AI時代のBtoB旅行流通を再設計、マーケティング激変の今、真っ先にすべきことをディーダCEOに聞いてきた

中国・深圳で2012年に創業したディーダ(Dida)社。スタートアップ時代を経て、AIツールを駆使した流通とサプライヤーをマッチングするグローバルなB2B旅行テック・グループへと成長を続けている。このほど来日した同社のダリル・リーGroup CEO(最高経営責任者)に、AIエージェント時代に最適化する上で欠かせないホテルのオンライン・マーケティング戦略と日本市場でのプレゼンス拡大について聞いた。

昨秋、CEOに就任したシンガポール出身のダリル・リー氏は、これまでWebBedsのグローバルCEO、GTA(ガリバーズ・トラベル)の中東・アジア太平洋地域統括責任者などの要職を歴任してきた。旅行・ホスピタリティ業界のB2B流通に長く携わるなかで、その構造的な複雑さが課題の一つだと感じていた。

「ホテルの数も、旅行事業者の数も膨大なので、オープンソースの標準システムやプロセスが出来にくい。ホテル側のシステムは多様で、OTAや流通各社と接続するチャネルマネージャーも乱立している。こうした“分断”が、結果として旅行者体験の質にも影響している」とリー氏。「この状況を、効率的に解消できるのがAI、特に大規模言語モデル(LLM)になる」との見方を示した。ディーダがAIテクノロジーに大きく投資している理由でもある。

ディーダのビジネスモデルは、「流通」と「サプライヤー」、具体的には、世界各地のOTA、法人旅行会社、旅行販売代理店、ツアーオペレーター、ホールセーラーなどと、ホテル、航空会社、観光ツアー、アトラクション施設、交通サービスなどをつなぎ、マッチングすることだ。

特に、ここ数年は、AIを活用することで、「既存のシステムやプロセスの混沌とした状態をシンプルに分かりやすくし、非効率を減らすこと。できる限り、多くのプレイヤーがつながりやすくなる技術開発に力を入れている」と語り、業界全体の効率化、最適化を目指す構想を示した。 

「旅行ビジネスに必要な商品からソリューションまで、すべてがワンストップで揃うエコシステムの構築を目指している」(リー氏)。

AIエージェント普及で激変するホテル・マーケティング

リー氏は、最も革命的な変化として、「パーソナライズに非常に適したAIエージェントの登場」を挙げる。

検索エンジンとの大きな違いは、繰り返し使うことで、ユーザーの属性や嗜好を学習していく点。同氏も毎日、ジムでの運動メニューから仕事、レストラン選定まで、あらゆる場面でChatGPTを相談相手にしている。「私のChatGPTは、今や、私以上に私のことをよく知っているかもしれない」と笑う。

旅行のプランニングでも、AIエージェントが意思決定に深く関わるようになるのは必至で、「オンライン・マーケティング戦略の再構築が急務だ」とリー氏は断言する。AIの浸透が早い中国市場では、AI検索エンジンの利用者数が急拡大しており、バイドゥ(百度)などの検索エンジンを上まわるトラフィックの入り口になっているという。

観光産業において、こうした影響を真っ先に受ける領域の一つはホテルで、旅行者は、AIエージェントを使ってオンライン上の情報を瞬時に横断し、意思決定するようになる―。こうした予測のもと、ディーダではここ数年、ホテルなどサプライヤー向けのAIツール群の開発に力を入れてきた。

では、AIエージェント時代への最適化に向けて、どこから手を付けるべきか?リー氏は、まず第一歩として「オンライン上で自社について語られていること、ソーシャルメディアでの言及などを把握することが重要になる」と話す。こうした作業をこなす同社のAIツールが「ヘルスチェック」だ。

例えば、ホテル名を入力すると、自動的にオンライン上でのホテルに関する言及内容などを検索し、診断結果として、複数項目を可視化する。チェック対象がテキスト情報だけなら、所要時間は数分。動画も含めてチェックする場合は、通常、1時間ほど。2回目以降は、更新部分だけを対象にチェックするので、所要時間はさらに短縮される。定期的に「ヘルスチェック」をかけているホテルでは、所要時間はどんどん短くなるという。

「必要な情報をオンライン上で提供できているか、間違った情報が拡散されていないかなどをチェックする“健康診断”が、AIを活用することで、より手軽に、頻繁に実施できる」とリー氏は説明する。ヘルスチェック結果をもとに、好評だったことはマーケティングに活用したり、プロダクトやオペレーションについて不評な点は改善してアピールしたり。誤解があれば訂正するなどの対策を打ち、その成果もまたチェックできる。

また、オンライン・マーケティングに欠かせないPR動画などのコンテンツを生成AIが自動作成する「AIGCマーケティングツール(AI Generated Content)」も提供している。かつては撮影クルーから脚本まで、多くの作業工程が必要だったが、このツールを使う場合、「画像」と「大枠のスクリプト」を用意すれば、10分ほどで動画が完成。画像やポスターなども作成できる。

例えば、「ターゲット客層は子連れのファミリー旅行者。ソーシャルメディア用に“かわいい“動画を作成して」といった指示を出すと、15分ほどで、ホテルの画像とアニメーションを組み合わせ、AIが生成したキャラクターまで登場する数十秒のPR動画が完成するという具合だ。


2026年は、こうしたディーダのAIツール群の展開先を、日本を含む世界の主要市場へさらに拡大したい考えだ。現在、同社ビジネスの7割以上は、中国以外のマーケットが占めているが、「すべて自前でグローバル展開するのではなく、言語や旅行ビジネスモデルなど、それぞれの市場特性を考え、我々が得意なこと、そうでないことと照らし合わせつつ、ベストなパートナーと組むことで成長してきた」(リーCEO)。

訪日インバウンドに続き、日本発海外旅行も

日本市場については、訪日インバウンド旅行を手掛ける大栄トラベル東京と戦略的パートナーシップを結び、国内ホテルとの契約を拡大してきた。目下、中国からの訪日旅行は逆風下にあるが、「韓国、東南アジア、中東からの訪日需要はますます増えている。為替の影響もあり、欧州発の訪日需要も好調」(同氏)という。

訪日リピーターが増えるなか、ゴールデンルートだけでなく、地方各地のデスティネーション・マーケティング組織や観光事業者向けにも、ディーダのB2BネットワークとAIツールを活用してできることを提案していきたい考えだ。

一方、日本発アウトバウンド旅行市場の攻略では、戦略的パートナーと組むことが得策との考えを示した。「日本の海外旅行市場はすでに長い歴史があり、旅行者は洗練されている。これを大きく変えるというより、ディーダに価値を見出してくれるパートナーと一緒に、海外旅行ビジネスの成長を支えたい」(リー氏)。

円安の影響で、選ばれる海外旅行先に変化が見られることにも言及し、「日本の旅行者が、新しい旅先で自分に合ったホテルを見つけること」、あるいは海外ホテルが日本人旅行者に「見つけてもらう」ためのサポートにも意欲を示した。 

ダリル・リーGroup CEO

需給マッチングの精度アップに欠かせないもの

今年度の目標は「何よりも、パートナーである旅行・ホスピタリティ事業者のニーズを理解し、役に立つサポートを提供すること」とリー氏は話す。

そのカギとなるのが、データ収集力の強化だ。自社プラットフォーム内の旅行関連データはもちろん、これに加えて、天候から人気スターのコンサート日程まで、可能な限り、多くの情報を集めて需給動向を予測し、流通とサプライヤーのマッチング精度向上に役立てている。

「AIをより優位に活用するためには、膨大なデータが必要だ。データが増えると、得られるインサイトも充実し、需給の双方に対し、より良いサポートが提供できる。売り手と買い手を単に仲介するだけではなく、様々な付加価値を加えられることが、我々の強み」とリー氏は自信を示した。

ディーダが描くのは、旅行流通の取引基盤の中核にAIを組み込み、需給の最適化と情報連携を進めることで、分断された旅をなめらかにつなぐ未来像だ。旅行会社とホテルなどのサプライヤー、双方の業務効率と販売力を押し上げる「裏側のファシリテーター」として、どこまで存在感を高められるかが問われている。

聞き手:トラベルボイス代表 鶴本浩司

記事:谷山明子

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