JTB新社長が描く成長戦略を聞いてきた、グローバル体制の再編から「日本」の位置づけ、訪日事業の3本柱まで

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JTBグループは2026年1月、長期ビジョン 「OPEN FRONTIER 2035」 を発表した。2035年の世界を「交流が人々の豊かさ(Well-being)の拠りどころとなる社会」と見据え、新交流時代のフロンティア企業を目指す。そして、2035年度までに取扱額2兆5000億円、売上総利益5000億円、営業利益750億円(のれん償却前)という目標を打ち出した。

その背景には、かねてより提唱してきた交流創造事業を通じて観光産業の新たな方向性を示し、その変革につなげようとの考えがある。なかでも、2035年度までにグローバル利益比率を50%へ引き上げる目標は、不確実性が高まる世界で日本のサービス品質やホスピタリティを世界基準の価値として再定義し、持続的な成長につなげるものだ。

2025年末までJTB Americasの社長として、北米・南米・ハワイ市場のかじ取りを担い、2026年1月からは長期ビジョンの戦略推進を担う常務を務めてきた青海友氏が、6月30日付で代表取締役社長執行役員に就任した。青海氏が、その経験を糧にビジョンを具体的な事業へと落とし込むにあたり、今後、何を優先し、JTBグループの事業をどう組み替えていくのか。今後の打ち手を聞いてきた。

組織の枠を超え、事業を機動的に組み換え

青海氏が経営の実行段階で重視するのは、事業と投資の優先順位を明確にすることだ。従来の組織区分にとらわれず、旅行販売やミーティング&イベント、BPOなど、各事業の状況や成長性を個別に見極める。

「組織や戦略など、社内にいろいろな枠組みがあると、一つひとつの事業がよく見えなくなる。事業をダイレクトに見たうえで、お客様の課題に応じてダイナミックに組み替え、フレキシブルにソリューションを組み合わせていきたい」と語る。

この考えのもと、グローバルビジネスでは、現在の体制を再編し、リージョンを横断する戦略分野を選定する考えだ。

これまで国外拠点が展開する事業を「グローバル」としてきた定義を見直し、日本も一つのリージョンとして位置づける。そして、日本、米国、欧州など、それぞれの拠点が連携し、横串で展開する事業を選定して、グローバル横断型のビジネスを構築する。各地域の強みを持ち寄り、グローバルで連携して事業を推進することで、DMCをはじめとする注力分野で世界トップ企業を目指す。

顧客の課題は、一つの事業やサービスだけで解決できるとは限らない。例えば、旅行販売とイベント、地域開発、法人向けソリューションなど、従来、異なる事業領域として運営してきた機能を組み合わせる必要がある場合もある。案件に応じて組み合わせる事業や関与する部門を変え、ときには複数の事業が一体となって対応する必要もある。青海氏は、社内の枠組みで区切られたサービスを顧客に提供するのではなく、顧客の課題を起点に、事業がつながりやすい枠組みにする考えだ。

重視するグローバル6ビジネス、投資は機動的に

グローバル事業では、ランドオペレーター、シート・イン・コーチ(乗合型の周遊バスツアー)、企業イベント、ビジネストラベル、ツーリズムインテリジェンス、スポーツホスピタリティの6分野を重点領域とする。

このなかで、青海氏が重点領域の一例としてあげるのがスポーツホスピタリティだ。青海氏は、JTB Americas社長として米州事業を統括した経験から、人が集まり、時間を共有すること自体が大きな事業価値を生むことを実感した。

JTBはMLBのオフィシャルパートナーであり、2027年のラグビーワールドカップでも国内唯一の公式販売権を取得している。これまで築いてきたIPライツ(知的財産権)を通じた競争力をいかし、第3国間における展開も視野に入れながら、グローバルネットワークの相乗効果を最大化していく構えだ。

そして、スポーツで蓄積した経験は、さらにエンターテインメントや伝統文化にも展開できる。青海氏は「観戦に新たな体験価値を加えることで、顧客満足を高めるとともに、主催者にも還元できる収益領域を広げられる。野球で蓄積したモデルをラグビーやサッカーへ展開し、さらにエンターテインメントや伝統文化にも広げていく余地は大きい」と展望する。

MICEを含む企業イベントも、青海氏が米国で可能性を実感した分野だ。国土が広く、社員が各地に分散する米国では、一堂に会するイベントの意味や投資規模が大きい。2026年、JTB Americas傘下のMC&Aはイベント制作会社Imprint Events Groupを買収した。MC&Aの運営力とImprintのクリエイティブ主導の企画力を組み合わせ、北米のミーティング&イベント事業を強化している。そこで得た経験は、グローバルで企業イベント事業を拡大するうえでの強みとなる。

また、ビジネストラベルでは、これまで日本と海外で分かれていた戦略を一本化し、グローバル企業の案件獲得を強化する。日本企業の海外出張についても、世界各地で一貫したサービスを提供できる体制を整える。

このほか、各国の目的地側で旅行素材を仕入れ、旅行会社に提供するランドオペレーター事業、乗合型バスで各地をめぐる着地型モデルのシート・イン・コーチでは世界展開を加速する考えだ。

ツーリズムインテリジェンスでは、傘下のノーススター・トラベル・グループが持つ情報、人脈、ブランドを活用する。同社がメディアやイベント、関連組織を通じて事業化してきたモデルを、世界各地へ展開する。

重点事業を伸ばすための投資対象には、人材、AI、M&A、既存システムの更新、不動産などを挙げる。ただし、優先順位は固定せず、事業の進捗や市場環境に応じて機動的に判断する。

2026年6月30日付で代表取締役社長執行役員に就任した青海社長

訪日インバウンド拡大へ3本柱、「仕入れ機能の事業化」への構想

長期ビジョンの実行に向けては「(発表時に)グローバル事業に注力するというメッセージが強く聞こえたかもしれないが、日本国内の事業も同時に強化する。両方に注力していく方針だ」と強調する。

国内では、個人旅行事業のマーケティングを高度化し、顧客理解や販売の精度を高める。また、全国の地域や観光事業者とのネットワークを生かし、地域で造成した体験やサービスを国内外の市場へ届ける力も強化する。

さらに、青海氏は日本国内の事業で新たな成長に目指す構想の一つとして、訪日事業における「仕入れ機能の事業化」をあげた。

JTBは北海道から沖縄まで、ホテルや旅館を中心とする多くの観光事業者と強固な関係を築き、客室や商品を仕入れる仕組みを培ってきた。青海氏は「これは114年かけて培ってきた極めて重要な関係性だ。簡単に作れるものではなく、訪日客が増えるなかで、非常に大きな強みになる」と語る。

これまでの仕入れ機能は、主にJTBの旅行商品を造成・販売するために使われてきた。一部の旅行会社やオンライン旅行会社には、JTBが仕入れた在庫を提供しているものの、基本的には自社事業を支える社内機能だった。その機能を自社内に閉じず、世界の旅行会社に宿泊在庫や体験素材を供給する事業へと転換する。

青海氏は「旅行会社への卸売りとなるBtoBを中心に、オンラインを通じて海外の旅行者に直接販売するBtoBtoCも想定している」と明かす。

世界でランドオペレーターやDMCが担っている、目的地側で宿泊や体験素材を仕入れ、旅行会社に卸す事業に近い。JTBは全国の宿泊施設との仕入れ網に加え、地域と連携した体験開発や、海外の旅行会社とのネットワークを持つ。これらを接続し、日本の旅行素材を世界へ流通させるという。青海氏は「これまでは、当社の機能をシェアするという話だった。今後は、機能ではなくビジネスだと捉え直す」と強調。2027年からの本格化を目指している。 

訪日事業では、この仕入れ機能の事業化のほか、JTBグローバルマーケティング&トラベル(GMT)の強化、アジア大手のDMC「EXO Travel Group」のグループ化による効果創出を3本柱とする。

青海氏は「軸の違う3つの取り組みだが、GMTと仕入れ強化、EXOと仕入れ強化はシナジーが期待できる」と見ている。

具体的には、海外各国で訪日旅行を販売する旅行会社のネットワークと、日本各地の自治体や観光事業者と開発してきた体験コンテンツを結びつける。例えば、地域で造成した希少な体験を米国の富裕層に販売する場合、現地のどの旅行会社を通じて商品化し、どのように情報を発信するかまで、一体で設計する。これまで別々に活用してきた国内の地域ネットワークと海外の販売網をつなぎ、地域の観光コンテンツを具体的な海外市場へ届ける考えだ。

青海氏は「グローバルの販売網と、国内各地域で培ってきたネットワークの両方を強化し、掛け合わせることができれば、大きな差別化になる」と語った。 

価値提供を支える現場力、目指す「躍動する会社」

山北栄二郎会長からは、長期ビジョンに込められた思いに加え、「お客様、グローバル、未来」を起点に考える姿勢と、現場の細部まで見る経営姿勢を受け継ぐ。

社内に向けては「外向き、前向き、シンプル」を掲げる。本社の社員も社内ではなく市場や顧客に目を向け、逆風下でも前へ進む方法を考える。長い歴史のなかで複雑になった組織や仕組みを整理し、若手社員や新たに本社へ配属された社員が、のびのびと仕事ができる環境を整える。

そのうえで、青海氏が目指すのは「躍動し続ける会社」だ。「マーケットのなかで躍動しながら、お客様にとっての価値を探し、捉えていく。新しい交流やサービス、商品を投入し、うまくいかなければアップデートして次を出す。そういう創造性や改善が大事だ」と話す。

JTBの基盤である旅行事業でも、提供価値の転換を進める。青海氏は、旅行手配という機能を提供する会社から「価値を提供する会社に変わるということ」と説明し、「他社にはない、魅力的で希少でワクワクする体験をどれだけ作り、多くのお客様に提供できるか。これが勝負の種になる」と力を込める。

その転換を支えるのが、社員一人ひとりの現場力だ。旅行相談や目的地での滞在、イベント会場などで、顧客の言葉だけでなく、表情や動きからニーズを感じ取る力を重視する。青海氏は「現場で培う感性は、AI時代の最大の競争力になる。AIが生活に入れば入るほど、逆にリアルな交流の価値は上がる」と見る。

新社長としての重責を日々かみしめながらも、青海氏に迷いはない。「やるべきことははっきりしている」。そう語り、浮かべた微笑みには、114年の歴史を受け継ぎながら、JTBを次の成長へ導き、変革をやり抜く覚悟がにじんだ。

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