宿泊主体型ホテルの勝ち筋とは? 運営基盤の統一、ブランド差別化、AI活用の議論を取材した

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このほど開催された「HOTERES EXPO東京 2026」で「宿泊主体型ホテルの未来 高効率時代の勝ち筋を探る」と題したセッションがおこなわれた。インバウンド需要の増加に伴う単価上昇の裏側で、ホテル運営企業が直面する人手不足、DXの遅れ、画一化を避けるためのブランド価値構築やES(従業員満足度)の重要性について、現場のリアルな知見が交わされた。

パネリストとして、ポラリス・ホールディングス取締役COOの下嶋一義氏と、Koko Global Hospitality (Thailand) Co., Ltd.創設者兼CEOの松田励氏が登壇。モデレーターはJTB総合研究所の主席研究員・栗林照暢氏および共同ファシリテーターとしてHOTERESデーターセンター長の林田研二氏が進行をおこなった。その内容をレポートする。

日本ブランドであることの強み

セッションの冒頭、JTB総合研究所の栗林氏は近年の市場トレンドを解説した。

東京や大阪におけるホテルの平均客室単価(ADR)は、2019年比で20~45%上昇。主要都市の客室1室あたりの売上(RevPAR)は、25~50%上昇しているものの、客室稼働率自体は70~85%で2019年とほぼ変化がないというデータを提示し、「現在の国内市場は、純粋な単価上昇がマーケットを強く牽引している」と分析。また、供給サイドについては、「注目すべきところは、ライフスタイル系が伸びているところ」と指摘した。

JTB総合研究所の栗林氏が最新データを紹介

そのうえで、パネリストの両社がそれぞれのホテルの強みを紹介した。

まず、ポラリス・ホールディングスの下嶋氏は「日本のホテルが誇る清潔さやオペレーション精度、きめ細やかなサービス水準は、海外の競合ホテルと比較しても圧倒的な競争優位にある。これがインバウンドの圧倒的なリピート率を支えている」と説明した。また、注目する海外市場として、中間所得層が急速に拡大しているタイ、ベトナム、インドネシアの3カ国を挙げた。

一方、2015年にタイで創業し、現在はタイで32軒、フィリピンや日本を含めてホテル運営を展開するKoko Global Hospitalityの松田氏は、海外市場における「日本人」というアセットの価値を強調。「東南アジアでは『日本人の企業』という事実自体が、オーナーや従業員にとって非常に強いブランド力や信頼関係として機能する。また、日本での運営経験や、厳しい視点に耐えうるオペレーション品質を海外市場に持ち込むこと自体が、強力な武器になる」と指摘した。

オペレーションプラットフォームの統一とブランドの確立

ホテル規模の拡大期において、両氏が最重要課題として挙げたのが「オペレーションプラットフォームの統一」と「ブランドアイデンティティの確立」だ。

ポラリスでは、2024年12月に完全子会社化したミナシア(旧ホテルウィングインターナショナル)の全店舗を、自社主力の「KOKO HOTEL」へと順次リブランドを進めてきた。そのなかで、課題となったのが、ブランドごとに使用しているPMS(宿泊管理システム)やブッキングエンジン、サイトコントローラーの違いと指摘した。下嶋氏は、「まず、おこなうべきは、統一された運営プラットフォームの構築。データを同一フォーマットで整理できて初めて、将来的なAIの読み込みや高度なデータ分析が可能になる」と説明した。

一方で、オペレーションの効率化は、サービスや設備の均一化や競合とのコモディティ化に陥るリスクもある。これに対して、ポラリスでは「Feel the Local」を掲げ、グループ内のオペレーション自体は共通化しつつも、地域ごとの個性をホテル内で表現する「五感に訴える地域連携で差別化を図っている」と強調した。

松田氏も「オーナーの投資を最小限に抑えながら、いかにゲストから見て統一感のあるブランドを作るかが永遠のテーマ」としたうえで、「店舗規模が異なっても共通のトーンがあるスターバックスを一番の手本にしている」と明かした。

また、Koko Global Hospitalityでは、アメニティやグッズを、滞在中にすべて「購入可能」にする体験価値のマネタイズに注力しているという。

ポラリスのPMS選択の背景

ポラリスは、PMSの刷新において、自社でホテル運営も手がけるSQUEEZE(スクイーズ)社のクラウドPMS「suitebook(スイートブック)」を導入した。下嶋氏は「選定にあたっては、役員だけでなく、支配人や本社のオペレーションメンバー、現場のスタッフを巻き込んだ選定チームを組成し、『現場が求めるオペレーションに合致しているか』というボトムアップの手順を踏んだ」と説明した。

そのうえで、最終的にsuitebookを選んだ最大の理由として、「SQUEEZEが自らホテルを運営しているところ」を挙げた。また、「使いやすさ」や「教育コストと時間の削減」などに加えて、経営者視点からは、データ抽出が容易な「API連携の柔軟性」も導入の決め手になったと明かした。

一方、松田氏は業務効率化の取り組みとして、自社の流通センターをバンコクに構築したことを挙げた。また、フィリピンではオフショア運営を実施。人事、会計、IT、セールス&マーケティングなどを本社で行うセントラルオペレーションを実施していると明かし、「それを他の国でも広げていきたい」と意欲を示した。

ポラリス下嶋氏(左)とKoko Global Hospitality松田氏がそれぞれの知見を共有

ES(従業員満足)なくしてCS(顧客満足)なし

人手不足の時代において、ESの向上は事業継続の生命線だ。下嶋氏は、社員からの「Feel the Local」の提案に対して月間MVPを表彰していることを紹介。「各店舗で出したアイデアをしっかりと会社として、認識して、形にして、褒めることが大事」と話した。

松田氏は、「社長から管理職、管理職から従業員への接し方が、当然従業員からゲストへの接し方につながっていく」との考えを示した。また、同社では、本社幹部を集めた2泊3日の合宿で、手書きの「感謝カード」をお互いに送り合う取り組みを実施。単純に紙だけでなく、口頭でもお互いに感謝を伝え合うことで、「参加者が涙を流すほど」のエンゲージメントが生まれたという。

セッションの最後に、JTB総研の栗林氏から「付加価値提供型のDXにおいて、今後どのような領域でAIやデジタルを活用していくべきか」という問いが投げかけられた。

それに対して、下嶋氏は、現在のオペレーションをそのままデジタルに置き換えるのではなく、客室の設計などを例に「AIが存在する未来の前提から、今のオペレーションを逆算して作り直す必要がある」と指摘した。

また、これからAIによる旅行検索がますます増加していくなかで、「ホテルの自社サイトやクチコミの中に、周辺の観光地やアクティビティとの物理的な距離感や利便性に関する具体的なテキスト情報をあらかじめ豊富に組み込んでおくことが、AI検索エンジンに見つけてもらうための極めて重要」と話した。

松田氏は、自社で草の根的に選抜したスタッフとともに、最新AIを活用した業務効率化ツールの内製化に取り組んでいると紹介。「特にマーケティングやレベニューマネジメントの分野では、人間が思考するよりもAIを活用した分析・戦略構築の方が優れている領域が出始めている」とした一方で、「既存のSaaSツール全てが自作AIに置き換わるわけではない。PMSのデータを自社仕様のAIで分析するなど、既存のSaaSと自社AIのハイブリッドの関係がしばらく続くだろう」と見通した。

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