インバウンド消費の最前線、小売3社(セブンイレブン、コメ兵、三越伊勢丹)が語った実態とは?

多言語化AI ソリューションを展開するWovn Technologies社は、インバウンド消費の拡大に向けた施策を考えるイベント「GLOBALIZED by WOVN.io インバウンド 世界は、もっと日本を好きになる」を開催した。交通・小売・宿泊・レジャー・外食・メーカーなど多様な業界が集まり、インバウンド消費の現状や今後の取り組みなどを共有した。

そのうち、小売関連では、「買い物は『体験』を超える─インバウンド消費の未来を拓く小売3社の挑戦─」として、三越伊勢丹ホールディングス経営戦略統括部事業開発部長の額田純嗣氏、セブン-イレブン・ジャパン・オペレーション本部 オペレーションサポート部 オペレーション情報副総括マネジャーの吉村浩司氏、コメ兵オンライン事業部部長の甲斐真司氏が登壇。インバウンド需要の変化に応じた顧客体験の刷新、データドリブンなマーケティング、OMO戦略などについて意見を交わした。

3社のインバウンド売上の現状は?

3社ともに訪日インバウンドによる売上が伸びている。2024年度の三越伊勢丹ホールディングスのインバウンド売上は約1700億円。コロナ前2018年度の2倍以上に伸び、売上総額も13%を占めるほどになったという。国別では、以前は中国が8割で1強だったが、現在では4割ほどに下がり、残り4割がアセアン諸国、2割が欧米豪。額田氏は「リピーターも増えているので、お客様に合わせて我々の仕組みも変えていかなければならない」と話す。

セブン-イレブンでは現在、地域によってインバウンドの売上は大きく異なるが、99%の店舗でインバウンドによる決済履歴があり、吉村氏は「インバウンドが、第三の成長期になるのではないか」と期待を込めた。そのうえで、インバウンドによる消費の特徴を紹介。「たまごサンド」は1年で1.5倍、「チョコっとグミ シャインマスカット」は1年で10倍の売上増加になったことを例に挙げ、「若者起点と同様に、インバウンド起点となった商品は、未来の種になる。今後は国籍別の売れ筋を分析しながら、最適な商品を揃えていくことを考えている」と話した。

中古ブランド品の買取と販売を行うコメ兵は、インバウンド向けにはECサイトでの販売を強化。客単価は約10万円ほどで、このほかに50万円、100万円クラスの商品もよく売れるという。甲斐氏によると、ECサイトから店舗に取り寄せ、実際に商品を見てもらってから購入を決めてもらうサービスにも力を入れているという。また、渋谷、表参道、心斎橋ではインバウンドに特化した店舗を展開している。

インバウンドへの注力具合は?

インバウンド売上が伸びるなか、3社のビジネス全体の中におけるインバウンドへの注力はどの程度か。

三越伊勢丹の額田氏は「やはり営業利益を、どれだけ稼げるかが論点。お客様の国、店舗、売り場にブレイクダウンして、どれだけ資本を投下すると効果があるのかを見ながら取り組んでいる」と明かした。

セブン-イレブンの吉村氏は「インバウンド対応には戦略的に大きなエネルギーを投じている」と明かす。そのうえで、「インバウンドは日本人の消費行動を活性化させる起爆剤となり得る。今後の国内市場を見据えたとき、戦略的な対応が必要になってくるだろう」と話した。

コメ兵では免税の比率が3~4割になるため、そもそも無視できない状況。日本の中古品(ユーズド・イン・ジャパン)は偽物がなく、状態も良いことから、それを目当てに来店するインバウンドが多いという。そのなかで、甲斐氏は「日本の人口が減っているなか、新しい顧客を捕まえる意味でも、インバウンドを積極的に獲得していく必要がある」と強調した。

インバウンド消費を上げるために必要なこととは?

3氏は、インバウンド消費を上げるための取り組みについても意見交換をおこなった。

まず、三越伊勢丹の額田氏は「顧客の識別化」を挙げた。同社のエムアイ・カードやアプリのデータから顧客を識別し、「お客様に対してパーソナルな対応を行っていく」と話し、三越が350年前から続けている「外商」の文化をインバウンドにも取り入れていることを紹介した。

コメ兵の甲斐氏は、現在の顧客層について、中国の約38%、米国の14.5%、年代では30代と40代がボリュームゾーンであることを紹介したうえで、中国語圏ではWeChat、英語圏ではWhatsAppでコミュニケーションを取っていると紹介。日本滞在中にも情報を提供し、店舗への誘導も試みているという。また、SNSではInstagramやRED(小紅書)も積極的に活用し、情報発信をしている。

セブン-イレブンの吉村氏は、「ニーズの平均値ではなく、『外れ値』をどれだけ細かく見ることができるかが非常に重要」と話し、事例を挙げた。日本独特のスパイスである「わさび」は、通常、商品棚の見つけにくい場所に陳列されていることが多い。しかし、九州エリアでは、韓国人旅行者が日本の伝統食としてお土産で購入するケースが増えてきた。この実例を大阪の店舗で参考にし、商品陳列の場所や見せ方を工夫すると、販売個数が大幅に伸びたという。

また、日本人に対するアイスクリームの販売ピークは夏場だが、インバウンドの間では冬場にもよく売れる傾向などがあることを紹介。吉村氏は「『コンビニは、こうゆうものだ』だという固定観念を取り払うことも重要」と話した。

このほか、インバウンド対応について、三越伊勢丹の額田氏は、「お客様対応が、日本人でもインバウンドでもフラットになった」と話す。デジタルツールなどを使い言語の壁を超えて、いろいろな提案ができるようになったとし、「(インバウンドに対する)メンタルブロックが取れたのは、我々の業界では非常に大きい」と続けた。

インバウンド市場はどんどん広がる

今後の展望はどうか。三越伊勢丹の額田氏は「いいサービスを提供すれば、リピーターが増えて、消費も増えていく。同時に、我々のサービスレベルやクオリティも上がっていく。10年後、20年後、日本の提供価値がもっと上がって、GDPにも貢献できると思う」と展望した。

セブン-イレブンの吉村氏は、「業態の垣根を超えて、インバウンド市場に全員で向かっていけば、市場はどんどん広がる」と期待。コメ兵の甲斐氏は、「フィジカル、デジタル、どのような手段でもいいので、海外のお客様と繋がって、CRMを回して行きたい」と抱負を語った。

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