ビル・ゲイツ氏の予測「出張半減」に反論、2021年のビジネス渡航が壊滅状態にならない理由を考えた【外電コラム】

新型コロナウイルスのパンデミックでビジネスの進め方は根本的な見直しを余儀なくされたが、なかでも大きく変わったのが出張のあり方だ。マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏は、昨年11月に開催されたイベントでリモートワークやバーチャル会議がすっかり普及したことで、未来永劫、出張需要の50%は戻らないとの見方を示している。

マイクロソフトのオンライン会議ツール「Teams(チームス)」を使えば、顔を合わせて商談しなくても大丈夫、とゲイツ氏は太鼓判を押すのだろうが、彼の悲観的な予測には、以下に挙げる重要なファクターが3つ欠落している。まず、その内容をまとめてみよう。

ビジネストラベルが持つ重要なファクター

1. 業務遂行には、人間どうしのコネクションが不可欠

そもそも我々人間は、他者との関係性を軸に動くようにできており、最先端テクノロジーがあっても、いざという時にビジネスを動かすのはやはり人間関係だ。ゲイツ氏自身もこの一年間、新しい友人やビジネス相手との巡り合いはなかったし、多くの人も同じ状況だろう。

楽しい時間を一緒に過ごしたり、チーム活動を経て知り合った人など、以前からの知り合いとは今も連絡を取り続けている。だが会議や見本市、そのほか様々なネットワーキングイベントが軒並みキャンセルになってしまった結果、新規での取引関係作りは、以前より難しくなっている。

2. 営業分野で軍拡競争が始まる

企業の財務責任者(CFO)にとって、今年の出張や接待経費が減ることは朗報かもしれないが、その一方で、売上は心躍るような数字ではないところが多いのではないか。片方だけの「いいところ取り」はできない。

営業担当は、バーチャルで問題ない、むしろ楽になったと言うかもしれないが、ライバル企業が有望な見込み客を連れてきたら、その時点で勝敗はほぼ決まる。もちろん既存客への追加販売や取引の延長・継続においても、人と人との関係性が大きく左右する。ランチやお茶、ちょっと一杯といった時間を共に過ごすなかで、相手の悩みを知り、それをきっかけにサポート提案するのは、コンサルタントやベンダーにとって珍しいことではない。こうして単発のプロジェクトが長期的な取引関係へと発展していく。

現実には、人間関係が弱いままで、競合他社の牙城に食い込むことは難しい。さらに物理的にその場にいないことは、かなり大きなリスクだ。

3. 「出張したことがない人」がほとんどいなくなる

オフィス出勤が当たり前だった頃、集まってブレインストーミングするのは簡単で、ある時は会議室のテーブル、あるいは休憩室で話すなど色々な機会があった。しかし分散型のワークスタイルが広まったことで、こうしたつながり方は不可能になり、リモートでの共同作業も難航するなか、イノベーションのスピードは鈍化している。

さらに採用活動でも、リモート化に伴い、新入社員の研修や、組織に慣れてもらうことが難しくなっている。だが企業にとって、チームの結束は成長に不可欠だ。

そこで今後、社員が直接、顔を合わせる形で行うチームビルディングやプロジェクトのキック・オフ、どこかに集まっての共同作業といった機会を年に2回、あるいは四半期に一度、設けるところが増え、これまで業務で出張することがなかった人も、こうした場に出かけることになる。

例えば社員の20%ほどが常に出張していて不在、残りの80%はいつも内勤というパターンだった企業でも、今後は社員の半分以上が年に1回か2回は出張するようになるかもしれない。いつも出張していた人だけと見ると、出張機会は減るものの、今までオフィス勤務だった社員が動くようになるため、全体的な業務渡航の規模は、そこまで変わらないだろう。

出張が必要かどうかの判断基準は、今までより確実に厳しくなる。企業には投資対効果(ROI)の見極めも必要だ。それでも売上を増やし、チームの結束を促し、企業風土を守る上で、ビジネストラベルはこれからも絶対に必要だ。

賢明なCFOならば、純損益とコスト削減だけでなく、タレントエクスペリエンスなどの社員育成や組織全体の成長についても考えているだろう。社員が一堂に会することは、お互いへの信頼や人間関係を迅速に作り上げ、目標に向かって一致団結し、チームを活性化し、社員のモチベーションを向上する上で非常に重要だ。そしていずれもイノベーションを生み出すために欠かせない要素だ。

では、ビジネストラベルを巡る状況の変化に備えるために、企業はこれから何を準備し、どのように対応するべきか。その答えは、スマートな出張規定、法遵守のスタンダード、そして漏れのない記録管理にある。

企業がこれから準備・対処すべき3つのポイント

1. 戦略をきちんと立てよう

引き続きリスクは高く、企業側にはコスト管理の問題もあるが、例外なくすべての出張を禁止することは、ライバル企業との競争で不利になる危険性もはらむ。それよりも出張が必要かどうかを判断するプロトコルや、経費をどこまで認めるかについて決めておこう。

また、新規ビジネスだけでなく、チームビルディングや新人研修についても同じ考え方で臨むべきだ。新しく組織に加わったスタッフは現場のやり方を早く知りたいと思っている。だが完全リモートワークでは、同僚との関係作りのために、ひたすらフェイスタイムを繰り返すことになってしまう。

2. インクルーシブな出張規約を考えよう

1日も早く飛行機に乗って出かけたいと、うずうずしている社員も少なくないだろう。だが感染リスクが高い人、学校がオンライン授業になった子供のケアを自宅でしなければならない人、家族に高齢者がいるなど、難しい事情を個人的に抱えている人にとって、現状下では、どんな旅行も安全とは言えず、不可能に近い。

それぞれの事情に配慮し、自宅を離れられない社員が不利にならないような仕組みを考える必要がある。

3. 記録管理と法順守を徹底しよう

困っている人を、さらに窮地に追い込むリスクはあるものの、2021年は“監査“の一年になりそうだ。

昨年はロックダウンにより旅行が不可能になったため、各国政府は、労働者を保護するべく、納税や法問題において非常に寛大に対応した。その結果、多くの国で予算は赤字に傾いてしまった。それなのに、また同じことが続くと期待するのは甘い。企業に対しては、説明責任が求められるようになる。誰がいつ、どこへ出かけたのか、その際の法遵守や、健康・安全対策の実施について、きちんと管理し、把握することが求められている。社員の位置情報をリアルタイムで自動的にトラッキングできる体制を整えることは、社員の安全を守るだけでなく、税や法務問題に適切に対処するためにも有益な解決策だ。

なぜ出張する必要があるのか。その答えは、今も変わらない。仕事を遂行する上で、人間どうしの関係作りは欠かせないからだ。旅行が安全になり、人々が安心して移動できるようになり次第、旅行需要はリバウンドすると期待している。

ただし、再び旅行需要が動き出すことは間違いないものの、その時には今までになかった複雑な問題、リスクを排除し、コストも抑えるという難題が押し寄せてくることも覚悟しよう。企業側は、健全な戦略立案と、テクノロジー活用によるサポート体制をしっかり整えておくべきで、それがライバル他社との競争に勝つためにも役に立つ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Why Bill Gates is wrong and business travel won’t die in 2021

著者:スティーブ・ブラック氏 トピア(Topia)共同創業者兼最高戦略責任者

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