バイデン新政権の誕生で米国の旅行業界はどう変わるか? 1.9兆ドルの追加経済対策案、ワクチン接種の加速、需要喚起策に大きな期待【外電】

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2021年1月20日、米国大統領にジョー・バイデン氏が就任した。旅行市場で厳しい政策を取り、旅行業界を苛立たさせてきた4年間のトランプ政権の終焉は、米国旅行業界のリーダーたちにとって希望となるだろう。

米国議会も政権与党が多数派を占めることから、旅行に関連する政策も党派間の政争の具にはならないと見られる。バイデン大統領が進める1.9兆ドル(約197兆円)の追加経済対策案も米国のビジネスと消費者の回復を手助けし、引いては旅行分野でも利益が生まれることは間違いない。

バイデン大統領の当面の課題はパンデミックの収束だ。そのため、トランプ政権が提案しているヨーロッパ、英国、ブラジルからの入国禁止措置解除は認めないだろう。しかし、感染拡大防止対策は、最終的には旅行の回復に繋がる。

バラク・オバマ元大統領は、観光業が直面している課題に真剣に耳を傾けた最初の大統領だった。ブランドUSAが誕生したのもオバマ元大統領が在職期間中だった。旅行業界のリーダーたちは、バイデン大統領がオバマ時代に回帰し、旅行産業でリーダーシップを取ってくれると期待している。

バイデン政権で、米国の旅行業界はどのように変化していくだろうか。

ツーリズム

バイデン大統領が、トランプ政権によるイスラム諸国からの入国禁止などの旅行制限を見直すとしていることに、旅行業界は希望を見出している。公共施設や州をまたぐ旅行でマスク着用が義務化され、ワクチン接種も今後加速するだろう。

昨年から議会に旅行業界の救済措置を訴え続けてきたUSトラベル・アソシエーション上級副社長のトリ・バーンズ氏は「我々は、バイデン大統領のワクチン接種でのリーダーシップに、本当に勇気づけられる」と話す。

バーンズ氏は、新型コロナウイルスで最も影響を受けたのは飲食業、ホスピタリティ産業、旅行観光業だとの認識を示しているが、それでも200億ドル(約2兆円)の追加予算がどのようにワクチン接種に活用されるか特別な思いで見ている。

「バイデン大統領の政権移行チームとの話し合いの中で、救済だけでなく、ビジネスを再び活気づけるための施策が必要だと認識していることを知った。これには非常に勇気づけられた」とバーンズ氏は話す。

バーンズ氏は、バイデン政権の主要ポストには観光分野に精通した人物が多いことも高く評価している。

ディスカバー・プエルトリコCEOのブラッド・ディーン氏は、バイデン政権は、インフラとテクノロジーに注力することで米国の旅行と観光を重要性を示すべきだと指摘する。

「バイデン政権は、次世代に向けた持続可能な成長に向けて、旅行関連のインフラ、システム、リソース、そして政策を進めることができる。いや、そうすべきだ」とディーン氏は話す。

また、海外での米国のイメージを再構築し、インバウンド市場を再興することも必要になってくる。これは、バイデン大統領が世界中で歓迎されていることを見ると、それぼと難しい話ではないかもしれない。

しかし、米国へのインバウンドはいつ回復するのだろうか。

バーンズ氏は、2019年のインバウンド市場での黒字額は590億ドル(約6.1兆円)にのぼったことに触れつつ、「インバウンド旅行再開に向けてさまざまなアイデアがあるが、それは旅行規制の解除に合わせて実施されてはじめて有効だ。検査で陰性であれば隔離は免除されるなど実際的な措置が望ましい」と話す。

ディーン氏は「海外旅行者を迎えるためには、前向きなウェルカムメッセージを出す必要がある。バイデン政権は、ブランドUSAの財政立て直しだけでなく、インバウンド旅行者数を増やすための新しいモデルを構築していく必要がある」と指摘する。

新しい政権と議会は、米国の旅行産業を米国経済復興の鍵として位置づけているが、バーンズ氏は「いつも言っていることだが、旅行観光産業は党派を超えた課題だ。旅行は米国50州すべてで重要な産業で、白か黒かの問題ではない。バイデン政権や議会が今後、意味のある政策を実行してくれると期待している」と続けた。

ホテル

ホテル業界も、バイデン政権の誕生を喜んでいる。しかし、現在進行中の公衆衛生の危機で失ったものはすぐには取り戻せない。バイデン大統領が提案している追加経済対策案には、週400ドル(約4万1000円)の追加失業給付が含まれており、ホテルなど厳しい現実に直面している業界にとっては大きな支援になる。2020年12月の米国ホテル業界の失業率は18.9%まで落ち込んだ。依然として全体平均の6.7%よりもかなり高い。

先月には9000億ドル(約9兆3000億円)の経済支援策が可決。給与保護プログラムの予算が追加されたが、バイデン大統領の提案はそれに続くものだ。

アメリカン・ホテル&ロッジング・アソシエーションCEOのチップ・ロジャース氏は「ホテル業界は新政権を歓迎する。需要を喚起し、雇用を戻し、コミュニティーへの投資を続ける政策を実行してくれるだろう。そして、最終的には旅行を元に戻してくれることを期待する」とコメントしている。

しかし、ホテル業界のリーダーたちは、回復への道のりは長いものになると思っている。

ハイアットCEOのマーク・ホプラマジアン氏は「ホスピタリティ業界が完全に回復すると確信してるが、新型コロナは依然として深刻な課題。何よりも、影響の大きい業界を再建するためには、新政権からの配慮と協力が必要だ。旅行再開には、ワクチン接種の加速と、迅速で正確で低コストの検査が不可欠だ」と話す。

バイデン大統領の提案には、全国的な予防接種プログラムに200億ドル、検査体制強化に500億ドル(約5.1兆円)の追加予算が含まれている。就任後100日間で1億人にワクチンを接種するという目標を掲げているが、ロジャース氏はホテル業界はその接種場所としてホテルを提供できると話している。

ホテル業界が望んでいるのは、1.9兆ドルの追加経済対策案だけではない。グループ旅行、MICE、インバウンド旅行を復活させる何らかの需要喚起策も求めている。

ホプラマジアン氏は「我々は、議会と新政権がホテル業界を維持し、コロナの脅威が収まった後、米国の経済回復のためにも、より長期的な需要喚起策を実施することを強く求める」と話す。

一方、労働問題に言及するリーダーもいる。マリオットCEOのアーン・ソレンソン氏は、バイデン陣営の勝利直後に、Linkedinに投稿した書簡の中で、バイデン政権下で変更を望むこととして移民の問題を挙げた。

「すでに米国に住む人たちが、社会の生産的な一員になれるように、国民的なコンセンサスの構築に取り組む必要がある。移民はこの国を建設してきた。我々の未来の成功の一部を担うものになる」。

航空会社

バイデン大統領は、米国国内線でのマスク着用を義務付ける大統領令に署名すると見られる。米国の航空業界は、連邦政府に対して、パンデミックの初期の頃から、この対策を求めてきた。

機内でのマスク着用が有効かどうかはまだ不透明だが、少なくとも連邦政府による支援を受けることで、会社の規則を要請する乗務員へのハラスメントは減りそうだ。

また、米国航空業界団体のエアラインズ・フォー・アメリカ(A4A)は、新政権に対して、インバウンド旅行の再開に向けて検査体制の標準化と現在も続いている国別入国制限を再考を求めている。検査については、出発3日以内の抗原検査の実施を勧めている。

このような状況でも、今年のビジネスを楽観視している航空会社は多い。デルタ航空CEOのエド・バスティアン氏は、今春、あるいはは今後90日以内に「変曲点」が訪れると予測。今夏までには利益を生み出すことができるとさえ考えている。

他の航空会社やウォールストリートのアナリストの間でも、今夏まで、少なくとも国内線では、旅行者は戻ってくるとの期待は大きい。一方で、国際線や出張需要は、年末までは大幅に回復する見通しはない。

A4A社長のニコラス・カリオ氏は「ワクチン接種が進んだとしても、2024年まではパンデミック以前の旅客数に戻ることはないだろう」との認識を示している。

このほか、航空業界はバイデン政権に対して、航空管制システムの近代化も望んでいる。現在の地上ベースのシステムを衛星ベースのNextGenシステムに置き換えることで、路線距離を短縮し、遅延を減らすことで、最終的に航空機からの排出量を削減することが可能になる。これは10年以上前から計画されてきたが、まだ実現していない。

バイデン大統領は、環境問題にも積極的に取り組む姿勢を示しているため、NextGenへの投資に弾みがつくと期待されているところだ。

オンライントラベル

オンライントラベルのリーダーたちは、バイデン政権に旅行に対してもっとオープンで寛容な姿勢を取ってもらいたいと思っている。バイデンは、イスラム諸国からの入国規制の政策を転換させると言われているが、未解決のままの課題も多い。

たとえば、バイデン大統領はビッグテックやより広範な独占禁止法の問題に対して、どれほど厳しい態度を取るのだろうか。

ロイター通信は、司法省と連邦取引委員会を担当する政権移行チームが11月中旬に、穏健派と急進派の両方に電話をかけ、反競争的合併を阻止するための独占禁止法訴訟への取り組みなどを話し合ったと伝えた。

ロイター通信によると、「この話し合いでは、逆さ合併のガイドライン、合併を過去に遡って調査すること、時代遅れの競争法の改正、公正取引委員会(FTC)など連邦執行機関への予算拡大なども議論された」という。

しかし、バイデン政権がこれらの問題に着手するかどうかは不明だ。

インターネット上での言論の自由の基盤となっている通信品位法の第230条が廃止されれば、OTAにとって大打撃になる。この条項によって、ユーザーレビューの投稿が担保されているからだ。

トリップアドバイザーなどが参加する団体インターネット・ワークスは「第230条のメリットを損なう可能性のある複数の立法案が提出されるのを踏まえて、インターネット・ワークスは、競争の削減、消費者の選択の妨げ、効果的なコンテンツモデレーションの取り組みの制限など、法改正によって意図しない結果が出てくることを、政治家に理解させていく」とする声明を出している。

グーグルもまた、「自由なインターネットで世界をリードする米国と米国経済に害を及ぼすもの」と主張して、第230条の廃止に反対している。

それでも、トリップアドバイザーCEOのスティーブ・カウファー氏はバイデン政権に好意的だ。「ワクチンを公平かつ迅速に引き渡らせようとするバイデン政権は、旅行とホスピタリティ業界にとって、非常にいい影響を与える。観光業を成長させ、雇用を取り戻すことに注力するバイデン大統領を支持する」と話している。

Airbnb政策責任者のクリス・レイヘン氏もバイデン政権が旅行業界を支援していくことに期待を表す。具体的には、バイデン政権に、旅行規制の緩和、経済回復に向けた需要喚起策、持続可能な成長と旅行観光を結びつけること、そして公衆衛生上の安全性を高める取り組み強化を期待している。

アメリカン・ソサエティ・オブ・トラベルアドバイザー(ASTA)上級副社長のエベン・ペック氏は、バイデンの追加経済対策案を支持。「それは、ASTAメンバーを支え、米国の旅行業の回復を後押しするもの」と評価。特に、野心的なワクチンプログラム、失業プログラムの延長、旅行代理店を含む中小企業に的を絞った救済に期待を示している。

※ドル円換算は1ドル103円でトラベルボイス編集部が換算

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:How U.S. Travel Policies Change in the Biden-Harris Era

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