東武トップツアーズは一般団体旅行や教育旅行など、貸切バスを利用する受注型企画旅行の業務に、ナビタイムジャパンの「行程表クラウド」を活用している。
同サービスは、旅行会社や貸切バス事業者の行程表の作成・管理ができるクラウドサービス。大型バスが走行可能なルートと所要時間を算出し、ドライバーの運転時間や休憩、運賃など、安全運行や法令遵守に関わる確認も支援する。業務効率化と安全性の向上を支えるツールとして導入する事業者が広がっている。
団体・教育旅行の現場で東武トップツアーズは何を課題とし、行程表クラウドでどのように改善しているのか。両社に、業務の変化から導入効果、今後の展開まで聞いた。
案件ごとに条件が違う、団体旅行の難しさ
東武トップツアーズでは、社員旅行や研修旅行など法人向けの一般団体旅行に加え、修学旅行などの教育旅行を全国の拠点で手掛けている。東京2020大会や大阪・関西万博の関連事業にも携わるなど、国際会議や大型イベントの運営にも強みを持ち、団体旅行領域で豊富な実績を持つ。
受注型企画旅行では、顧客の希望に応じて一から旅行を組み立てる。同社の団体営業は顧客単位のため、営業担当者は依頼に応じて国内各地から海外まで、多種多様な行程を組む必要がある。
一つの案件で複数の見積もりを求められることも珍しくない。「お客様の希望や予算に応じて、移動手段や方面を変えた複数の選択肢を提示する必要がある」と東京法人中央事業部第1営業部係長の山﨑哲平氏は話す。受注前の段階から複数プランを立て、所要時間や料金といった前提情報を調べて、迅速に見積もりを提示することが求められる。
さらに、バスの配車場所にも細心の注意が必要だ。大型バスの乗降場所が用意された観光施設だけではなく、顧客や学校が指定する場所への配車や、学校周辺のスクールゾーンや時間帯規制など、特定の場所・時間への対応も求められる。「大型バスが停車できるのか。そもそも、そこまで進入できるのか」から確認しなければならない。
従来、こうした判断を支えていたのがベテラン社員の経験知だった。一般車向けの地図サービスで算出した所要時間に「この時間帯は混むから20分足そう」と経験で補正していた。このため、業務が属人化しがちだったという。
埼玉教育旅行支店係長の佐藤建太氏は「経験豊富な担当者は学校周辺の道路やバスの進入ルートまで頭に入っているが、経験の浅い担当者や行ったことのない地域では判断が難しい。作った行程をバス会社に見せて、初めて『この道は通れない』と分かることもあった」と振り返る。ある施設から「駐車可能」と聞いて準備を進めたが、直前で進入許可証が必要と判明し、急遽、タクシー手配をしたこともあったという。
案件ごとに異なる複雑な確認業務を、誰もが迅速かつ正確に進められるようにする。それを支える手段として導入したのが、行程表クラウドだった。
(左から)東武トップツアーズ 東京法人中央事業部第1営業部係長 山﨑哲平氏、埼玉教育旅行支店係長 佐藤建太氏
旅行会社が判断・説明の「根拠」を持つ意味
同社が実感している行程表クラウドの価値の一つが、行程が法令や行政基準に適合しているか把握しやすい点だ。作成した行程で、ドライバーの運転時間や休憩、運行区域など、国が定めた基準に合致していない場合にはアラートが表示される。
旅行会社にとって、特に複雑なのが運賃計算だ。
貸切バスの運賃は、国が定めた基準額に基づき、事業者が自ら設定して国へ届け出る仕組みとなっている。安全運行のコストを確保し、過度な価格競争を防ぐ目的で設けられた制度で、届け出た運賃を下回る価格での運行は認められていない。
さらに実際の運賃は、実走行距離や時間、回送距離に加え、ドライバーの連続運転時間や交代要員の有無などで大きく変動する。予定していた道路が大型バスでは通行できずに迂回すれば、距離も時間も変わる。旅行会社は旅行を企画・手配する立場として法令を遵守し、適切な手配が求められるため、受注前に正確に計算する必要があるが「かなり難しい業務」と山﨑氏は明かす。
この課題に対し、行程表クラウドは大型バスが走行可能なルートを前提に、距離と時間を算出。運行エリアの管轄運輸局が公示する基準額をあてはめ、下限運賃の目安を確認できるようにした。
山﨑氏は「顧客やバス会社に対して、根拠を示しつつ説明や交渉ができるのは、大きなメリット。顧客の要望と自社収益を踏まえたうえで、競争力のある見積もりを示す土台が整った」と話す。
例えば、顧客には「この予算では運賃の下限割れになる」「ドライバーが2人必要になるため、料金が上がる」と金額の理由を説明しやすい。同時に、バス会社との交渉でも適切な料金を客観的に判断でき、交渉自体も効率化された。
「精度が甘い見積もりで安請け合いをすれば、どこかにひずみが生じ、結果として顧客の期待に応えられなくなる。それが招待旅行なら、顧客のお客様にも影響が及ぶ」(山﨑氏)。根拠をもって説明できることが、営業現場では大きな意味を持つ。
有料道路の料金の確認も効率が上がった。行程表クラウドでは、特大車料金を自動で表示するので、見積もりの精度向上と作業時間の短縮の両方につながっている。
作成した行程の所要時間から、法令をチェック。基準を超える場合にアラートを表示する
ベテランと若手が活躍する仕事の進め方に
導入から約2年が経ち、東武トップツアーズの現場では仕事の進め方に確かな変化が表れている。
若手社員が多い山﨑氏のチームでは、行程表クラウドの利用を必須としている。「日程は未定だが、予算確保のために概算を知りたい」という顧客の要望に対し、バス会社からの見積もり回答を待たずに、目安の料金を示せるようになった。バス会社の見積もりとの乖離も小さくなり、再見積もりを出す手間が減少。チームでは「仕事が楽になった」と効果を実感しているという。
さらに、業務のデジタル化は働き方の選択肢も広げた。「従来、行程表作成や手配業務は出社しなければできないことも多かったが、リモートワークでも作業がしやすくなった」と山﨑氏は話す。
教育旅行の業務にも変化が生じている。以前は営業担当者が担当校の周辺を歩いてスクールゾーンなどを実地確認していたが、行程表クラウド上で判断できるようになった。チーム内のアンケートでも「行程表クラウドがあって良かった」の声が圧倒的だという。
当初は、長年同じ地域や学校を担当し、経験だけで行程を組めるベテラン社員との間には、活用頻度の差もあった。しかし、道路状況や法令は日々更新される。「人がすべてをアップデートし続けるのは難しい」と佐藤氏は指摘する。
そんななか、若手社員が行程表クラウドで、数クリックで精度の高い見積もりを出す姿を見て、ベテラン側から「勉強会を開いてほしい」という声が出た。「若手がベテランに使い方を教え、ベテランが経験に基づく知見を若手に返す。世代間のコミュニケーションのきっかけにもなっている」(佐藤氏)。業務効率化にとどまらない、新しい仕事の進め方が生まれつつあるという。
(左から)ナビタイムジャパン 行程表クラウド事業 企画推進チーム 酒井美帆氏、セールス・アライアンスマネージャー 渡辺俊彦氏
安心安全の向上へ、現場の声で進化
行程表クラウド自体も、現場の声に応じて進化を続けている。ナビタイムジャパンは2026年7月、大型バスの路上駐車のリスクを運行計画段階で可視化し、乗降や待機場所の検討に役立てられる「駐停車禁止区間アラート機能」の提供を開始した。
開発のきっかけは、東武トップツアーズからの声だった。関東の支店が盛岡駅の大型バスの配車場所を把握できず、現地の支店に問い合わせたところ、前日にも別の支店から同様の質問があったという。
ナビタイムジャパンで行程表クラウドを担当するセールス・アライアンスマネージャーの渡辺俊彦氏は「路上駐停車のリスクを自動判定できれば役立つと考えた。走行ルートだけでなく、駐停車場所の決定まで支援し、安全な旅行実施につなげたい」と説明する。
行程上の停車地点が「駐車禁止」「駐停車禁止」のエリアの場合、編集画面上でアラートを表示。印刷して配布も可能同社企画推進チームの酒井美帆氏は「安心安全な旅行の実現に向けた情報共有の円滑化も、我々の役割として考えている」と話す。もともと行程表クラウドでは、旅行会社とバス会社が同じ行程表をもとにやり取りができる。さらに、2026年9月には、道路のヒヤリハット情報などを共有できる新機能も追加。「旅行会社とバス会社双方の知見を、安全運行や法令対応にいかす仕組みを目指している」と話す。
AI活用による新機能も追加している。5月には、さまざまな形式で作成された行程データをAIが自動で読み込み、自動で行程表に反映する機能「行程表ファイルインポート」の提供を開始した。団体旅行の主催者や学校関係者から提供される行程案もそのまま取り込めるため、行程表作成のスピードが向上。手動入力の負担軽減と転記ミスの防止にもつながる。
AI活用を推進する東武トップツアーズも、相乗効果に期待する。佐藤氏は「AIを活用してまとめた企画アイデアを行程表クラウドに落とし込み、人が確認をしてお客様の思いを形にする。AIと人の力で、より良い旅行を提供していきたい」と未来像を描いた。
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記事:トラベルボイス企画部



