日本政府観光局(JNTO)は、世界26都市の海外事務所から各市場の最新動向を提供する「第29回JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」を開催した。フォーラムでは、「ガストロノミーツーリズム」の振興についてパネルディスカッションも実施。JNTOの最新の取り組みの紹介とともに、有識者が地域の食文化をどのようにインバウンド誘客や地域経済の活性化に結びつけるのかについて議論を深めた。
順調に回復・拡大を続ける訪日インバウンド市場において、強力な訪日動機の一つとして注目されている日本の食。単なる豪華な美食にとどまらず、全国各地の気候風土に根付いた「食文化そのもの」が世界から高く評価されている。
日本の多様な食文化を世界へ、JNTOが展開する4つのアクション
JNTO市場横断プロモーション部次長の名取克氏は、JNTOが展開する4つのアクションを説明した。2026年度、各地域が誇る日本の多様な食文化を表現するプロモーション活動を通じて、地域経済の活性化と食文化の継承を目指している。
まず、観光庁のガストロノミーツーリズム推進事業対象地域から3地域を選定し、地元関係者と食文化のストーリー策定に向けたブレインストーミングを実施する。初年度となる今年度は、アイヌのガストロノミーを推進する北海道平取町、日本初のユネスコ食文化創造都市である山形県鶴岡市、日本酒や調味料などの発酵文化が根付く奈良県奈良市でおこなわれた。
2つ目として、さまざまな地元関係者を集め、ストーリーの精緻化と当事者意識の醸成を図る。
3つ目として、欧州のジャーナリストの視点を取り入れ、外国人が感じる日本の食文化の魅力を表現した短編映像を制作・世界配信する。
4つ目として、JNTOサイト内に特設ページを設け、デジタルプロモーションを展開していく。
名取氏は、ガストロノミーツーリズムについて、「北海道から沖縄まで、さまざまな地域が誇る食が存在する。観光庁や JNTOが推進している地方誘客に資する重要テーマとして、極めて効果的な施策」と位置付けた。
ガストロノミーツーリズムの本質とは?
ガストロノミーツーリズムを推進するうえで欠かせないのが「ストーリー設計」だ。登壇した専門家たちは、それぞれの視点から食を通じた価値創造について語った。
ガストロノミーツーリズム研究所代表の杉山尚美氏は、「食は歴史、地理、芸術、科学などあらゆるものに繋がっている。単に美味しい郷土料理を提供するだけでなく、その土地の気候風土が生んだ歴史的・地理的要因をストーリーとして伝えることが重要だ」と指摘。日本の食文化を再発掘し、体験へと繋げていく必要性を説いた。
ガストロノミーツーリズム研究所代表の杉山氏
また、香川大学特命教授の長谷川修一氏は、大地の成り立ちから食を味わう「ジオ・ガストロノミーツーリズム」を提唱。例えば、讃岐うどんの材料(小麦、水、塩など)が、その土地の地形や土壌とどのように関わっているのかを深掘りすることで、大地の物語を創造できるとした。
PLUM KNOT Innovation Kitchen 8go代表取締役の野田達也氏は、「調和と循環」をテーマに、食と異分野の掛け合わせによる新たな価値創出を紹介。キャビア採取後のチョウザメや害獣駆除されたエゾシカ、調理の過程で生じる端材を活用した「ゴミのスープ」など、社会課題や環境問題を体験デザインに組み込む新しいツーリズムのあり方を提示した。
(左)香川大学特命教授の長谷川氏とPLUM KNOT Innovation Kitchen 8goの野田氏
ストーリー設計と体験価値の創造事例
具体的なストーリー設計の成功例として、杉山氏は山梨県笛吹市での農泊事業者の取り組みを紹介した。笛吹市が扇状地であり、フルーツ栽培に適しているという地形の物語を朝食の場で表現。桃を使ったサラダや地元産ジャムを提供し、桃や梨の木で作られた器を使用することで、宿泊客の共感を呼び、お土産やECサイトでの購入といった「食の循環」が生まれ始めているという。
一方、野田氏はスペイン・ビルバオ近郊の町と東京を繋いだ事例を紹介。かつて鉄産業で栄えたスペインの町で鉄加工を受け継ぐ料理人が来日し、日本の伝統的な鉄づくり(たたら吹き)や包丁打ちを体験。お互いの「鉄と食」の文化を交換し、レストランでの食体験に落とし込むことで、唯一無二の価値を生み出した。野田氏は「観光地化された場所ではなく、そこにある既存の営みの中に入り込む体験が、今大きな価値に変わる転換期にある」と強調した。
課題は地域の再発掘、ステークホルダーの巻き込み
今後の課題について、長谷川氏は「地域で当たり前と思っていることが、よそから見ると当たり前ではない。大地の成り立ちまで深掘りして新たなストーリーを作ることが鍵になる」と語った。野田氏も「新しいものを作らなくても、背景を深く知りシェアするだけで目の前の価値は変わる」と同意する。
最後に杉山氏は、持続可能な地域の経済発展には「地域事業者の巻き込み」が不可欠であると指摘した。「地域住民自身が地元の資源を知らないことも多い。料理人や生産者などをしっかり巻き込んで形作っていかなければならない。日本には地域ごとに『本物』が根付いており、日本こそ唯一無二のガストロノミーツーリズム国家になれるはずだ」と締めくくり、地域主導による食文化発信への期待感を示した。




