチェックする。経験の浅い方でも安心して任せられるという声をいただくことが多い」と自信を示す。
最近では、効率化を目的に、データの共有にも力を入れている。行程表クラウドを導入した旅行会社とバス会社間なら、同じ行程表や見積もりで手配のやり取りをできるようにした。また、導入企業が社内で自社の知見を利活用できるよう、「バス乗降場所」などの過去に設定した情報の社内共有も可能にしている。
機能開発で最近、特に力を入れている1つが、データの利活用。社内の貴重なノウハウを必要な箇所に表示し、活用しやすくする
阪急交通社の発想でオプション機能を開発、AI活用への期待も
ナビタイムジャパンでは、阪急交通社の導入時に新機能「観光ガイドオプション」を共同開発した。阪急交通社の要望を発端に実現したもので、行程表データを活用し、観光地の画像や紹介文をツアー募集や案内書面に自動反映させる機能だ。導入企業が有する情報に加え、ナビタイムが保有する約4万点の観光地情報の利用もでき、飯坂氏は「案内のクオリティの均一化と情報提供のスピードを高めることができた」と評価する。この機能は、行程表クラウドの導入企業が利用可能なオプションとして提供されている。
観光ガイドオプションで作成した阪急交通社の案内書面。行程表作成に伴うデータの有効活用を可能に
飯坂氏は今後、この観光ガイドオプションを発展させ、ツアー体験の向上に利用することも考えている。その1つが「AIガイド」の構想だ。バスガイド不足が深刻化する中、アプリ等を通じてツアーへの没入感のある案内ができれば、満足度の高いツアーを提供できると考える。さらに、ナビタイムジャパンが有する人流データなどリアルタイムの情報の活用にも「行程表クラウド上で人の関心が集まっている場所が可視化されれば、より魅力的で収益性の高いツアーづくりに生かせる」と意欲的だ。
ナビタイムジャパンの酒井美帆氏は「行程表クラウドのサービス開始から約3年。安全と品質の向上、業務効率化のためのベースができた。今後は、蓄積された各社のデータを活用し、顧客満足度とリピーター育成につながる仕組みづくりに取り組みたい」と話す。単なるツールの提供にとどまらず、利用状況を分析しながら操作性の改善を重ねるナビタイムジャパンの伴走体制が、サービスの可能性を引き上げている。
阪急交通社では新基幹システムにおいて、一気通貫でのデータ活用とそれによる業務の自動化を目指している。バスツアーに関しては、行程表クラウドに一本化する運用を構想している。これを受け、ナビタイムジャパンの渡辺氏は「今後も、より精度の高いサービスを追求し、お客様が本質的な業務に注力できる環境を整え、業務全体に寄与していきたい」と話している。
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対応サービス:行程表クラウド
問い合わせ先:ナビタイムジャパン koteihyo-business@navitime.co.jp
記事:トラベルボイス企画部



