世界の冬リゾートで注目は「アジア」、スキー・スノボ旅行市場の現状と未来を国際会議に参加して考えた【コラム】

こんにちは。ベンチャーリパブリックの柴田です。

僕の今年の年明けはヨーロッパでスタートしました。皆さんもご存知のWIT –Web In TravelやPhocuswrightなどを傘下に抱える、North Star社(トラベル業界における世界最大のメディアグループ)が運営するスノーリゾート・マウンテンツーリズムをテーマにしたカンファレンス“European Mountain Summit” に招かれスイスへ飛んだのです。

マウンテンツーリズムだけに特化したこのカンファレンス、なんと42年も前にアメリカで始まったイベントとのこと。改めてアメリカにおける業界の奥の深さ、バイタリティも感じさせられました。スキーシーズン真っ只中、今回はこの市場の話を少ししてみようと思います。

同カンファレンスで登壇中の柴田氏

スノー・マウンテンツーリズムも「アジア」に注目

まず、この世界でも注目はアジアです。アジアとスノー・マウンテンツーリズム市場との関係でまず忘れてならないのは、冬季オリンピック。この先2018年の韓国平昌、2022年の中国北京と、何とアジアにて2回連続で開催されることが決まっています。こんな中で、スノースポーツへの関心がアジア圏、特に中国にて急速に高まっている様子です。

実は中国では、2015年の時点で既に年間1,250万人ものスキー・スノーボード旅行が発生しているらしく、中国政府は北京五輪までの今後5年でアクティブなスキー・スノーボード人口を3億人まで増やす目標を掲げているとの事でした。またまた中国の桁違いの大きな数字を聞かされてびっくりです。

ここ数年、日本のスノーツーリズム市場も一般のツーリズム市場と同様に北海道・ニセコや長野県・白馬などを中心にインバウンド需要が大きく伸びてきています。これから大きく増えるであろうこうした中国人スキーヤーや、既に増え始めている東南アジアからのスキー旅行者が、日本の各スノーリゾートを大幅に活性化させる可能性が十分あると言えます。

そんな中、ヨーロッパのスノーツーリズム市場は?というと、こっちは元気がない様子でした。地球温暖化による近年の雪不足も原因のはず。カンファレンスの行われたスキーリゾートCrans Montanaは、雪不足もあってリフトやゲレンデの稼動は6~7割程度。クリスマス休暇も終わり平日だったこともあってか街もスキー場もかなり閑散としていました…。

ヨーロッパのスキー人口は減少の一途のようで、市場は明らかに縮小傾向。カンファレンス冒頭では“(ヨーロッパでは)女性は60歳、男性は65歳になるとスキーを辞めてしまう。どうやってこれを防ぐべきか?”というテーマが提起されていました。

また“増えゆく中国などのアジアからの初心者スキーヤーにどうやって人生最初のスキー体験で素晴らしい体験をしてもらいリピートスキーヤーになってもらうか?”、“スキー・スノーボード以外の目的のためにマウンテンリゾートに訪れてもらうための施策”、“世界に誇るスイスの鉄道システムを旅行者に存分に利用してもらうためのSwiss Travel Passの成功事例(2011年から2016年にかけて売上は56%増加。日本の外国人旅行者向けJR Passと同じような取り組み。)”などのテーマが話されていました。

サミットでは、夜間に屋外でパーティーも

日本市場の特徴は旅行代理店の存在

人口減少、社会の老齢化によるこうしたマウンテンレジャー市場の規模縮小は実はヨーロッパのみならず韓国、日本でも顕在化しています。

観光庁が発表した資料によると、日本のスキー人口は現状1998年のピーク時1,800万人に比べて約半分レベルにまで減ってしまっています。近年、多少回復してきているようですが、日本がスノー・マウンテンツーリズムの本場であるヨーロッパからこのようなテーマで学べる点は間違いなく多いはずです。

ヨーロッパと日本の類似点はもう1つあります。それは、流通チャネルとしての既存の旅行代理店の存在です。オンライン旅行会社(OTA)による市場寡占、個人旅行化(FIT化)が大きく進む北米と違い、ヨーロッパではリゾートや宿泊施設は従来型のオフライン旅行代理店・ツアーオペレーターにまだまだ販売を大きく頼っているようで、本カンファレンスでも“OTAだ、モバイル販売だ、と言うが実際に販路として頼れるのはなんだかんだ既存の旅行代理店ではないか!”という発言がローカルオーディエンスから何度か出ていました。

弊社運営のTravel.jpでも“スキー・スノーボード旅行特集” は毎シーズン百万人規模の利用者がいる人気サービスなのですが、実は弊社ユーザーが実際に探している旅行商品の殆どが、こうした既存の旅行会社が販売しているパッケージツアーなんです。

スキー場での柴田啓氏

僕自身学生時代に競技スキーをやっていたこともあって、スキー・スノーボードには毎年行くので実際に利用することも少なくありませんが、こうしたパッケージツアーはオンラインで個別に予約する場合に比べてまだまだ価格競争力もあり、種類・在庫も豊富であることが多いのが実態です。

一方で、ヨーロッパとの相違点という意味では、日本のスノーリゾートはヨーロッパに比べて雪は豊富、雪質もいい、リフト代などの費用も安い(リフト代はヨーロッパのみならず北米と比べても明らかに安い)。さらに温泉もある、と好条件で、インバウンド旅行者にとっても魅力は豊富です。日本にとってあらためて素晴らしい観光資産だと感じさせられます。

最後に。スキー・スノーボードは、家族や友だちなどのグループで行くことが多いレジャーです。そう、前回のコラムでも取り上げた民泊にぴったりなんです。

2年後、3年後は、Travel.jpにも弊社のクライアントである国内の旅行代理店やAirbnb(先日のAirbnb Trips の発表でAirbnbは自らが旅行会社になることを既に表明している)などのプラットフォーマーが扱う“民泊利用の魅力的なスキー旅行パッケージ”が溢れているのかもしれません。

柴田啓(しばた けい)

柴田啓(しばた けい)

ベンチャーリパブリック グループ代表。シンガポール、東京を拠点として、旅行比較・メディア「トラベルjp」、チャットによる出張手配サービス「トラベルjp for Business」、グローバル旅行メディア「Trip101」を運営。デジタルxトラベルがテーマの国際会議「WIT Japan & North Asia」実行委員長、ベンチャー三田会会長なども務める。アジア太平洋地域にてトラベルスタートアップへのエンジェル投資も手がける。

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