エクスペディアが日本市場で目指す次の成長とは? 20年の軌跡と次の変革を日本トップに聞いた

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2006年11月に日本でサービス提供を開始したエクスペディアが、2026年で20周年を迎える。この20年間で、日本の旅行市場を取り巻く環境は大きく変化した。そのなかで、同社はグローバルOTAとして日本市場で何に注力してきたのか。そして、今後の展望とは?

2007年、初期メンバーとしてエクスペディア・ジャパンに参画し、現在はエクスペディアホールディングス代表取締役兼エクスペディア・グループ リテール日本統括ディレクターを務める木村奈津子氏に聞いた。

20年間の旅行トレンドの変化

エクスペディアは、この20年間で日本の海外旅行市場に大きな影響を与えてきた。同社をはじめとするOTAの台頭によって、海外旅行の予約はオフラインからオンラインへの移行が劇的に進み、スマートフォンの普及と浸透とともに、モバイル比率も急速に増えていった。現在、エクスペディアの国内におけるモバイル予約比率は7~8割まで拡大しており、木村氏は「このデジタル化は本当に大きな変化」と振り返る。

また、その予約方法の変化に合わせて、個人旅行化が加速した。木村氏は「旅慣れてくると、朝から晩まで決められた予定で動くよりも、自分で好きなように動きたいと思う旅行者が増えてきた」と話し、そのトレンドをエクスペディアが日本市場に参入した後に進んだ円高とアジアを中心としたLCCの普及が後押ししたと分析した。

コロナ禍を経て、トレンドはさらに変容する。消費者マインドとインフレや円安などの市況の変化は、日本人の海外旅行にも大きな影響を与えた。木村氏は、コロナ禍後の市場について、大きな需要の変化を3つ挙げた。まず、海外旅行の割高感が増すなか、「コストが高くなる欧米は敬遠され、韓国やベトナムなどコスパ重視の旅行先に需要がシフトしてきた」と説明する。

次に、「なんとなく観光するという旅行から目的を持った旅行への需要が明らかに増している」と指摘した。例えば、エクスペディアのデータからも、ある時点で予約が急激に増えるケースが見られ、その背景には推し活、スポーツ観戦、聖地巡礼、ライブなどイベント開催時期と重なる傾向があるという。

加えて、木村氏は日本特有のトレンドとして、コロナ禍後に一人旅が増えてきたと指摘する。グローバルの調査でも、他国と比較してその傾向は顕著だという。また、単純に一人で旅をするだけでなく、若者の2、3人の小グループでは、宿泊先は同室でコストを抑え、日中はそれぞれ自由に別行動する旅の仕方も増えているという。

エクスペディア・ジャパンの20年をけん引してきた木村氏マーケティングのローカライゼーション

木村氏は、エクスペディア・ジャパンにとって最初の大きな転機として、2010年にブランディングを本格化したタイミングを挙げた。「世界最大級のOTAエクスペディアと伝えても、日本では刺さらない。やはり、日本独自のブランディングをしっかりしていく必要があった」と振り返る。重視したのがマーケティングのローカライゼーションだ。

木村氏は、本社経営陣に対して、日本と米国とのマーケティング・アプローチの違いについて、エリン・メイヤー氏の「カルチャー・マップ」を活用しながら何度も説明したという。特に、米国人が好むローコンテクスト(誤解を防ぐためにすべてを言葉にして明確に伝えるコミュニケーション)と日本人が好むハイコンテクスト(言葉にしなくても背景や空気を察するコミュニケーション)の違いを丁寧に説明し、日本のローカライゼーションを進めたという。

2010年に公式マスコットとしてクマのキャラクター「エクスベア」を導入した際も、日本の文化的背景を説明し、本社経営陣を説得した。また、タグラインについても、米国の文言をそのままトランスレーション(翻訳)しても日本人には響かない。創作を加えたトランスクリエーションが必要との考えから、コスパの良さや選択肢の多さなどを訴求する「かしこい旅、エクスペディア」とした。特に、日本で知名度を上げる目的で、Expediaを「エクスペディア」のカタカナで表記することにこだわったという。

加えて、木村氏はローカライゼーションの例として、海外航空券の予約時に姓名の入力順を誤る(逆になる)問題を挙げた。「航空券の姓名を逆に入力してしまうと搭乗できないことを知らない人がまだ多い。この問題はずっと燻っている」と話す。エクスペディアでは、長年にわたって日本サイトのUIの改善を進め、コロナ禍後も改善プロジェクトを発足させた。

木村氏は「多様なプレーヤーがいるなかで、なぜエクスペディアで予約しなければいけないのか。訴求ポイントをその一つに絞って、それをしつこくコミュニケーションすることが大事だと考えた」という。エクスペディアの特徴の一つである「最低価格保証」も継続して訴求し、認知を高めていった。

日本ではカスタマーサポートが重要

もう一つ、日本市場で注力したのがカスタマーサポートだ。

「日本では、安心安全がとにかく重要。いくら素晴らしいブランディングをしても、良いプロダクトがあっても、トラブルに対応できなければ、絶対にリピートしてくれない。クチコミにも影響する。カスタマーサポートが悪ければ、それはブランディングにも跳ね返ってくる」

エクスペディアは、2010年に日本語カスタマーサポートを開始し、2011年には24時間年中無休の日本語電話サポートへの拡充した。欧米現地で旅行者がホテルにチェックインする時間は、日本時間で夜になることが多いことから、コストはかさむものの24時間体制にこだわり、コロナ禍の期間を除いて継続している。木村氏は「日本が世界で一番、カスタマーサポートに労力を割いている。そこは自負している」と胸を張る。

エクスペディアは、日本市場に参入以降、ローカライズで「日本仕様」にしていくことにフォーカスしてきた。一方で、木村氏は「日本仕様にすれば必ず成功するというものではない」とも話す。顧客の好みや傾向も時代とともに変わってくるため、「グローバルトレンドを生かしながら、ローカライズを進めるハイブリッドが必要になってくる」との認識も持つ。

エクスペディアは20周年記念祭も展開パートナーとしてのエクスペディア

消費者向けのBtoCの取り組みに加えて、パートナーとのBtoBの関係も重視している。木村氏は、BtoBの側面からエクスペディアの認知を高めるきっかけとなった出来事として、2013年のJTBとの業務提携を挙げた。「オフラインの旅行会社から競合視されることも多かったが、『競合相手ではなくパートナーになれる』と考え方が一気に変わった瞬間だった」と振り返る。

グローバルOTAとしての強みはあるが、国内宿泊施設の在庫では弱みがあったなかで、JTBとの提携をきっかけに、BtoBの提携が進み、「ウィンウィンの関係で業界全体でこう盛り上げていけるという雰囲気に変わった」という。こうした在庫連携の広がりが、現在のインバウンドの受け入れにつながっている。同社によると、2023年に訪日した米国人の約5割がエクスペディア経由で予約した旅行者だったという。

「パートナーとリレーションを作っていくのは非常に大事」と木村氏。その姿勢はDMOや観光局などとの提携にも現れている。特にコロナ禍後、日本人の海外旅行促進を目的に、ハワイ、タイ、韓国、台湾など人気の旅行先のDMOとデスティネーションマーケティングを展開してきた。こうした取り組みは、日本国内でも進めていきたい考えだ。

木村氏は「BtoCと BtoBがともに成長をすることで、需要と供給のエコシステムが回り、顧客とサプライヤーの双方に貢献することができる」と話す。ブランドに投資し、ブランドが成長すると、サプライヤーはただ在庫を提供するだけでなく、ブランドとして信頼するようになる。「BtoBとBtoCとのシナジーは実は大きい」と付け加えた。

進化するAI、計画支援から背中を押す存在に

エクスペディアは、OTAであると同時にテクノロジー企業だ。エクスペディアの歴史は技術開発の歴史でもある。近年ではOTAとしてAIの開発・実装を先駆的に進めてきた。

そのなかで、木村氏はまず、旅行プランニングでのAIの強みを強調した。そのひとつの例として挙げたのが「AI Filters」と「Property Q&A」だ。従来の細かい検索条件だけでなく、自分の言葉で希望を伝える新しい探し方を可能にしている。

また、エクスペディアは、Instagramを活用した新しい旅行計画ツール「Expedia Trip Matching」を米国で提供している。このツールは、消費者が旅行に関連するInstagramのリールをエクスペディアと共有すると、その情報を基にパーソナライズされた旅行の推奨を受けることができるものだ。

木村氏によると、エクスペディアのサイトを訪れる顧客の約7割はまだ旅行先を決めていないという。こうした背景から、「AIが背中を押す役割は大きい」と話す。

一方で、木村氏は「AIは旅行先の選定や計画を効率化するが、最終的な決済やカスタマーサポートの部分では、信頼できる旅行会社として存在していきたい」と強調した。

国内旅行に注力、若者ユーザーの拡大も

木村氏は、「今後は、日本人の国内旅行にも力を入れていく」考えを示す。日本市場でエクスペディアは海外旅行あるいはインバウンドのOTAというイメージが強く、国内旅行は課題の一つだった。

その課題解決に向けて、今後、日本の自治体やDMOなどとパートナーシップを組みながら国内旅行の促進に力を入れていく。木村氏は「エクスペディアは、海外旅行に行く質の高い顧客を持っている。その顧客を国内に送客することができる」と話す。

また、エクスペディアのグローバル検索ランキングでは、国内旅行が弱ければインバウンドのランキングにも影響が出るという。このことから、日本国内のサプライヤーに向けては「国内とインバウンドは切り離せないことを伝えていきたい」と話す。

このほか、エクスペディアの顧客は30代~50代の個人旅行者が主流だが、「今後は国内・海外とも20代の層をもっと広げていきたい」と意欲を示した。

日本人の海外旅行と国内旅行、外国人の訪日旅行。そのすべてをつなぐグローバル・トラベル・プラットフォームとして、日本市場での役割はさらに広がっていく。エクスペディアは次の20年、どのような成長と革新の軌跡をたどるのか。AI時代に、グローバルの強みと日本市場への深い理解を掛け合わせ、新たな旅行体験を生み出す挑戦が続く。

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