JTB連結決算は減収減益、個人旅行とネット販売に課題、今後はLCCや訪日ネット販売など強化へ -2016年度通期

ジェイティービー(JTB)が発表した2017年3月期(2016年4月1日~2017年3月31日)の連結業績は、売上高が前年比3.5%減の1兆2965億3800万円、営業利益が37.0%減の101億7500万円、経常利益が42.0%減の129億6200万円、当期純利益が58.4%減の52億3000万円で、減収減益となった。旅行事業の分野別の業績は最下段に記載。

記者会見で代表取締役社長の髙橋広行氏は減収減益の要因が、個人旅行事業にあったことを説明。主力の自社企画商品は、国内旅行のエースJTBが4.8%減、海外旅行のルックJTBが5.5%減と振るわなかった。

特に海外旅行は、期間中の日本人の海外旅行者数の伸び率が前年比6.8%増(1748万人:JNTO推計値)に対し、海外旅行の売上高が3.8%減(1623億円)にとどまったことに、「(伸び率に)10%の開きがある。その最大要因はパッケージツアー中心のビジネスモデルが、FIT(個人旅行)化とウェブ化の市場変化に追いついていなかった」と、市場ニーズと同社商品・サービスとのギャップへの認識を示した。

この点は、好調の訪日旅行でも表れているという。初訪日の旅行者を中心に堅調だったツアー型のサンライズツアー(取扱人員10.3%増)や、MICEを中心に拡大した法人営業に対し、個人型販売サイトのジャパニカン(JAPANiCAN.com)の取扱人員は9.4%減に落ち込んだ。髙橋氏は、「根本の原因はサイトの力、UI/UXが劣っていた」と述べ、今後は相当な投資を入れて、使い勝手と商品力を改善することも強調した。

このほかJTBは、同期間中に発生した約678万件(当初発表値から修正)の個人情報に関する重大インシデントについて、これによる売上げの大幅な減少などの直接的な影響はなかったという。ただし、JTB側がテレビCMや広告を自粛したことで、売上減の影響はあったと認識。システムセキュリティ対策に講じた費用は計上したが、金額は非公表とした。その費用が含まれる管理費合計では、11億円増の503億円。

経営資源を法人・訪日・グローバル事業に集中、店舗ネットワークは再編


JTB代表取締役社長の髙橋広行氏

2017年度の業績見通しは、売上高が6.4%増の1兆3800億円、営業利益が11.8%減の90億円、経常利益が23.1%減の100億円、純利益が15.4%減の44億円と増収減益を想定。利益を2ケタ減とするのは、「持続的成長を目指し、より投資を積極化する」(髙橋氏)のが理由だ。

グローバルOTAなど新たな競合相手の台頭や国際情勢の不透明さといった厳しい環境を踏まえ、2017年度は国内法人事業と訪日旅行、グローバル事業を中心に拡大する方針。特に「訪日・仕入れ・事業開発」を重点推進テーマとして経営資源を集中し、力を入れていく。

特に仕入れは、2016年度の減収要因となった個人旅行事業でも重点ポイントとして推進。航空座席の買取やチャーターなど、リスクをとる仕入れを強化する。日本発の航空座席数が増加するローコストキャリア(LCC)は、従来の旅行会社のビジネスモデルになじまず、オンライン化・FIT化の促進とともに旅行会社の個人旅行の数を落とす要因にもなっていたが、LCCの仕入れも強化し、個人旅行の回復に繋げる。

また、オンライン戦略については、国内宿泊の3割、ルックJTBも都市型ツアーを中心に20数%がオンライン販売に代わり、その比率は今後も高まるとしながらも、「ウェブは店舗やコールセンターと同様に一つのチャネル」としての位置付け。「エクスペディアやプライスラインなど、日本に来ているグローバルOTAと同じ土俵に立つことは考えてない」と、あくまでリアルエージェントとしてのオムニチャネル展開を強調した。

ただし、商品や店舗展開ではリアルとウェブの配分を再構築し、戦略を変える方針。「単品販売や低価格商品はウェブ販売にシフト。店舗はコンサルティングの必要な高額商品に棲み分ける」とし、「店舗ネットワークの再編も視野に入れている」との考えを示した。

一方、大幅なテコ入れを明言したジャパニカンは「別格」と表現。「国内の旅館・ホテルの圧倒的な在庫力は、グローバルOTAと十分に戦える」と自信を示す。訪日旅行のBtoCのほとんどがオンライン販売である現状、在庫力と資本提携を行なうアソビューのタビナカ体験や、2016年度から訪日旅行でも本格稼働したシートインコーチ事業(乗合バスツアー)などの着地型商品を武器に、グローバルOTAに対応しうるサイト構成をする方針だ。

このほかJTBでは2016年12月から、ICTベンチャーファンド「グローバルブレイン」への戦略的出資を開始。先ごろも、同ファンドを通し、「遠隔存在」技術開発のテレイグジスタンス社への出資を決定するなど、新事業へのアプローチを加速している。これについて高橋氏は、「スタートアップの事業が世の中のスタンダードになったときに関わっていたい」と説明。「今までは出来上がってからの反応だったから、川下での対応しかできなかった」と述べた。

なお、2017年度の業績見通しについて、2018年度から予定する再統合・経営改革に係るコストは含めていない。

【JTBグループ2016年度(2016年4月~2017年3月)連結決算 旅行事業 分野別業績】

  • 国内旅行
    • 売上高:5790億円(4.2%減)売上高は過去2番目の高い水準。
    • 売上総利益:1181億円(8.1%減)
    • 商品別売上:エース4.8%減、団体1.2%減、メディア16.2%減
    • その他トピック:方面別では熊本地震の影響で九州方面が減少、前期好調の北陸が反動で減少。国策に連動したDMC戦略に一定の効果。
  • 海外旅行
    • 売上高:4623億円(3.8%減) 燃油サーチャージ減少分241億円を修正すると4864億円で、前年比61億円プラス。「減収傾向に一定の歯止めをかけられた」(髙橋社長)と評価。
    • 売上総利益:1032億円(0.2%減)
    • 商品別売上:ルック5.5.%減(119億円減収)、団体2.2%増(30億円の増収)、メディア17.5%減
    • その他トピック: リオ五輪では延べ5000人を送客。ルックの方面別では北米が堅調、欧州がテロ等の影響で減少
  • 国際旅行(訪日旅行含む)
  • 売上高:1277億円(4.3%増)
    • 売上総利益:274億円(3.1%増)
    • 商品別売上:訪日旅行9.2%増の730億円(円高目減り修正で実質12.6%・84億円増)、グローバル事業1.6%減の547億円(実質9.5%・62億円増)
    • その他トピック:訪日旅行のうち、ジャパニカンの取扱人数は9.4%減、サンライズツアーは10.3%増。JTBが出資するスペインのヨーロッパ・ムンドのシートインコーチ事業を、訪日旅行やハワイ・欧州の英語圏で拡大。着地型商品としてグローバルOTAへ販売提携も

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