東京都、「江戸」を切り口に魅力発信、屋形船や花柳界、活弁で歴史文化を体験するモニターツアーを取材した

東京都は2025年11月から2026年1月にかけて、都内観光関連事業者を対象にした「江戸・東京の魅力を活用した観光周遊モニターツアー」を実施した。「江戸から続く東京の歴史・文化」を観光資源としてコースに組み込み、新たな東京観光のモデルコースとして商品化を促す。これにより、国内外の観光客を増やしていくのが目的だ。浅草、日野、日本橋の各エリアで、計3コース・9本のツアーを実施した。

今回取材した「浅草と屋形船で江戸文化体験三昧コース」では、その担い手は少なくなってきたものの、浅草で愛され、磨かれ続けてきた希少な文化体験が用意された。まずは、無声映画の上演中に傍でセリフや語りをつける活弁(かつべん)と、和太鼓や祭礼具の製造・修理や公演企画をおこなう宮本卯之助商店による和楽器演奏の公演。その後、屋形船で浅草の花柳界に所属する芸妓や幇間(ほうかん)による芸と江戸前の食事が提供された。

このうち、活弁は話芸が多彩な日本で生まれた独自の文化だ。近年、国内外で再評価されており、日本文化として活弁士が海外の映画祭に招かれることもあるという。今回のツアーでは、訪日インバウンド向けのツアー化を意識し、邦画・洋画の名場面を英語で上演。活弁士のストーリーに引き込むような名調子に、当時の浅草の庶民が熱狂した様子が思い起こされ、時代を超えた疑似体験をした感覚に包まれた。

声色や身振りや表情を変えて解説する活弁は、世界から注目される伝統芸能に。英語での活弁を披露した活弁士の麻生子八咫氏も海外に招かれて公演するというまた、屋形船で芸妓とともに迎えてくれた幇間は「太鼓持ち」などともいわれた男芸者のこと。ツアーで迎えてくれた幇間の八好さんによると、職業としての幇間は江戸時代の吉原遊郭で確立した。現在、浅草の花柳界にわずか6名のみという、希少な存在だ。芸妓の踊りや唄、お座敷遊びといった華やかな芸とは対照的に、幇間は宴席を盛り上げながらも場を和ませる軽やかな芸で、まさに江戸の“粋”なおもてなしを感じさせる時間だ。

芸妓の舞や踊りと幇間の芸の両方が楽しめる

2026年度も継続予定、商品化を支援するフェーズへ

このモニターツアーは、東京都が2024年(令和6年)度から実施している「江戸・東京の魅力を活用した観光周遊促進事業」の一環。浅草コースのほか、新選組のゆかりの地を巡る「日野で新選組を体感」コースと、木版画や組みひもなどの工芸体験を盛り込んだ「日本橋で江戸の町人文化と伝統工芸を体感」コースを提供した。いずれも参加費は無料。全9本のツアーはすべて定員が埋まり、延べ約200名が参加した。

三味線、和太鼓、尺八の和楽器演奏。プロデュースした宮本卯之助商店は、創業160余年。明治時代に浅草に移転東京都では、参加事業者がモニターツアーを参考にした商品を造成することで、都内全域で歴史や文化をテーマにした周遊観光を増やし、さらなる観光客を呼び込んでいくことを目指している。

なぜ、東京都は「江戸」を切り口にした観光開発に注力しているのか?

東京都産業労働局観光部振興課長の山口繁樹氏は「観光分野のみならず、東京都全体で『江戸・東京』を打ち出し、世界における都市としてのプレゼンスを高める取り組みに注力している」と話す。東京に根付く伝統技術や老舗の産品を「東京の宝物」として磨き上げ、国内外へ発信する「江戸東京きらりプロジェクト」や、2026年3月31日に再オープンを控える「東京都江戸東京博物館」のリニューアルなども、その一環だ。

江戸時代から続いてきた伝統を守り、活性化させ、後世へつなぐ。この営みの循環を含めて東京の魅力とし、世界の大都市にはない固有の価値として訴求していく。この取り組みにおいて、世界の観光の関心が日本に向いている今、江戸・東京の魅力を伝える手段として観光を重視しているという。

活弁や和楽器演奏の公演時は、テーブル上のタブレットで作品を紹介。画面から他言語への切り替えも可能

2年目となった今回のモニターツアーには、1年目の参加者からの「ガイドの質の向上が重要」というフィードバックを反映。ガイドの音声を届けるイヤホンの配布や、タブレットでの多言語案内も用意した。また、日本橋のツアーではAR(拡張現実)技術を用いて、現実の世界に江戸時代の風景を重ねて見せる演出も提供した。

本事業は2026年(令和8年)度も継続する計画だ。本格的に商品化に繋げるフェーズとし、観光事業者がツアーを売り出せるよう、補助金など様々な形での支援を検討している。

料理とともに芸妓や幇間との会話を楽しむ。訪日客からは食材への質問がされることが多いといい、より良い体験ができるためのサポートを考えたい

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