食で観光客誘致するガストロノミーツーリズム、「小さな村でもできる」可能性をUNWTOと国内事業者が議論

世界中で空前のブームとなっている和食。欧米では"食"をテーマに観光客を誘致するガストロノミーツーリズムが注目されているが、日本も食文化を活かして地域活性化できるのだろうか。

9月に開催された「ツーリズムEXPOジャパン フォーラム2016」の「国内観光シンポジウム」では、日本におけるガストロノミーツーリズムの可能性と課題をテーマに、官民の先駆者たちによる熱い議論が交わされた。

パネリストは国連世界観光機関(UNWTO)のヨランダ・ペルドモ/アフィリエイトメンバー部門長、ぐるなびの久保征一郎社長、新潟市の篠田昭市長、浅田屋の浅田久太社長、富久千代酒造の飯盛直喜社長兼杜氏。モデレーターはANA総合研究所の小川正人副社長が務めた。

「小さな村でもできる」――UNWTO・ペルドモ氏

国内観光シンポジウムでは、まずUNWTOのペルドモ氏が基調講演。ベルドモ氏は、「ガストロノミーツーリズムは本物志向、リピート化、秘境ニーズの高まり、旅のストーリ性、ロイヤリティ重視といった旅行者の志向や社会の変化に合致している」とUNWTOがこの分野に着目する理由を説明した。

美食のまちとして成功している世界の事例としては、スペインのバスク地方や、ワイン発祥の地という歴史を活かしたジョージア(グルジア)のワインツーリズムなどがある。日本については地方各地に魅力があり、「インフラを新たに作る必要はなく、小さな村でもうまく組み立てれば売り込むことができる」と指摘。そのためには、地元の食文化、食事の保全、地元に対する誇り、消費者保護が重要で、リーダーやルールなどのガバナンスモデルの確立が求められることを提示した。

国連世界観光機関(UNWTO)のヨランダ・ペルドモ氏

続くパネルディスカッションでは、ペルドモ氏に加え、日本で食と観光を活かした地域活性に取り組む4名が登壇してプレゼンテーション。ぐるなびの久保社長は、ガストロノミーツーリズムの課題について「東京から人を派遣するのではなく、歴史、文化的背景を理解している地元住民自らが取り組むことが不可欠」と話す。「私は旅すべてがガストロノミーツーリズムに通じると考えている。地域固有のオリジナリティを把握し、情報を磨き上げ、継続的に発信することが必要だ」と語った。

以下に実際にガストロノミーツーリズムに行政・旅館・酒造の立場から取り組む3者の話をまとめた。

「生産者、料理人、消費者をつなぎたい」――新潟市・篠田市長

行政の視点からガストロノミーツーリズムを積極的に推進しているのは新潟市。農業戦略特区に指定されている新潟市は「美食のまち」をスローガンにさまざまなアピールを手がけている。そのひとつが生産者と料理人、消費者をつなぐ取り組みで、日本初のレストランバスの運行「ピースキッチン運動」や、農家と飲食店、料理人と伝統工芸といった異業種の連携による食文化創造支援の事業を紹介。篠田市長は、「新潟のガストロノミーはまだまだスタートしたばかりだが、将来的には農業大国としてのアグリツーリズム、みなとまちとしてのフードツーリズムを包含していきたい」と語った。これに対し、UNWTOのペルドモ氏も「ガストロノミーツーリズムの特徴が、農家、シェフ、飲食店、消費者をつなぐ一気通貫。新潟市の取り組みは世界に紹介すべき事例だ」と評価した。

写真左から、国連世界観光機関(UNWTO)ヨランダ・ペルドモ氏、ぐるなびの久保征一郎社長、新潟市の篠田昭市長、浅田屋の浅田久太社長、富久千代酒造の飯盛直喜社長兼杜氏

「シェフ交換で街の知名度も高める」――浅田屋・浅田社長

さらに民間からは、日本で13しかないミシュランの星付き旅館である金沢「浅田屋」の浅田社長、佐賀・鹿島の造り酒屋で名酒「鍋島」が世界で高く評価されている富久千代酒造の飯盛社長が登壇した。

浅田社長は、世界における和食ブームの現状や、金沢にある料亭の料理人とニューヨークのトップレストランのシェフの交換留学の内容を紹介。「日本の総人口が減るなか、インバウンドの対応は避けて通れない。シェフ交換プログラムは互いの技術修練だけでなく、ニューヨークのトップシェフたちに金沢の食文化を理解してもらい、彼らのSNSなどを通じて街の知名度が上がっているのがメリット」とその効果を話した。

一方で「日本の生産者と海外のシェフをつなぐには時間も労力もかかる。行政とは補助金ありきではなく、マンパワーでの支援での連携を模索したい」との提言も。民間だけの活動の限界を訴えた。

「酒蔵の思い伝えることがおもてなしに」――富久千代酒造・飯盛社長兼杜氏

最後のプレゼンテーションとなった富久千代酒造の飯盛社長は、日本酒の出荷量が減少、蔵数が激減するなかで、名酒「鍋島」が国際的品評会で「チャンピオン・サケ」に選ばれたのをきっかけに、地元の蔵と共同で協議会を立ち上げ酒蔵ツーリズムに乗り出したという。

最初に鹿島市の祭りとの共催で酒蔵イベントを開催したところ、人口3万人の市に3万人の観光客が来訪。住民に自信が生まれ、行政の枠を超えて隣の嬉野市との連携が始まるなど、地道な取り組みが広がり地元の観光収入が増えている現状を伝えた。

「酒蔵の思いをつたえることがおもてなしになるとともに、これから増加するシニアが生き生きと過ごせる地元にしていきたい」と話す飯盛社長に対し、登壇者たちからも「まず地元を大切にすべきという考えに共感する」(篠田市長)、「ガストロノミーツーリズムを通じて地元にお金が落ちるヒントをいただいた」(小川副社長)との声が寄せられた。

ANA総合研究所の小川正人副社長(モデレーター)

日本の各地域で着実に動き出しているガストロノミーツーリズム。ペルドモ氏はパネリストたちを中心とした日本の取り組みを評価する一方で、「アクセス、名物など日本人にとっては自明であるものも外国人にはより詳しく説明しなくてはならない。今後は世界にどう情報発信するかがカギになる」と指摘した。

今回のシンポジウムは、地域住民が自らの魅力に目を向けて磨く重要性、民間と行政の連携など、さまざまな課題も浮き彫りになる有意義な機会となったといえるだろう。

取材・記事 野間麻衣子




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