コロナ禍後の海外旅行市場が伸び悩む中、かつて旅行業界の「花形」だった海外パッケージツアーのあり方が改めて問われている。日本旅行業協会(JATA)がオンライン配信で実施した「JATA経営フォーラム2026」の分科会「海外旅行」では、今後、海外パッケージツアーの目指すべき姿について議論が交わされた。
冒頭、モデレーターを務めたトラベルボイスの鶴本浩司代表は、海外旅行者数が最多となった2019年に対し、コロナ禍後は7割程度で推移しているとして、回復の遅れを指摘。「学術、デスティネーション、旅行会社の3つの視点から、海外旅行需要を牽引したパッケージツアーの変遷を振り返り、今後の打ち手について考えたい」と述べ、議論がスタートした。
登壇者
- 愛知淑徳大学 交流文化学部教授 野口洋平氏
- タイ国政府観光庁 東京事務所マーケティングマネージャー 藤村喜章氏
- JTB ツーリズム事業本部 国内海外政策担当部長 川原政彦氏
- トラベルボイス株式会社 代表取締役社長 鶴本 浩司(モデレーター)
効率重視の「モジュール型」から価値創造の「インテグラル型」へ
学術的視点を提供した愛知淑徳大学の野口氏は、海外パッケージツアーが1980年代後半に薄利多売・標準化、1990年代後半に二極化が進んだ変遷を振り返った。その流れを工業製品の枠組みになぞり、素材を単純に組み合わせた「モジュール型」、素材のすり合わせを考える「インテグラル型」に分類。「今はモジュール型が主流だが、プロが高度な知識で作り込むインテグラル型へ回帰すべき」と提言し、具体例として美術館の貸切見学など旅行業者しかできないサービスを組み込むことを示した。
愛知淑徳大学の野口氏デスティネーションからの視点を提供したタイ国政府観光庁の藤村氏は「2000年代以降のタイのパッケージツアーはバンコク中心の安価なスケルトンタイプが主流だったが、コロナ禍後は航空座席の供給減などにより『高価なもの』へ変化した」と指摘。日本のタイ旅行者はリピーターが4分の3以上を占めるが、常に存在する「初めて」の層のニーズを深掘りすることが、今後のパッケージツアーを考える上で重要ではないかと述べた。
旅行会社の視点を提供したJTBの川原氏は、消費者が自ら情報を収集できるようになったことで海外パッケージツアーの主導権は旅行会社から旅行者に移り、「かつては企画力・安心感が重視されたが、現代の旅行会社に求められる役割は、消費者の望む旅行をストレスなく手配・体験できること」との見解を示した。
若年層の固定観念を払拭、確実に存在する潜在需要を掘り起こす
野口氏は大学の学生たちが海外パッケージツアーに対し「クールでなく、コスパが悪い」というイメージを抱いていると指摘。一方、新婚旅行の4割以上が海外パッケージツアーを利用し、10〜20代が最も旅行会社の店舗を利用しているというデータを示し、「若い世代にパッケージツアーの本当の魅力を伝えることが重要ではないか」と提言した。
「本当の魅力」について、野口氏はカウンターで食べる「回らない寿司」に例え、単に寿司を食べるだけでなく複合的な要素を高度に組み合わせた戦略が支持されるとの考えを示した。
藤村氏は「コロナ禍以降、ウェルネスツーリズムなどに関心が高まっている」として、これらをテーマにした企画商品や、バンコク以外の地方都市など、個人では手配が難しいエリアの商品化も可能性があるとみている。また、タイで欧米の旅行客向けに展開されている「フライ&ドライブ」の商品例を挙げ、グローバルに事業を展開するツアーオペレーターとの協業による新しい視点を取り込んだ商品企画の可能性についても言及した。
タイ国政府観光庁の藤村氏
川原氏は旅行に求められる専門性のキーワードとして「デジタル連携」と「パーソナライズ」を挙げた。SNSやAIを活用した旅行想起や情報収集、顧客と旅行会社との旅程の共同編集などの具体例を提示。「顧客のライフイベントに合わせた旅行提案を行ったり、個別の旅程や属性に合わせて旅行中に追加提案を行うなど、タビマエやタビナカも継続して価値提供を行うことで生涯顧客化が可能になるのでは」と提言し、議論が締めくくった。
JTBの川原氏



